1.はじめに
新課程理科の教育課程では、多くの問題点が指摘されている。また、理科離れの傾向も依然として続いている。今回の提言では、どの科目を何単位いつ学ぶのかではなく、内容をどうすべきかを中心に取り上げよう。物理の特に力学について中心に提言しよう。
2.力学分野は分割すべきものではない!
つらつらと過去の指導要領を眺めてみるに、昭和54年(昭和57年より)の物理は、「理科T」と「物理」で完結していた。それが、平成元年(平成6年より)の改訂で、「物理TB」「物理U」となり、2つに分割された。今回平成11年(平成15年より)の改訂では「理科総合A」「物理T」「物理U」と一部内容がダブっているという始末である。しかも、「理科総合A」は選択必修なので、生徒によっては、物理は「物理T」「物理U」のみとなる可能性もあるわけだ。
平成元年に「TB」と「U」に分かれたときに、その分け方を見て驚いた。力学の一部(具体的には円運動や単振動)が「U」に移ってしまったのだ。平成11年では「T」で二次元運動が簡潔にされてしまい、「U」に送られた。また力学的エネルギーは「T」で学ぶのに、「U」で運動量を学ぶ。まさに力学分野がブツブツに切断されたという印象を受ける。
物理において、分野を分割するのはどうかと強く思う。特に力学分野は、高校物理の全ての基礎になる分野であると常日頃感じている。運動の法則を学んだのちにエネルギーや運動量の概念を知り、いろいろな運動の身近なものとして円運動や単振動を扱ってこそ、次のたとえば、波動や電磁気学へと進めるのであると思う。力学的エネルギーと運動量の両方の見方で現象を見ることできずに終わってしまう生徒も多いのではないか。嘆かわしい限りだ。
文部科学省は身近な物理を強調している割には、非常に限定された「特殊な物理」しか扱っていないという矛盾がなんとも気になる。放物現象一つとっても、身近なのは二次元運動であり、一次元運動はあまり身近とはいえないのではないだろうか。この改訂結果として、「役に立たない物理」に成り下がっていやしまいか? ここから、さらに理科離れに拍車がかかると思うのだがいかがだろうか。
3.分野を分割しないのならばどう学ぶのが理想的か
ここからは、具体的に分割しないでどう学ぶのがよいかを自分なりの考えを提言していこう。
まず、高校課程の物理学は、質点の運動に限ることがよかろう。剛体は除外すべきだ。
速度・加速度、力、運動の法則とこのあたりは、先にも述べたが、身近な現象の大半は二次元現象なので、直線運動の後に必ず平面運動を扱うべきだろう。すると、ベクトル演算等の数学の知識が必要になる。従来は数学で学ぶまで待っていたと思うのだが、このところ、授業をしながら、物理をするうえの道具として、物理で必要最小限の数学を扱ってしまえばいいのではないかと思うようになった。ただ、微分・積分に関してだけは、触れないという現行の方針には大賛成である。グラフの傾きとか面積といった表現にとどめておくのがいいと考えている。
「理科総合A」および「物理T」では、その後エネルギーに入っていく。運動量とエネルギーはどちらを先に学ぶのがよいかと考えたところ、エネルギーを先に学ぶほうがよいだろうと考えるようになった。そこで、仕事とエネルギー、力積と運動量の順で、扱いたいところだ。この際、学習指導要領では熱力学的な話をどうしても挟みたいようだが、運動量を学んでその後分子運動論を展開すべき内容であるので、割愛したいと思う。分子運動が熱や圧力を生み出すという話のほうが論理的にすっきり理解できるからである。
仕事の定義に関してであるが、ベクトルの内積を用いる定義をしっかり教えたい。何度も繰り返すようだが、平面運動が身近なのだから、直線運動で満足しないようにすべきだろう。下手に、"移動するのと同じ向きの成分"などと曲げて紹介するのは後の理解度に悪影響を及ぼしかねないのではないか。
慣性力、円運動、単振動、惑星の運動と、少々複雑な運動へとこの後進んでいくという流れは継承したい。
ここまで学んで、力学終了とすべきだろう。途中で分野を分割して、波動や電気を学ばせることに何かメリットがあるとは到底思えない。波動は動いていて理解が難しいのだが、先に円運動と単振動の関係を知ることで、より具体的にイメージできるようになるはずだ。電気にいたっても、仕事やエネルギーの関係が、電位やジュール熱と結びつきやすい。
物理は、完全なる積み重ね学問である。分野ごとに完結させることで次へのステップが踏め、理解ができるのだ。途中でブツブツ分けると、現象紹介科目に成り下がってしまい、論理的思考能力が育たず、いわゆるものごとが考えられない人間の育成を手助けすることになってしまう。
4.おわりに
物理を学ぶことで、物事が論理的に考えられ、過去の知識を活かすという経験を積むことで、よりよい人生を送れる人間形成に役立つはずである。あきらめずに、思考できる子どもたちを増やしていきましょう!
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