生徒の実態の把握による脱教科書&脱問題集宣言!
(2004年8月4日 全国理科教育大会奈良大会研究協議意見提示にて発表)

岐阜県立各務原西高等学校 松野聖史

1.はじめに
 考査前の生徒との問答。「あ〜、今度のテストの範囲はここだ。」「この問題は出ますか?」「そうだなぁ、それは範囲内だ。」「出ますか?」「だから、範囲内。」「出るか出んのかそこを教えて。」どうも現状では、大半の生徒は、テストにどの問題が出るか出ないかだけにこだわっているようだ。"テストで点を多く取れる"="物理ができる"と勘違いしている。とても嘆かわしい。
 なぜ、こんな現状になってしまったのか。答えは簡単だ。ペーパー試験重視の大学受験が影響を及ぼしているからである。ただ、大学側はその方法に限界を感じ変更しているので評価したい。しかし、高校生や親の認識は、いまだに大学に入ればどうにかなると思っているため、点取り方法を会得して、大学にさえ受かればいいと考えているようだ。
しかし、世の中はペーパー問題即解答マシーンなどほとんど必要としていない。自ら問題を見つけ、考え、創造することのできる人間が必要なのだ。

2.脱教科書&脱問題集宣言!の必要性
 高等学校の物理の教科書を眺めてみるに、世の中が必要とするような人間を育てるのにふさわしいとは考えにくい。物理学は、各分野は分かれてはいるものの系統的に扱うことで、力学で学んだ諸知識で、最新原子物理をも理解できるという他の分野とは大きく異なる性質を持っている。教科書は現象を個別事項として扱っているような感じが強いのでそのまま従ってはおそらくその感動を味わうことがないまま終わってしまう可能性が高いのである。この点は、授業者の持っていき方で対応可能なことだと考える。
また、大半の高校で教科書メーカーの問題集を生徒に持たせるが、最近これにとても問題があると感じるようになった。問題集の各章のはじめにはたいてい、要点の整理がある。これが問題なのだ。生徒は、テスト前にチラッとこの整理の部分の"公式"を暗記して、後はどうこうなると思ってしまっている。また、定期考査はその問題集の数字や文字を替える程度の問題であろうと考えており、必死に模範解答の暗記を試みている。おそらく、彼らが今まで生きてきた人生での勉強の大半は、暗記で何とかなってしまったので、それでよいと考えてしまうのであろう。僕は、物理を通してその点の打破をするのが物理教育の使命なのではないかと考える。
そのためには、まず脱問題集に力を注がねばならない。暗記でどうこうなるようなものではないことの印象付けや、基礎基本が何たるか、それを評価できるようなテスト問題のあり方などを考えていこう。

3.意見提示(丸暗記を防ぐには)
 たとえば、等加速度直線運動。三つの公式が教科書で紹介されたあと、自由落下、鉛直投射、斜方投射と話が進むが、それぞれ、"この場合は軸を上にとってこういう公式になる"とか、"斜方投射の公式はこうだ"という扱い方ではダメである。いたずらに"公式"の数を増やすばかりか、こういう場合はこう解くのだというパターン化につながってしまう。毎回三つの基本公式からいちいち考えるような方法こそが、丸暗記を防ぐ扱い方だと思う。そう扱うことで、"基本とは何であるか"がおのずとわかってくるし、"個々の場合も基本の応用で取り組める"ことにもつながるわけだ。問題集などの要点のまとめの"公式"の丸暗記に意味がないことがわかると思う。

4.意見提示(基礎基本を問うような問題とは)
 では、実際の定期考査ではどうしたらよいのか。いろいろ意見があるように思う。僕が実践しているテスト問題を紹介しよう。
(例1)次の物理用語を自分の言葉で説明せよ。必要ならば絵や図を用いてもかまわない。
 1.加速度  2.摩擦角  3.力のモーメント
 これらは、説明型の問題だ。定義を答えねばならないものもあるし、なぜそんな量を考える必要が出たのか、どう応用されて、実際の物理現象を理解するのに役立つのか等を記述式で答えさせる。
(例2)次の会話文を読んでお父さんの代わりに説明してください。
「ねぇ、父ちゃん。運動会の綱引きで絶対5組に勝ちたいんだ。どうしたらいいのかな?」「う〜ん、そうだね、ぴこちゃん。じゃあ、いっしょに考えてみよう。」「うん。綱引きってことは、摩擦力が関係するのかな?」「・・・そうだね、まず、ぴこちゃんのクラスと6組はまったく同じ人数で、靴底の面積もおんなじだったとしようか。そうすると・・・」
 こちらは、日常生活で疑問に思ったことを題材にした説明問題である。会話文中にヒントとして"摩擦"の言葉を入れ、考えるきっかけを与えてみた。

5.おわりに
 自ら問題を見つけ、考え、創造することのできる人間をつくるには、物理はとても役に立つ科目であると信じて疑わない。人生においていろいろな問題に立ち向かっていける人間を育てるために、がんばろう。


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