| [はじめに]
今年度は,「大学入学共通テスト」と名称が変わってから6年目となる。また,新課程に移行して2年目である。例年,この時期は雪が降ったりしてとても寒かった印象が強いのだが,今年度はかなり暖かく,地球温暖化の影響(?)を実感した2日間であった。
今年度の物理基礎は,それまであったのだが昨年度なくなっていた会話文による出題が申し訳ない程度に,問1の小問集合の1つに出題されていた。また,以前大々的に(?)導入されていた,「□.□×10^□」型の数値を直接マークさせるような解答方式は,影も形もなかった。このまま,「□.□×10^□」型の数値を直接マークさせるような解答方式は復活しないのかもしれない。試行から導入され,本試験でも3年前まではこの解答方式で答える問題が出ていたのだが,もはや大学入試センターは初心忘れた状態なのであろうか? 続けない(続けられない)のであれば,大々的に導入するべきではなかったのではないか? まったく,情けない限りである。ただ,実験をもとにした出題や,実験結果(っぽいもの)をもとにした出題はなされていた。「大学入試共通テスト」で目指そうと提唱された出題方針が,それらの出題には反映されているともいえる。
[全体講評]
……なんだぁ? 物理基礎の問題って,こんなに簡単だったっけ?
僕が今年度の問題を解いてみての率直な感想である。公式や法則の内容をそのまま聞いているような問題や,第2問のように,シチュエーションにやや凝った実験の出題もあったのだが,いろいろ無視できるという条件を付けたことで,結果的に従来の打点タイマーの生徒実験でよくある実験とほぼ同じ内容になっているという,典型的な基本問題レベルの問題の見栄え違い程度の出題であった。
また,「大学入試共通テスト」になって登場するようになった数値計算の結果を,「□.□×10^□」の解答形式で解答させるような問題は,昨年度に引き続き出題されなかった。これで3年間連続でこの解答方式での出題がなかったことになる。……さて,来年度は復活するのか? 見ものである。
第3問の出題が昨年度と異なり,AとBに分かれていた。特にBは,可変抵抗を使った見かけない実験をもとにした,熱と電気の融合問題であり,非常に難しそうに見えるものの,可変抵抗の熱容量と発生するジュール熱が無視できるとのことなので,実際には,熱量と比熱と熱容量の関係がしっかり理解できているかどうかを問うているに過ぎない。
では,ザックリと第1問から解いた後に感じたことを簡潔に述べていくことにする。
第1問は,毎度おなじみの小問集合であった。公式や法則の内容を問われているだけの問題が多かった。問1で,受験生が間違えやすい浮力の問題でジャブを打ってみた(?)のだが,問2で,電気抵抗の公式そのものを問い,問3で,放射線と放射能の基本知識を確認し,問4では,シチュエーションに凝っただけの波動の基本問題,しかも,説明文がくわしく,悩むことなくこたえられる安心設計となっていた。
第2問は,磁石とスマートフォンの計測用アプリを使った実験をもとにしたシチュエーションに凝った出題であった。実験の内容の説明が丁寧なので,多くの受験生が,よくある生徒実験の打点タイマーの運動の解析の実験と同じであることに気が付けるだろうと感じたので,見かけ倒しの基本問題であった。
第3問は,AとBに分かれていた。Aの問2はややこしい実験のように見えるが,問題文中で“単純化”した実験操作を提唱しており,それに従って考えていけば計算がやや面倒なだけの基本問題レベルだった。Bは,可変抵抗を使った見かけない実験をもとにした,熱と電気の融合問題であり,非常に難しそうに見えるものの,可変抵抗の熱容量と発生するジュール熱が無視できるとのことなので,実際には,熱量と比熱と熱容量の関係がしっかり理解できているかどうかを問うているに過ぎない。
[各設問に対するコメント&説明]
第1問
小問集合。問1から順に,浮力,電気抵抗,放射線の基礎知識,波動,の問題であった。問1は,受験生が苦手とする“密度”がでてくる浮力の問題。1ページ目を開いてすぐこの問題が出てくるのだから,苦手とする受験生はまっつぁおになったかもしれない。
問1)問題冊子を開いて,いきなりの浮力に関する問題となる。昨年度はいきなり放射線の問題だった。今年度は,受験生が苦手とする浮力の問題。昨年度に続いて受験生を焦らせるのに非常に大きな効果があっただろうと予想される(苦笑)。アルキメデスの原理がしっかり理解されていればたやすい。問題文にあるように,氷山にはたらく重力の大きさは ρ0Vg 。海面上に出ている部分の体積が αV であるなら,海面下の氷山の体積は,V−αV = (1−α)V である。よって,氷山にはたらく浮力の大きさは,ρ(1−α)Vg 。Cが正解。浮力を求めるときの密度は,物体の押しのけた部分の液体(海水)の密度 ρ であることに注意したい。【やや易】
問2)電気抵抗の抵抗値を決める R = ρ・(L/S) の公式について問われているに過ぎない基本問題。旧課程ではこの公式は載っていない教科書もあったようだが,新課程では教科書に太字で載っている公式である。材質が同じ導線の抵抗値 R は,温度が同じであれば,同線の長さ L に(ア:比例)し,断面積 S に(イ:反比例)する。その比例定数 ρ は抵抗率と呼ばれる。抵抗率 ρ の単位は(ウ:Ω・m )である。Aが正解。【易】
問3)昨年度見られなかった会話形式の問題であるが,今年度は,この小問の1つに申し訳ない程度の会話形式の問題として復活した。放射線の基礎知識を問うた教科書本文レベル。放射能の強さは,1秒間に(エ:崩壊)する(オ:原子核)の個数であり,単位はベクレルであらわす。シーベルトは,物質が1[kg]あたりに吸収するエネルギーに,放射線が(カ:人体)へ及ぼす影響の違いを考慮した係数をかけた量の単位である。Cが正解。会話形式の出題ではあるものの,単なる知識問題にすぎない。【易】
問4)身近であろう「ウェーブ」をもとにした波動の基本問題。僕も波動の導入の授業では,毎年“ひとり「ウェーブ」”を実演している。その際,サッカーの観客席で,サポーターが「ウェーブ」して応援している様子を想像してほしいという導入をし,波形,波長,振動数,周期,重ね合わせ,波のエネルギーなどなどを説明している。なので,この問題には親近感がわいた(笑)。波の速さは,人と人の間隔が,50[cm]=0.50[m]であることより,v = Δx/Δt = 0.50 [m]/0.24 [s] = 2.0[m/s](←キ)と求められる。このウェーブの振動数は,波の基本式( v=fλ )より,f = v/λ = 2.0 [m/s]/4.0 [m] = 0.50[Hz](←ク)。“ある人が手を下げて座った状態から,手を上げて立ち上がり,再び手を下げて座った状態に戻るまで”,つまり周期のことだが,周期は,T = 1/f = 1/0.50 [Hz] = 2.0[s](←ケ)となる。Aが正解。【やや易】
第2問
磁石とスマートフォンの計測用アプリを使った実験をもとにしたシチュエーションに凝った出題であった。今どきの受験生にとっては身近な,スマホアプリでの計測ということなので,最近はこのようなスマホのアプリを使えば,計測の専門機器を使わなくても手軽に実験ができるようになったという,ご時世を反映している実験であった。実験の内容としては,教科書に必ず載っている生徒実験である打点タイマーの運動の解析の実験と同じである。実験装置が異なるだけで,本質は打点タイマーの運動の解析であるから,シチュエーションに凝っただけの見かけ倒しの基本問題といえよう。
問1)“磁場が台車の運動に与える影響や,運動する台車とスマートフォンに生じる電磁誘導の影響は無視でき”,“空気抵抗も無視できる”ので,単純に円形の磁石のちょうど真横を通過するときに磁場のグラフにピークが現れるものと考えればよい。よって,図2(a)では,磁場の強さのピークの時刻(2.68[s])がスマートフォンのセンサー部分が磁石のちょうど真横を通過した時刻である(←ア)。また,台車の速さが大きいと,円形磁石までの距離は変わらないので,より速く磁石の真横を通過することになる。図2(b)のピークの時刻(1.38[s])のほうが図2(a)より速いので,図2(b)のほうが台車の速さが大きいとわかる(←イ)。以上により,Cが正解となる。また,グラフの幅に注目すれば,台車の速さが速くなると,ピーク幅が短くなっている(グラフが鋭くなっている)ことも以降の問題での判別に役立つので覚えておきたい。【やや易】
問2)等間隔で5個の同じ円形磁石をならべると,磁場の強さのグラフには,ピークが5箇所あらわれる。“台車はレールの上をなめらかに動く”ので,台車は等速直線運動をして,5箇所の磁石の前を横切ることになる。つまり,1つの磁石の前を横切るときに1つのピークが図2のようにあらわれるのだから,同じピークを描く山の形が等間隔に5つ並んだものになるわけだ。Bが正解。【やや易】
問3)つぎに,台車におもりをつけた軽い糸を取りつけて,台車を出発点から静かに手を離したら,台車は糸の張力を受けるので等加速度運動をし,だんだん速くなる。より速く磁石の真横を通過すると,磁場の強さのグラフのピーク幅は狭くなるのだったから,ピークの間隔がだんだん短くなっており,かつ,ピーク幅がだんだん狭くなっているようなグラフを選択すればよい。よって,Aが正解。【やや易】
問4)実験結果の速度と時刻の関係である v−tグラフ より加速度を求める問題。グラフ上で比較的グラフの交点に乗っている点を抽出するのがよい。たとえば,(2.3[s],0.6[m/s])と(3.5[s],0.95[m/s])の2点を使えば,a = Δx/Δt = (0.95ー0.60)/(3.1ー2.2) = 0.26923… ≒ 0.27[m/s^2]。Aが正解。はじめからフィッティング済みの直線がグラフ上に引いてあるので,悩むことなく加速度を求められたに違いない。【普通】
第3問
昨年度と異なり,AとBに分かれていた。Aの問2は,一見ややこしい実験のように見えるが,問題文中で“単純化”した実験操作を提唱しており,それに従って考えていけば計算がやや面倒なだけの基本問題レベルだった。Bは,可変抵抗を使った見かけない実験をもとにした,熱分野と電気分野の融合問題であり,非常に難しそうに見えるものの,可変抵抗の熱容量と発生するジュール熱が無視できるとのことなので,実際には,熱量と比熱と熱容量の関係がしっかり理解できているかどうかを問うているに過ぎない。
A
問1)“同じ質量の水となたね油を同じように加熱すると,温度上昇が水の方が遅い”とのことから,“なたね油と比較して水の比熱が(ア:大きく),温まりにくい”ことがわかる。また,“水が水蒸気になるには蒸発熱が必要であり,沸騰が始まってからも加熱を続けるとき,水がなくなるまでの間,水の温度は(イ:一定となる)”。Dが正解。教科書本文レベル。【易】
問2)なにやら操作手順がややこしい実験であるのだが,問題文にあるように“単純化”した実験操作として考えていけば,正解へたどり着ける親切設計の問題である。20[℃]のすべての水が 100[℃]の水になるのに必要な熱量 Q1 は,Q1 = m水c水Δt水 =10×4×(100−20) = 3200[J]。この熱量が,銅製容器から供給されるので,銅製容器の失う熱量 Q2 は,Q2 = m銅c銅Δt銅 = 1000×0.4×Δt銅 = Q1 = 3200[J]となる。つまり,銅製容器の温度は,水の昇温過程で,Δt銅 = 3200 / (1000×0.4) = 8[℃](8[K])だけ下がる(←[ 110 ] はDが正解)。次に,100[℃]の水が 100[℃]の水蒸気になるのに必要な熱量 Q3 は,Q3 = m水q水 = 10×2000 = 20000[J]。この熱量もまた,銅製容器から供給されるので,銅製容器の失う熱量 Q4 は,Q4 = m銅c銅Δt′銅 = 1000×0.4×Δt′銅 = Q3 = 20000[J]となる。つまり,銅製容器の温度は,水の蒸発過程で,Δt′銅 = 20000 / (1000×0.4) = 50[℃](50[K])だけ下がる(←[ 111 ] はEが正解)。他の問題に比べてやや計算が面倒であるが,教科書例題レベルの基本問題であった。【普通】
B
問3)抵抗の直列つなぎの場合の基本問題。抵抗器Aと抵抗器Bの合成抵抗Rは,R = RA + R0 。よって,回路の流れる電流Iは,I = V0 / R = V0 /(RA+R0) 。求めるOP間の電圧 VOP は,VOP = R0・I = [ R0/(RA+R0) ] × V0 。Bが正解。【やや易】
問4)回路に可変抵抗があるので,一見難しそうな印象を受けるのだが,“抵抗器Aの熱容量とそこで発生するジュール熱は無視できるものと”するので,ヒーターで発生したジュール熱だけ考えればよく,可変抵抗の扱いづらさは全くない。実験手順の説明が長くてわかりにくいのだが,予備測定とは,単なるヒーター(抵抗 R )1つの発熱についての問題に過ぎない。ヒーターで発生した熱量 Q は,ジュールの法則より,Q = VIt = R・I^2・t= ( V^2 / R )・t 。Dが正解。【やや易】
問5)予備測定では,“時間tだけ加熱したところ,試料台の温度がΔTだけ上昇した”ことより,予備測定で加えられた熱量 Q は,Q = CΔT。試料をのせた本測定では,試料と試料台の温度が同じ ΔT だけ上昇するのに必要な熱量 Q′は,Q′= CΔT + mhΔTとなる。よって,熱量比は,Q´/Q = ( CΔt + mhΔT ) / CΔt = (C+mh)/C となる。Dが正解。熱量と比熱と熱容量の関係がしっかり理解できているかどうかを問うている問題に過ぎない。【普通】
以上。
|
|
|