2024年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明


2024年01月18日更新


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2024年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明

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[はじめに]

 今年度は,「大学入学共通テスト」と名称が変わってからの4年目となる。1月1日に,能登半島地震が起きたりと,大学入学共通テスト4年目もまた,落ち着いて取り組ませてくれない状況となった。
 さて,「大学入学共通テスト」で,これまでの「大学入試センター試験」から変化させる新傾向の出題方針として挙げられていることをまとめておくと,次の3点であった。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”

 今年度の物理基礎では,特に第2問は,昨年度は見られなかった,会話文によって実験を進めていく形式の出題が復活するなど,「大学入学共通テスト」らしさが戻ってきたなぁという印象を受けた。

[全体講評]

 まず,僕が解いてみて一番変化を感じたところは,昨年度と異なり,特に第2問で,昨年度は見られなかった,会話文による実験を進めていくような出題形式が復活し,「大学入試共通テスト」で目指している出題方針が反映された出題に戻ったのかなということである。
 また,昨年度は文字式による解答を導く問題が多かったの対し,今年度は数値計算が多かった(ただし,割り切れたりなど計算はしやすいように工夫が見られた)印象だ。「大学入試共通テスト」になって登場するようになった数値計算の結果を,「□.□×10^□」の解答形式で解答させるような問題も復活した。……でも,問題は公式代入よりも簡単なレベルだったのは残念。
 一方で,昨年度のように,ある物理量を大きくしたり小さくしたりしたときに,どのようにほかの物理量が変化するのかということを,いろいろな問い方で問うている設問が少なかったように感じられた。昨年度登場した前述の問われ方は,不評だったのだろうか?
では,ザックリと第1問から解いた後に感じたことを簡潔に述べていくことにする。
 第1問は,毎度おなじみの小問集合であった。問1は,教科書レベル。問2は仕事とエネルギーの関係を問うているのだが,問題文から何を問われているのかを読み取りにくいのかもと感じた。問3は,10のべき乗の計算で戸惑う受験生がいそうだなぁ……,差がついたかな? 第4問は,光エネルギーの単位で[Wh]を使っているという目新しい問題だった。
 第2問は,会話による実験の考察過程を演出した“授業において生徒が学習する場面…(中略)…から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”にあたる問題だった。まさに「大学入試共通テスト」らしい出題方法であった。浮力といえば,受験生の大半が苦手とする分野であるため,この問題は浮力が苦手な受験生には苦痛でしかなかったのでなかろうか。一方,実際に問われている内容は,問題文での会話において多くのヒントが書かれており,さらには,実験結果の考察もさほど深く突っ込んでいないため,取り組みやすかったのではなかったかと思う。
 第3問は,音の問題。問5では,おなじみの(?)ボッチャン刈りメガネくんが登場しており,今回も活躍してるなぁ(?)と和んだりした。……あ,問題の内容は教科書レベルであり,悩むような問題はなかっただろう。
 磁場に関する問題や,原子物理の分野の問題は出題されていなかった。もっと教科書の後半のこれらの分野もきちんと出題したいただきたいと感じた。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,熱量保存の法則,仕事とエネルギーの関係,電流の定義,電力量,の問題であった。問2は,問題文をよく理解し何を問われているのかを読み取りにくいのかもと感じた。たいてい一番前の問題から順に解いていくので,問1が教科書レベルであるため,「イケる!」と思わせておいて,問2でその勢いをみごとに削いでやろうという(?),受験生泣かせの出題であったのではないかと予想される。
問1)熱量保存の法則の問題。教科書例題レベル。数値計算ではあるが,計算しやすく割り切れるように数値が設定されていた。立てる式は熱量保存の法則で,次のようになる。
  高温の物体(スープ)が失った熱量 = 低温の物体(容器)が得た熱量
          160×4.0×(80−t) = 160×(t−20)
これを解くと,しばらく待ったあとの全体の温度は t=68[℃]となる。Dが正解。【普通】
問2)鉛直方向には重力がはたらいているため,運動エネルギーとあるから,エネルギーについて考えるのだろうとは思っても,状況をしっかり読み取るのに苦労した受験生もいたのではないだろうか。一定の力を加え続けて物体のエネルギーを考えるような問題は,水平方向の運動であれば,教科書例題レベルなのだが,鉛直方向になったとたんに難しくなってしまったのではないだろうか。しかし,水平方向の場合と同様に,仕事とエネルギーの関係を使って解けばよい。求める小物体の運動エネルギーをKとすれば,
  はじめの全力学的エネルギー + 外力による仕事 = あとの全力学的エネルギー
         0       +   (F×h)  = K + mgh
となる。よって,K=Fh−mgh=(F−mg)h であるから,Cが正解。【やや難】
問3)電流の定義( I= Q/t )を思い出せばよい。電流(I[A])は単位時間あたりに通過する電気量(Q[C])で定義された。I= Q/t より,Q=It=1.0×160=160[C]。次に,この電気量は電子何個分かということなので,電子1個あたりの電気量で割る。つまり,160 / 1.6×10^(-19) = 1.0×10^21[個]。Eが正解。10のべき乗の計算で誤った解答を選んだ受験生もいたのではないかと予想される。自分の経験からも,10のべき乗の計算ができない生徒さんは,それなりに多かった印象がある。【普通】
問4)電力量についての問題なのだが,その単位としてマイナーであるところのワット時[Wh]を使っているところがいやらしい。まぁ,ただ,日常生活では電力会社の請求書には,キロワット時[kWh]が使用されているので,“…日常生活の中から課題を発見し…”には沿っているのかもしれないが……。消費電力 60[W],効率 10[%]の白熱電球が 1時間 点灯する間に放出する光エネルギーは,60×1×(10/100) = 6.0[Wh](←[ア])。次に,消費電力 15[W]のLEDに変えたときの効率を x[%]とすれば,15×1×(x/100) = 6.0[Wh]となるはずだ。これを解くと,x=40[%](←[イ])となる。以上により,@が正解。公式に代入しただけでは正解へたどり着かない。すこし工夫を感じた問題であった。【普通】

第2問
 昨年見られなかった,会話による実験の過程を演出した“授業において生徒が学習する場面…(中略)…から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”にあたる問題だった。ただ,メインとして扱われたのが浮力であり,受験生が苦手意識を持っている(と思われる)浮力についていろいろ考察しているので,苦手意識のある受験生は苦痛だったに違いない。問3では考察のためにグラフをかいたり,問4ではグラフをもとに沈める物体の形を考察したりと,工夫が見られたものの,従来のようなキレイでないいびつな(?)実験結果を示したグラフとは異なり,キレイな直線でかかれたグラフだったので,少し拍子抜けした。
問1)アルキメデスの原理によって,浮力を求める公式代入問題。物体の体積 V を,V = m/ρ物体 で求めることが分かっていれば後は計算するだけ。求める浮力は,F = ρ水Vg = ρ水×(m/ρ物体)×g = (1.0×10^3) × (1.0/ 2.0×10^3 ) × 9.8 = 4.9[N]。@が正解。【やや易】
問2)会話文をよく読むと,ヒントがちりばめられている親切設計。“ジャガイモが計量カップの底についていないとき”,Bさんのセリフから,“ジャガイモにはたらく力は浮力と重力と張力”とわかる。それらの力は,鉛直方向の力のつりあいの式を立てると,F+T=W であるから,[ア]は,(c)の F=W−T が正解。次に,Bさんの導出にしたがって,図2の上のグラフを見る。点Pが水面より上の,−4〜0[cm]のところのばねはかりの値が 1.08[N]であることより,水面より上での物体にはたらく張力の大きさ 1.08[N]とわかるので,物体にはたらく力のつりあいの式(浮力がない)は,T=W=1.08[N]であるから,物体にはたらく重力Wの大きさがわかる。また,Pの水面からの深さが 5[cm]より深くなると,ばねはかりの値が一定値の 0.09[N]となっているので,物体が水中に完全に沈んだ状態であるとわかる。すべて沈んだ状態では,F+T=W の関係があったので,ジャガイモにはたらく浮力の大きさは,F=W−T=1.08−0.09=0.99≒1.0[N](←[イ])となる。以上により,Gが正解。図2のグラフの −4〜0[cm]の領域から,物体の重力の大きさが読み取れたかどうかで命運が分かれた。【やや難?】
問3)キッチンはかりの値と,ばねはかりの値の関係をグラフにする問題。深く考えなくとも,図2の上と下のグラフで,同じ深さのところを3か所くらいを読み取って,プロットするだけで正解が得られる。どこでもいいが,たとえば,深さ −1[cm]のところなら,ばね 1.08[N],キッチン 0.60[kg]。深さ 2[cm]のところなら,ばね 0.52[N],キッチン 0.65[kg]。深さ 6[cm]のところなら,ばね 0.09[N],キッチン 0.70[kg]。プロットすると,Cとわかる。ただ,せっかく関係を見出したのに,次の問題以降にて,この関係は活かされていないのががっかりだった……。【易】
問4)Aさんが図2の上のグラフが曲線である理由が気になるらしく,Bさんにより沈める物体の形が関係しているのかもと考察を進めていく。水より密度の大きい一様な材質でできた物体を沈めたときの図3のグラフが,キレイな直線で変化していることから,水に沈む体積が一定の割合で増加するような形の物体を沈めたということに気が付く必要があり,そのような物体は,断面積が一定のAの円柱しかないと正解を導かねばならない。Aが正解。グラフから読み取った情報をもとに,定性的に考察を進める必要があり,なかなかに受験生泣かせの問題だったのではなかろうか。【やや難】
問5)“ジャガイモが計量カップの底について緩んでいるときに,ジャガイモにはたらいている力は”,Bさんのセリフから,“垂直抗力”と,(b)重力と浮力(←[ウ])とわかる。このとき,ジャガイモに計量カップの底からはたらく垂直抗力 N は,力のつりあいの式 F+N=W から,N=W−F=1.08−0.99=0.09[N]となる。これは,水がない場合(浮力 F=0)のときの垂直抗力の大きさである,N=W−F=1.08−0=1.08[N]と比べると,(f)小さくなる(←[エ])。以上により,Eが正解。【普通】

第3問
 音に関する問題をほぼ網羅したような大問であった。問われている内容は,大学入試センター試験や大学入試共通テストお得意(?)の,凝りまくったシチュエーションでの出題などではなく,教科書の例題や,演習問題などで見たことあるようなレベルのものが多く,受験生にとっては,非常に得点しやすかったボーナス問題であったと思われる。
問1)音の速さは,V=331.5+0.6t の関係式で気温 t[℃]に依存することを知っていれば解ける基本問題。気温が 0[℃]と 30[℃]のときの音の速さを比べると,温度が高い 30[℃]のときのほうが音は速くつたわる。[ア]は“大きい”が正解。しかし,“音の速さは?”と聞かれている答えで“大きい”を選ぶというのは変な感じがする。音の速さは“速い”か“遅い”かで答えるのが普通なのではないか?? つぎに,同じ振動数の音の波長で比べると,音の基本式( V=fλ)より,振動数が同じ場合は音の速さと波長は比例関係であることから,30[℃]のときのほうが波長は長い(←[イ])ことが導ける。以上により@が正解。【易】
問2)音の速さを測定した実験その1。太鼓とストップウォッチを用いたもっとも原始的な(?)実験。数値計算の結果を,「□.□×10^□」の解答形式で解答させるような問題ではあったが,問われているのは速さの定義にすぎなかった。音の速さ = 距離/時間 = 140/0.42 = 333.33…≒ 3.3×10^2[m/s]。[11]がB,[12]がB,[13]がAで,完答のみ正解。【易】
問3)問2の結果が,教科書の値よりも小さかったので,その原因を“測定時のストップウォッチの操作にある”と考え,原因として考えられるストップウォッチがスタートした時間とストップした時間の組み合わせを選ぶという見慣れない問題だった。音の速さ = 距離/時間 の関係があるので,測定時間が長かったために音の速さが遅くなったと考えられる。つまり,測定時間が正しい時間よりも長くなってしまう原因がかかれたものを選べばよい。(a)と(d)が測定時間が長くなる原因となる。Bが正解。問題文では“すべて選べ”といいつつも,選択肢はどれもこれも2つしかないので,“2つ選べ”とすべきであろう。【易】
問4)音の速さを測定した実験その2。AさんとBさんがそれぞれ,メトロノームの「ピッ」という音が同時に聞こえる位置をスタート地点とし,その場にとどまるBさんからAさんがゆっくりと遠ざかると 70[m]離れたときに,再び「ピッ」という音が同時に聞こえたということより,音の速さを求める問題である。メトロノームの「ピッ」という音は,同じ時間間隔で出るため,70[m]がちょうどメトロノームの出す「ピッ」という音の 1周期(つまり 1波長)にあたるということに気が付けば,あとは波の基本式( V=fλ)に代入するだけだ。求める音の速さは,V=fλ=(300/60)×70=350[m/s]。Cが正解。出題者は,1分間に 300回 音を出すということから,周期が 1秒間あたり の音を出す回数なので,300/60=5[Hz]と求める必要があるのだが,この一手間を入れることで,受験生を惑わしたかったのだろうか?【普通】
問5)音の速さを測定した実験その3。この実験は何のひねりもない,きわめてよく見る教科書例題レベルの水だめを使った気柱共鳴実験であった。はじめの共鳴位置と2回目の共鳴位置の高さの差がおんさの出す音の半波長になるという,いわゆるワンパターンな解き方で正解へたどり着ける問題。この問題では,高さの差である34[cm]が半波長なので,1波長は,34+34=68[cm]=0.68[m]。これを用いると,音の速さは V=fλ=500×0.68=340[m/s]となる。以上より,Gが正解。波長を[m]で求めさせているので,間違って[cm]のまま代入するというよくある誤計算の出ない親切設計。……どうでもいいことだが,大学入試センター試験時代から様々な実験に登場してきた,おなじみの(?)ボッチャン刈りメガネくんが登場しており,今年も活躍しているなぁと思ったりした(笑)。【やや易】
問6)人の可聴域よりも振動数の大きい超音波についての問題であった。音の速さは変化しないので,V=fλより,振動数 fと波長λは反比例の関係である。超音波は振動数が大きいので,波長は短い(←[ウ])。振動数が 34000[Hz]の超音波の波長は,室温で(は,音の速さが 340[m/s]であることを知っている前提で計算すると),およそ λ=0.01[m]=1[cm](←[エ])。以上により,Aが正解。仮に,室温での音の速さを知らなかったとしても,問5までの問題を解いれば,おおよそ 340[m/s]であることはわかるので,問題文に書いていないのであろう。【易】


以上。



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