2023年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明


2023年01月19日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2023年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明

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[はじめに]

 今年度は,「大学入学共通テスト」の3年目だ。新型コロナウィルスの第8波の真っただ中での実施となった。大学入学共通テスト3年目も,落ち着いて取り組ませてくれない状況となった。
 さて,「大学入学共通テスト」で,これまでの「大学入試センター試験」から変化させる新傾向の出題方針として挙げられていることをまとめておくと,次の3点であった。今年度の問題では,どこまでそれらが反映されているのかも念頭に置きつつ,講評していくことにする。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”


[全体講評]

 まず,解いてみての僕の第一印象としては,新傾向の出題方針を忘れてしまったのではないか? であった。過去2年間続いた会話文による出題形式もなかったし,数値計算ではなく文字式での計算によって正解を導くような問題が多かったし,新傾向で登場するようになったはずの数値計算させて,「□.□×10^□」の解答形式で解答させるような問題もなかった。さらには,部分点のある問題もなかった。出題者が変わったのではないかと感じられるほど傾向が変化したと言えよう。
 一方で,昨年度のように,“定性的”な問われ方をしている設問が多いなとも感じた。2年前(大学入学共通テストの初年度)のようにせっせと数値計算をして解答を求めるような問題ではなく,ある物理量を大きくしたり小さくしたりしたときに,どのようにほかの物理量が変化するのかということを,いろいろな問い方で問うている設問が多かったように感じられた。この傾向は,もしかしたら今後も続くのかもしれない。
 毎度おなじみ(?)小問集合の第1問ではあるが,問1が基本的な見てすぐ正解が分かる問題であるのに対して,問2では見てすぐ正解が分かるような問題とはなっていなかったので,受験生は,その問題レベルの差に動揺したかもしれない。その後につづく問3,問4は基本的な問題であった。問2だけ異質に感じられたのは僕だけだろうか。また,第3問では,大学入試センターが大好き(?)なのではと思うほど過去に何度か出題された送電に関する問題が出題されていた。問4に至っては,2年前(2021年度)の物理基礎(第1日程)の問2Bでも同じような図が出ていた,変圧器の問題の出題となっていた。
 おそらく第3問が“社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面”にあたる問題と位置付けられると思うのだが,受験生にとっては,交流電気はたしかに身近で使用しているのだが,発電や送電はそれほど日常生活と密接しているとはいいがたく,さらに,資料やデータとして風力発電機の出力のグラフが提示されているが,これも,日常生活に密接しているとはいいがたい。そういえば,20年ほど前だったかなぁ……,物理Tが電気から学習を始めるような学習指導要領が出たのだが,それに従って教科書を使用して授業を展開した現場では混乱を生じただけで,結局,力学から学習する現行の教科書へと移り変わっていったのを思い出した。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,運動の法則,フックの法則と力のつりあいとばねの弾性力による位置エネルギー,熱力学第一法則,弦の振動とうなり,の問題であった。とくに問2は,ていねいに計算しないと正解にたどり着けない問題であり,“知識の理解の質を問う問題”&“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたると思うのだが,見てすぐ正解のわかる問1の次の問題である問2なので,その問題レベルのギャップにショックを受けた受験生も多かったのではないかと想像される。とはいっても,順番に計算していけば正解へたどり着けるのではあるが……。そして,その後に続く問3,問4は,これまた基本的な問題であるため,問2が小問集合の中では異質に感じた。
問1)箱Bにだけ着目すると,箱Bが右へ一定の加速度で運動を続けているわけなので,運動の法則から,箱Bが受ける力の合力が右向きになっている必要がある。つまり,f1>f2 だ。よって,Aが正解。【易】
   もう少し丁寧に説明するのであれば,箱Bについての運動方程式を立てよう。加速度を a,箱Bの質量を mB とすれば,水平右向きを正として,mB × a = f1−f2 。“箱A,B,Cは離れることなく,右向きに一定の加速度で運動を続けた”とあるので,a>0。つまり,a = (f1−f2) / mB > 0 である。これが成立するためには,f1>f2 が必要とわかる。
問2)フックの法則と力のつりあいとばねの弾性力による位置エネルギーを組み合わせて正解を導く問題。問1と比較すると,計算量が多くて実に面倒。自分自身もこの問題を解いた後,問1があまりにもあっけなく正解が得られたので,それに比べて問2は,いくらかの計算を必要とするため,ものすごく不安になってしまった。受験生の中にも,僕のように問題レベルのギャップにショックを受けて出鼻をくじかれた人もいるのではなかろうか。
   AとBそれぞれで,力のつりあいの式を立てると,
     A:mg = kA × a …… @
     B:mg = kB × 2a …… A
   それぞれの弾性力による位置エネルギーは,
     A: UA = 1/2 × kA × a^2 …… B
     B: UB = 1/2 × kB × (2a)^2 = 2 × kB × a^2 …… C
   ばねBの弾性力による位置エネルギーは,ばねAの弾性力による位置エネルギーの ( UB / UA ) 倍。@,A,B,Cを代入すれば,( UB / UA ) = ( 2 × kB × a^2 ) / ( 1/2 × kA × a^2 ) = 4× kB / kA = 4 × ( mg / a ) / ( mg / 2 × a ) = 2倍。Dが正解。【普通】
問3)熱力学第一法則( Q=儷+W´)を使う基本的な問題。なめらかに動くピストンとのことなので,定圧変化である。容器の底をお湯につけると,気体はお湯から熱量Qを受け取る。すると,その一部が気体の内部エネルギー上昇分 儷 となり,残りがピストンを押し上げる仕事分 W´となる。
   というわけで,問題文の穴埋め部分は,“この間に,容器内の気体が受け取った熱量 Q と容器内の気体がピストンにした仕事 W´の間には Q > W´(←ア)という関係がある。Q = W´とならないのは,容器内の気体の内部エネルギーが増加(←イ)するためである。”となる。よって,Bが正解。【易】
   ちなみに,Q = W´となるためには 儷 = 0 となる必要があるが,それは,温度が一定の等温変化のときである。ボイルの法則が成立するときである。
問4)弦の振動とうなりの基本的な問題。
   ギターの音と440[Hz]のおんさの音を同時に鳴らすと,1秒あたり2回のうなりが聞こえたことより,おんさの音より少し低いギターの音は,440−2=438[Hz](←ウ)とわかる。
   次に,1秒あたりのうなりの回数が減るように弦の張力を調整するのであるが,これは,音を高くして440[Hz]に近づけるということである。弦楽器では弦を強く張るほど高い音が出るので,弦の張力の大きさを少しずつ大きく(←エ)していけばよい。
以上により,Cが正解。【易】

第2問
 パッと見は,小球の水平投射の問題である。物理基礎では,水平投射は定性的にしか扱わないことになっているため,水平投射そのものを扱うような出題ではなく,水平方向は等速直線運動で,鉛直方向は自由落下であることから発展させて,自由落下,鉛直投げ上げの問題としての出題となっていた。“授業において生徒が学習する場面や,…(中略)…学習の過程を意識した問題の場面設定”を目指したのかもしれないが,実験ぽかったのは問1のみで,それ以降は,教科書傍用問題集などでも見かける標準〜発展問題といったような内容であり,目新しさに欠けた。
問1)時刻 0.3[s]における測定値は,図1から 1.17[m]と読み取れる。Cが正解。……というかブラフから数値を読み取らせるだけの問題であり,「なんだこれは!」だった。なのに配点は3点もあるなんてっ!【易】
問2)鉛直方向の運動だけを考えると,小球は自由落下をしている。つまり,鉛直下向きの小球の速さは,等加速度直線運動の速度の公式( v=v0+at )より,v=gt である。よって,v と t の関係を表すグラフは正比例となる。@が正解。【やや易】
問3)初速度の大きさを大きくしたり小さくしたりして,水平投射させた場合を比較する問題。
   鉛直方向の小球の運動は,初速度の大きさによらず,さらに質量にもよらず,すべて同じ自由落下となるので,実験ア,実験イ,実験ウの小球は同時に床に到達する。[ 7 ] はCが正解。【易】
   次に床に到達したときの速さを比較するのであるが,問題文中に“力学的エネエルギー保存の法則より”と,ご丁寧なヒントをいただけているので,力学的エネルギーを考えればよいのかとだれにでもわかる親切設計となっている。どの実験においても同じ高さから床まで水平投射しているわけなので,重力による位置エネルギーの大きさ( mgh )はいずれも同じ大きさであることに気が付けば,床に到達したときの速さの大小関係は,水平投射したとき初速度の大きさの大小関係と同じになることがわかる。なぜなら,床を重力による位置エネルギーの基準とすれば,力学的エネルギー保存の法則の式は,1/2・m・(vはじめ)^2 + mgh = 1/2・m・(vあと)^2 となるからだ。つまり,実験イ(アより初速度大)>実験ア>実験ウ(アより初速度小)の順に床に到達しときの速さの大きさの順となる。よって [ 8 ] はA“実験イの小球の速さが最も大きい。”が正解。【普通】
問4)小球Aを高さ h の位置から自由落下させるのと同時に,小球Bを床から初速度 V0 で鉛直に投げ上げたところ,AとBは同時に床に到達したことより,V0 を求める問題。教科書傍用問題集などで見かける発展問題といったところか。
 まずは,鉛直下向きを正として,Aが自由落下で床まで到達するまでの時間 t を求めよう。等加速度直線運動の位置の公式( x = v0・t + 1/2・a・t^2 )より,h = 1/2・g・t^2 。すなわち,t = √( 2h / g ) である。同じ時間 t で,Bは再び床に到達するので,鉛直上向きを正とすれば,等加速度直線運動の速度の公式( v=v0+at )より,−V0 = V0 − gt の関係となる。よって,求める V0 は,V0 = 1/2・g・t^2 = 1/2・g・√(2h/g) = √( gh / 2 )。Eが正解。【やや難】
問5)問題文の考察どおりに順を追って考えていけば,容易に正解へたどり着く。
   “床に到達する時点でのA,Bの運動エネルギー KA,KB の大小関係は,計算せずとも以下のように調べられる。
   運動を開始してから床に到達するまでの時間はA,Bで等しいことから,h > hB(←ア)であることがわかる。小球が最高点から床に到達する間に失った重力による位置エネルギ―は,床に到達する時点で運動エネルギーにすべて変換されるので,KA と KB の大小関係は,KA > KB(←イ)であることがわかる。”
   これは,最高点での重力による位置エネルギーの大小関係が,KA = mgh > KB = mghB だからである。Fが正解。ある物理量を大きくしたり小さくしたりしたときに,どのようにほかの物理量が変化するのかということを問う,共通テストでよく見かける出であるが,導出方法が丁寧に問題文で説明されている新設設計なので,悩むことなく正解を導けただろう。【やや易】

第3問
 “社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面”にあたる問題と位置付けられると思うのだが,受験生にとっては,交流の電気はたしかに身近で使用しているのだが,発電や送電はそれほど日常生活と密接しているとはいいがたく,さらに,資料やデータとして風力発電機の出力のグラフが提示されているが,これも,日常生活に密接しているとはいいがたい。おそらく,交流というだけでも苦手意識をもっている受験生も多かろう。また,これまでの共通テストでは会話形式によるとても工夫された,解いていて面白い(と個人的に感じていたりした)問題が出題されていただけに,今年度の問題は期待外れでありはっきりいってがっかりさせられた。ぜひとも,次年度以降に期待したい。
問1)エネルギー変換に関する教科書本文の内容と同じ程度の基本問題。
   “風力発電は,空気の力学的(← [ 11 ] は@が正解)エネルギーを利用して風車を回し,それに接続された発電機で電気エネルギーを得る発電である。……(中略)……太陽光発電は,太陽電池を用いて光(← [ 12 ] はCが正解)エネルギーを直接,電気エネルギーに変換する発電である。”【易】
問2)電力量と電力に関する標準問題。電力量と電力の違いを苦手とする受験生が多いと思われるので,差の付いた問題だと考えられる。
   まず,図2のグラフから,常に 10[m/s]〜15[m/s]の風が吹き続けていると仮定すれば,風力発電機1機の出力(電力)は,約 18[kW]でほぼ一定であるとわかる。よって,1日に発電する電力量は,18 × 24時間 = 432[kWh]である。これは,日本の一般家庭の1日の消費電力量(18[kWh])のおよそ,432/18 = 24 倍に相当する。よって,Eが正解。【普通】
   ところで,風力発電機は“機”と数えるとは知らなかった。“基”と数えるものだと思っていた。気になったのでネットで調べてみたのだが,調べた範囲では“基”と数えている記述ばかりであった。本当に“機”という字で正しいのか?? 僕が知らないだけ?
問3)大学入試センターが大好き(?)なのではと思うほど過去に何度か出題された送電に関する問題である。ただ,過去には,高電圧で送電するという程度の知識(または理解)を問うた出題であったが,今年度は,しっかりと数値(というかオーダー)計算が要求された。教科書でも最後の方にチョロっと書かれているだけなので,現役生などはしっかりと考え方が身についていない分野かも知れない。いちおう,問題文中に,“VやIは交流の電圧計や電流計が表示する電圧,電流であり,これらを使うと交流でも直流と同様に消費電力が計算できるものとする”と,それぞれが実効値であることを補足はしているが……。
   送電線の抵抗 r によって生じる電力損失(ジュール熱 Q=VIt のこと)を小さく抑えるためには,オームの法則( V=rI )より,Q = VIt = r・I^2・t と変形して考えると,電力損失 Q は I^2 に比例することがわかるので,電力損失 Q を 10^(−6) 倍にするためには I を 10^(−3) 倍にすればよい( [ 14 ] はAが正解)。このとき,発電所から同じ電力 P を送り出すためには,P=VI の関係があるので,同じ P であれば V と I は反比例するので,I を 10^(−3) 倍にするには,V を 10^3 倍にしなければならない( [ 15 ] はBが正解)。【普通】
問4)2年前(2021年度)の物理基礎(第1日程)の問2Bでも同じような図が出ていた,変圧器の問題の類似問題。
   “変圧器の一次コイルも交流電流を流すと,鉄心の中に変動する磁場が発生し,電磁誘導(←ア)によって二次コイルに変動する電圧が発生する。理想的な変圧器では,変圧器への入力電圧が V1 であるとき,変圧器からの出力電圧 V2 は,一次コイルの巻き数 をN1,二次コイルの巻き数 をN2とすると,(電圧比は巻き数比となるので,V1:V2 = N1:N2。よって,)V2 = V1 ×( N2 / N1 ) (←イ)で表される。”
   Eが正解である。【やや易】


以上。



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