2022年度 大学入学共通テスト「物理」 の講評&説明


2022年01月31日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2022年度 大学入学共通テスト「物理」 の講評&説明

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[はじめに]

 今年度は,「大学入学共通テスト」の2年目だ。昨年度のように,新型コロナウイルスの感染拡大による措置として,第1日程と第2日程の2回の本試の実施はされず,本試は1回だけの実施であった。
今年度は,直前までは新型コロナウイルスの感染が収まっていたものの,オミクロン株の急拡大による時期と重なってしまった。また,東京大学の会場では事件も起こり,さらには津波による影響もあったりと,大学入学共通テスト2年目も,落ち着いて取り組ませてくれない状況となった。
 さて,「大学入学共通テスト」で,これまでの「大学入試センター試験」から変化させる新傾向の出題方針として挙げられていることをまとめておくと,次の3点だ。今年度の問題では,どこまでそれらが反映されているのかも念頭に置きつつ,講評していくことにする。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”

 また,平成30年の試行調査時に,物理・化学・生物・地学に関する今後の作問における出題方針として重視するとされたことも,ここで再度確認しておこう。

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<物理・化学・生物・地学>
・科学的な探究の過程を重視します。自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論することが求められます。教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないものも含め,資料等に示された事物・現象を分析的,総合的に考察することができるかという,科学の基本的な概念や原理・法則などの深い理解を伴う知識や思考力等を問う問題や,仮説を検証する過程で数的処理を伴う思考力等が求められる問題なども含まれます。

https://www.dnc.ac.jp/news/20181111-01.htmlより引用
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[全体講評]

 ざっと解いてみての僕の第一印象は,公式に代入する問題はほとんどなく,よく考えなくては答えられない問題が結構あるなぁ……,であった。昨年度は,あんまり「大学入試センター試験」と出題傾向が代わり映えしていないような印象だったのだが,今年度はそういった印象ではなく,大きく傾向の変化を感じた。
 特に,第2問では,“科学的な探究の過程を重視します。自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論することが求められます。”という重視する出題方針が見事に反映されている出題となっており,仮説を反論するためにさまざまな実験を取り扱っていくという流れが,これまでに類を見ない出題形式となっていた。さらに,この第2問では,定量的ではなく,定性的に実験結果の予想をさせており,物理法則をうまく適応できるかといった,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”に仕上がっていた。受験生にとっては,ほとんど経験がないような形式での出題であったので,戸惑ったに違いなかろう。実は,このような出題形式は,今年度の「物理基礎」でも出題されている。これらから考えるに,次年度以降も,仮説などを設定して,それが正しいとか,間違っているとかいうのを,様々な実験を通して考察していくような,“課題の解決に向けて主体的に考察・推論する”といった問題が,今後の出題傾向になっていくのではないかと思わざるを得なかった。
 また,第3問では,電磁誘導に関しての実験について扱っているのだが,オシロスコープの結果から,どのように実験を変化させたのかを考察させるという,これもあまり見かけたことのない出題形式であったと思う。第2問と同様に,定性的に考えながら現象を扱っているため,これまでのように,物理といえば,公式に数値を代入すればよいというような学習方法では,全く歯が立たなくなったといえよう。しっかりと物理法則について理解し,その意味も分かっていないと,何がどう変わったらから,どの値がどのように変わり,結果として現象がこうなるというような正解まで,たどりつけないようになってきたわけだ。
 第4問では,ガッツリ原子分野からの出題であった。「大学入学共通テスト」になって,選択問題は廃止すると謳われてはいたが,今年度は大問として原子分野からの出題となったので,高校現場に向かって,「物理」の内容は,最後の最後まで,1月までにしっかり学習を終えなくてはならないぞぉ〜ということを再度アピールするというメッセージにもなっているように感じた。ただその内容としては,ボーアの原子模型の基本問題であり,使用している図も,文字も,考え方の道筋でさえも,教科書で紹介されている通りの内容であったし,問題文で,ご丁寧にも,ボーアの量子条件まで紹介してくれているため,学習して理解している受験生にとっては,非常に点数が取りやすい問題の類だったに違いない。これまでは,この類の問題は個別試験ではよく出題されている内容であった。今後は,「大学入学共通テスト」でも,出題されるレベルになったと認識を改めねばなるまい。ちなみに,僕がこの分野を授業で扱うときは,「変更できたとしても使用する文字くらいだから,出題されたならワンパターンの点取りサービス問題だ!」として印象付けるようにしている。そう,つまり,今年度の「大学入学共通テスト」は,サービス問題以外の何物でもなかったのである! 超ラッキーっ!! とはいうものの,問2は数値計算面倒すぎっスよ!!
 また,今年度は,新方針になって登場するようになった「□.□×10^□」の解答形式は,第3問の問1で1箇所だけに登場していた。しかし,有効数字1桁という,とってつけたような登場のしかたであった。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,平面における波の重ね合わせ,凸レンズ,剛体,熱機関,平行電流間にはたらく力,の問題であった。従来の「大学入試センター試験」の出題傾向とさほど違いはなく,基本的な内容を問う問題ばかりであった。原子分野からの出題はなかった。また,問4は,熱力学の大問としても扱えそうな,様々な状態変化の理解を必要とする,やや難度の高い問題であったように感じた。
問1)平面における波の重ね合わせの問題。問題文で,小球をS1,S2にて逆位相で単振動させた場合であることがよく分かるように,わざわざゴシック体にして問題文中に書いてくれているという新設設計。図1のように,実線に,破線を谷に対応させる作図は,教科書などでおなじみであろう。Pで水面波が互いに強め合うには,経路差が半波長ずれていればよい。Δl=|l1―l2|=(m+1/2)λ。つまり,Aが正解。基本問題。【易】
問2)凸レンズの問題。凸レンズで,像はどのようになるかが問われた基本問題。凸レンズでは,図2(a)のようにレンズの焦点よりも外側の像は,レンズを通すと,倒立実像がスクリーン上にできる。上下左右に反転するのだから,観測者がレンズ側から見ると,スクリーン上の像はBとなる(←[2])。【易】
また,図2(b)のように,レンズを半分遮ると,B像の全体が暗くなった。この,レンズを半分遮ると像はどうなるのかという設問で,過去に同じような問題が出題されたのを思い出した。2013年「物理T」第3問A問1の選択肢の中から正しいものを選べという選択肢のひとつに出題されていた。当時の僕自身のかいた講評&説明を紐解いていただけるとわかるのだが,“あまり授業では扱わない”ので,僕自身は,他の選択肢の間違いを指摘し,余ったので正解であるとして説明をしている。この問題がセンター試験で出題されて以降は,各種問題集で,レンズを半分遮ると像はどうなるのかという問題が載るようになったように思う。センター試験の出題によって,その後,各種問題集で扱われた典型例だろう。ちなみに,中学校のレンズのところでも,レンズを半分遮るとどうなるかという問題が出るようになったようだ。【易】
問3)剛体の問題。“静止している”とあるので,力のモーメントのつり合いの式を立てる。糸に円板が吊るされ,さらに円板のなかに物体の付いた糸をくっつけ,その状態で静止しているなどという,なかなか複雑なシチュエーションである。しかし,円板は均一であることより,円板の重心はOに集中していると考えればよく,Cのまわりの力のモーメントを考え,それらのつり合いの式を立てればよい。角OPCをθとすると,円板にはたらく重力 Mg のモーメントは,反時計回りを正とすれば,+Mg×xcosθ。Qに吊るした物体の重力 mg のモーメントは,−mg×(d−x) cosθ。Cのまわりの力のモーメントを考えているので,Pにはたらく糸の張力の力のモーメントは,0。よって,力のモーメントのつり合いの式は,Mg×xcosθ − mg×(d−x) cosθ + 0 = 0。よって, となる。Aが正解。【普通】
問4)熱力学における,p−Vグラフで示された状態変化についての問題。グラフが閉じているので,これは,熱機関(熱サイクル)である。A,B,Cの各状態での内部エネルギーの大小を問われているので,それぞれの内部エネルギーをはじめの状態Aから,順に求めてみよう。単原子分子理想気体として求めてみることにする。
状態A)UA = 3/2・nR・TA = 3/2・pA・VA
状態B)AからBへは定積変化なので,pB > pAより,
    UB = 3/2・nR・TB = 3/2・pB・VA > UA とわかる。   ……<1>
状態C)BからCへは断熱変化(ΔQ=0)なので,熱力学第一法則(ΔQ=ΔU+W)により,ΔU = −W となる(Wは外へした仕事)。この変化において,気体は外へ仕事をしている(体積が大きくなっている VC>VB)から,Wは正の値となる。つまり,ΔU = UC − UB = −W < 0。すなわち,
    UC < UB   ……<2>
    また,CからAへは定圧変化(pC = pA)で,体積は小さくなっている(VC > VA)ので,ΔU = UC − UA = 3/2・pC・VC −3/2・pA・VA = 3/2・pA・(VC − VA) > 0。すなわち,
    UC > UA   ……<3>
    以上,<1>,<2>,<3>より,UA < UC < UB の大小関係が導ける。Aが正解。結果的には,<2>,<3>だけから求まるが,状態変化を順に理解していくために,ここでは状態Aからの変化を順番に説明した。せっかくなので気体の温度でも説明しておくと,AからBの定積変化では,気体は熱を吸収して温度は高くなる。BからCの断熱変化では,気体は熱エネルギーを使用して外に仕事をするから,温度は低くなる。CからAの低圧変化では,気体は外から仕事をされるが,熱を外に放出する。結果として,内部エネルギーが小さくなるのだから,温度はさらに低くなる。つまり,TA < TC < TB の関係となる。【やや難】
問5)平行電流間にはたらく力を,右ねじの法則やフレミングの左手の法則から導くという,法則をしっかり理解していれば容易に正解が導ける基本問題。導線1の電流が導線2の位置につくる磁場の向きは,右ねじの法則により,(c)の向きとわかる(←[ア])。この磁場か導線2を流れる電流が受ける力向きは,フレミングの左手の法則により,(d)の向きとわかる(←[イ])。つまり,同じ向きに流れる平行電流のときは,導線間には引力がはたらくのである。直線電流のまわりの磁場の大きさは,H = I / 2πr であることより,導線2の長さ l の部分が受ける力の大きさは,F = l・I2・B1 = l・I2・μ0・H1 = l・I2・μ0・(I1 / 2πr) = μ0・(I1・I2 / 2πr)・l である(←[ウ])。よって,Fが正解。【普通】
ちなみに,[ウ]だけ間違えたGを選んだ場合でも3点。[ウ]だけ正解の場合の@,B,Dのいずれかを選んだ場合でも2点の部分点があるようだ。この問題は,今年度の「物理」で唯一の部分点の与えられた問題であった。

第2問
 昨年度はA,Bに分かれていたが,今年度は分かれていなかった。平成30年の試行調査において作問する上で重視する,“科学的な探究の過程を重視します。自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論することが求められます。”という出題方針が見事に反映されている出題となっており,問題の流れとして,仮説を科学的に反論するために,さまざまな実験を取り扱っていくという,これまでに類を見ない出題形式となっていた。また,定性的に実験結果を扱っており,運動に関する法則をしっかりと理解し,適応できるかの能力が問われた総合問題として,実によく練られた問題であると感じた。実際に目の前の現象を科学的に探究する過程を疑似体験できるような問題の流れになっていることも,重視された出題方針に沿っていたと思う。とはいうものの,内容としては,前半はニュートンの運動の第2法則を導くときに,授業でも扱う基本的な実験であったので,受験生には取り組みやすかったと考えられる。後半は力積と運動量の問題となっており,問5は,台車から小球が打ち上げた直後の小球の速度の水平成分を忘れて,間違ってしまった受験生も多かったのではないだろうか。
問1)まず,速さ v が,力の大きさ F に比例することより,Aが間違いだとわかる。次に, v が物体の質量 m に反比例することより,@,A,Bが間違いだとわかる。以上より,Cが正解。グラフが,v−Fグラフ だったり,v−mグラフ だったりするので,焦っていると間違えそうだ。【普通】
問2)【実験1】では,引く力の大きさと速さの関係を調べる実験であるため,“@ばねばかりの目盛りが常に一定になる”(←[8])ようにし,各測定では,“A力学台車とおもりの質量の和”を同じ値にする(←[9])。実験操作の基本を問うた問題である。完答のみ点が与えられるようだ。【易】
問3)【実験2】では,物体の質量と速さの関係を調べる実験であるため,引く力を各測定で一定にして比較する。この問3では,図2の v−tグラフ の結果を読み解く力が問われた。“資料やデータ等をもとに考察する場面”である。ただ,実験結果のグラフに初めからフィッティングした直線が引いてあり,生データの点だけのグラフではなかったので,取り組みやすかっただろう。Aさんの仮説の後半部分のvがmに反比例することが誤りだと判断できる根拠として,最も適当なものは,“Cある質量の物体に一定の力を加えても,速さは一定にならない。”である。つまり速さが質量に反比例しているかはわからないぞということだ。ちなみに,“@質量が大きいほど速さが大きくなっている。”かどうかは,時刻によって変わるので一概には言えない。“A質量が 2倍 になると,速さは 1/4倍 になっている。”かどうかも,時刻によって変わるので一概には言えない。さらに,“B質量による運動への影響は見いだせない。”わけではなく,グラフの傾きの差が見いだせるので誤りだ。【普通】
ここからは,物体の運動状態の変化を運動量と力積を用いて議論していくことになる。
問4)“物体の運動量の変化=その間に物体が受けた力積”という関係から,図2のグラフを運動量−時刻グラフに描き直すとどうなるかという問題である。つまり,縦軸の運動量は,mv = Ft で求められるから,運動量は,力積 Ft として考えてねということだ。すると,時刻 t に比例したグラフになることが即座にわかる。次は,その傾き F がどうなるかを見抜く必要がある。というか,【実験2】では,物体の質量と速さの関係を調べる実験であるため,引く力を各測定で一定にして比較したのだった。つまり,傾き F は一定なのである。Cが正解。【普通】
問5)物体が分裂するといえば,運動量保存則だ。しかも,問題文にもご丁寧に,“小球の打ち上げの前後で,台車と小球の運動量の水平成分の和は保存する”と,教えてくれている。というわけで,水平成分で運動量保存則の式を立てる。注意点としては,台車から小球を打ち上げた直後の小球の速度の水平成分が,分裂直前のVであるということ(慣性の法則)を見誤らないことだ。
     打ち上げ直前(一体)      直後 台車    小球
        (M1+m1)V       =   M1V1  +  m1V
   つまり,V = V1 という関係となる。@が正解。【やや難】
   台車から小球を打ち上げた直後の小球の速度の水平成分が0になると見誤ってしまった場合は,Aの (M1+m1)V = M1V1 を選んでしまったに違いない。
問6)物体が合体するといえば,これまた運動量保存則だ。また,合体の前後で全エネルギーの保存則は成り立つが,運動エネルギーが保存するとは限らない。よって,Cは誤り。運動エネルギーは向きを考えないので,Dも誤り。運動量保存則を考えるが,運動量はそれぞれの向きの成分で考えるため,Aは誤り。よって@かAに絞られる。水平成分の運動量保存則の式を立てると,
     合体直前 台車    小球     直後 台車と小球(一体)
          M2V  + m2・0   =     (M2+m2)V2
となるので,@は誤りで,Bの“M2V = (M2+m2)V2 が成り立つ”が正解。【普通】

第3問
 電磁誘導の実験についての問題。オシロスコープで測定した電圧の変化の結果から,様々なことを読み取れるかどうかを問われた問題である。さて,これまでも思ってはいたのだが,センター試験のころから音波や電気の問題でオシロスコープの出力がたびたび出題されるのだが,はたして,現実問題として,高価なオシロスコープを生徒実験に用いている高校現場など,ほとんどないのではなかろうか。僕自身の経験でも,大昔の理振で購入したような,小さいブラウン管の緑色モニタのオシロスコープが1台しかない学校ばかりだったし(しかも,使われていないのか埃まみれ),以前,理振の付いた年に購入できた時もあったのだが,その時の最新式のデジタルオシロスコープは,1台の購入が精いっぱいであった。よって,“授業において生徒が学習する場面や,(略),資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”という出題方針に則った設問を目指したのであろうが,まったく現実におこなえる生徒実験とはかけ離れていると思うのである。何が言いたいのかというと,オシロスコープを使った実験の問題を見るたびに,オシロスコープなどない現場を再認識させられることになり,もっと,理科教育にお金をかけないと,日本の科学教育の未来は明るくないと痛感するのである……。まぁ,今年度の問題では,電圧と時間のグラフとしてオシロスコオープの出力が表現されているので,一般的な電圧計での実験しか経験していない受験生でも,特に問題なく解くことができたとは思うが……。ほんと,教育に金をかけない日本には,がっかりだ……。資源もなく,近年は優秀な人材までも海外に流出し始めており,もはや何も日本に残らないのではないかと危惧している。こんなんでいいのか,ニッポンよ?
問1)図2より,急激な電圧変化の間隔は,0.4[s]であることが読み取れる。よって,台車が等速直線運動をしていると仮定したので,0.20[m]のコイル間の距離を0.4[s]で通過したことになり,台車の速さは,v = x/t = 0.20/0.4 = 0.5 =5×10^−1[m/s]とわかる。[14]にはDが入り,[15]には@が入る。完答のみ正解。【易】
問2)電磁誘導という現象について,しっかり理解できているかを問うた問題。
   コイルに電磁誘導による電流が流れると,
   台車がコイルに左側から近づくときは,コイルの左側がN極となるように磁場が生じ(電磁誘導),台車に取り付けた磁石のN極側と斥力で反発しあうため,台車の速さを小さくする。次に,台車がコイルを通過して右側に遠ざかるときは,コイルの右側がN極となるように磁場が生じ(電磁誘導),台車に取り付けた磁石のS極側と引力で引きあうため,台車の速さを小さくする。
   よって,台車がコイルに近づくときも,コイルを通過後に遠ざかるときも,ともに,誘導電流による磁場は,台車の速さをA小さく(←[16])する(クーロン)力を及ぼす。【普通】
   しかし,実際の実験ではこの力は小さいので,台車の運動をほぼ等速直線運動とみなしてよいのだが,その理由は,オシロスコープの内部抵抗がB大きいので,コイルを流れる電流が小さい(←[17])からである。なぜなら,ソレノイドコイルに生じる磁場の大きさは,H = nI なので,電流に比例するからだ。【普通】
   空気抵抗も台車の加速度に影響を与えると考えられるが,この実験では台車が遅く,さらに台車の質量が@大きい(←[18])ので,空気抵抗の影響は小さい。【易】
   特筆すべきは,[17]と[18]は完答のみで3点が与えられたということだ。それぞれ,まったく別の影響を答えさせているにも関わらず,なぜか,完答のみでしか点が与えられないようだ。なんたる理不尽っ!
問3)図3から読み取れることは,条件の変更後では,最大電圧(ピーク電圧)と最小電圧の値がともに2倍になっているということである。急激な電圧変化の間隔は 0.4[s]のままであることより,台車の速さは同じであるといえる。その条件で電圧を2倍にするためには,磁束変化を2倍にする必要があるので,Dのみが少し変えた条件とわかる。もちろん,選択肢にはないが,コイルの巻き数を2倍にしても同じ結果が得られる。【やや易】
問4)Aさんがコイルを3つにして,同様に実験を行った結果である図5と,Bさんが行った同じような装置で実験を行った結果である図6との違いは,1つめのコイルを通過するときの急激な電圧変化の正負の符号が逆になっていることだけだ。そうなるのは,コイル1の巻き方が逆であるときだ。Bが正解。問題文で,分量として2ページもとっているのだが,多くの受験生が即答できたに違いない。【易】
問5)台車が斜面に沿ってすべり降りた場合はどうなるかを考察させる問題。“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたると思われる。台車は,等加速度直線運動をしながらすべり降りていくことに気が付けば正解はたやすく見抜けよう。だんだん台車の速さが大きくなるわけだから,急激な電圧変化の間隔が次第に短くなっているものでかつ,ピーク電圧がだんだん大きくなっているものを選べばよい。Cが正解。【普通】

第4問
 大問として原子分野からの出題であった。内容は,ボーアの水素原子模型に関する基本問題である。「大学入学共通テスト」になって,選択問題は廃止すると謳われてはいたが,今年度は大問として原子分野からの出題となったので,高校現場に向かって,「物理」の内容は,最後の最後まで,1月までにしっかり学習を終えなくてはならないぞぉ〜ということを再度アピールするというメッセージにもなっているように感じた。ただ,使用している図も,文字も,考え方の道筋でさえも,教科書で紹介されている通りの内容であったし,問題文で,ご丁寧にも,ボーアの量子条件まで紹介してくれているため,学習して理解している受験生にとっては,非常に点数が取りやすい問題の類だったに違いない。ちなみに僕自身が受験生のとき(ウン十年前)には,ボーアの水素原子模型の問題が出たら,教科書とほぼ同じである出題しかなされない(使用する文字を少し変える程度しかアレンジできない)ので,「キタァァ〜〜〜〜〜! 点取り問題っ! ラッキ〜〜〜〜〜!」と,心の中で思わずガッツポーズをしていたくらいだ(笑)。
問1)半径 r の円軌道上を一定の速さ v で運動する電子の角速度 ω は,等速円運動をしているというモデルなので,v = rω の関係より,ω = v/r (←[ア])で与えられる。時刻 t でも速度 v1 と微小な時間 Δt だけ経過した後の t+Δt での速度 v2 との差の大きさは,vωΔt = v・(v/r)・Δt = (v^2 / r)・Δt (←[イ])である。なぜなら,弧度法を用いると,半径 r[m]の円においては,中心角 1[rad]に対する円弧の長さは r[m]となり,中心角 θ[rad]に対する円弧の長さを l[m]とすると,l = rθ となるからだ。等速円運動の基本事項である。Eが正解。【普通】
問2)はっきりいって,数値計算が極めて面倒だっただけの,公式に数値を代入するだけの問題であった。ただ,選択肢を見ると,10ずつ異なるのだから,×10の指数部分 だけの計算(いわゆるオーダー計算)だけでも正解にたどり着けたと思われる。せっかくなので(?),ここでは,しっかりと計算してみることにする。
   万有引力: Fg = G・Mm/r^2 = (6.7×10^−11)×(1.7×10^−27)×(9.1×10^−31)/r^2 = (103.6…×10^−69)/r^2
   静電気力: Fe = k0・e^2/r^2 = (9/0×10^9)×(1.6×10^−19)^2/r^2 = (23.04…×10^−29)/r^2
   と,頑張って計算するとなるので,万有引力は静電気力のおよそ,
   Fg / Fe = 4.498…×10^−40 倍であることがわかる。Cが正解。まともに計算するととても面倒だったに違いない……。【普通】
問3)ボーアの水素原子モデルにおいて,ボーアの量子条件を満たす電子のエネルギー En を求める,いわゆるひとつのワンパターンの点取り問題である。電子のエネルギーは,電子の運動エネルギー+静電気力による位置エネルギーであるから,En = 1/2・mv^2 +(−k0・e^2/r) である。電子が半径 r の等速円運動をしていることから,その運動方程式は,m・v^2/r = k0・e^2/r^2 である。この式を 1/2・m・v^2 = 1/2・k0・e^2/r と変形して,En に代入する。つづいて,問題文中にもかかれている v を含まない水素原子の電子の軌道半径である r = h^2 /(4π^2・k0・m・e^2)・n^2 を代入して整理すると,En = −2・π^2・k0^2 × m・e^4 / n^2・h^2 が求まる。Cが正解。計算手順は決まりきっているし,使用されている文字も教科書でおなじみの文字であるため,何度も自分で求めた経験のある受験生にとっては,確実に点が取れたはずだ。【やや易】
問4)エネルギー順位が高いところから,低いところへ移るときに,そのエネルギーの差の分が光子として放出される。線スペクトルとして観測されるものである。E −E´= hν の関係となる。これを,振動数条件という。変形して,ν = (E −E´) / h となるので,Aが正解。【やや易】


以上。



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