2022年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明


2022年01月24日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2022年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明

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[はじめに]

 今年度は,「大学入学共通テスト」の2年目だ。昨年度のように,新型コロナウィルスの感染拡大による措置として,第1日程と第2日程の2回の本試の実施はされず,本試は1回だけの実施であった。
 今年度は,直前までは新型コロナウイルスの感染が収まっていたものの,オミクロン株の急拡大による時期と重なってしまった。また,東京大学の会場では事件も起こり,さらには津波による影響もあったりと,大学入学共通テスト2年目も,落ち着いて取り組ませてくれない状況となった。
 さて,「大学入学共通テスト」で,これまでの「大学入試センター試験」から変化させる新傾向の出題方針として挙げられていることをまとめておくと,次の3点だ。今年度の問題では,どこまでそれらが反映されているのかも念頭に置きつつ,講評していくことにする。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”


[全体講評]

 まず,解いてみての僕の素直な感想として,“定性的”な問われ方をしている設問が多かったな,であった。昨年度のようにせっせと数値計算をして解答を求めるような問題ではなく,ある物理量を大きくしたり小さくしたりしたときに,どのようにほかの物理量が変化するのかということを,いろいろな問い方で問うている設問が多かったように感じられた。
 しっかりとその物理量について理解されており,また,法則や公式の正しい知識も同時に利用して考察しなければならない,すなわち,“知識の理解の質を問う問題”,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”という,新傾向の出題方針にのっとった設問が多かったという感想である。
 さすがに出題者も,新傾向を強め過ぎたと感じた(?)のであろうか,例年になく部分点が多く与えられているようにも感じた。
 今回特筆すべきなのは,第3問の会話形式による,様々な分野について立て続けに問われた出題であろうか。スプーンBが純金製ではないことを,さまざまな方法を使って証明していこうという,実験によって科学的に解明していくという,新傾向の“社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”に相当する出題であった。また,この寸劇は,アルキメデスの原理の発見に至ったとされる有名なエウレーカの逸話をたぶん基にしており,出題者のドヤ顔が容易に想像される出来栄えの工夫されまくった問題だったと思う。
 今年度も,新傾向で登場するようになった「□.□×10^□」の解答形式が1箇所登場していた。しかし,指数部分がはじめからかかれており,計算もそう複雑ではなかった。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,相対速度,運動の法則,力学的エネルギー,波動(縦波),の問題であった。また,問2は,ニュートンの運動の第1法則(慣性の法則)と,ニュートンの運動の第2法則(運動の法則)を,しっかりと理解できているかを問うた,良問であった。
問1)相対速度の問題。受験生が苦手とするところかもしれない。“電車Aに対する電車Bの相対速度”とは,電車Aから見た電車Bの相対速度のことである。右向きを正とすれば,vB←A=vB−vA=(−15)−(+10)=−25[m/s]である(←[ア])。また,“電車Aの先頭座席に座っている乗客の真横に,電車Bの先頭が来てから電車Bの最後尾が来るまでに要する時間”は,“電車Aに対する電車Bの相対速度”で電車Bの長さ分(100[m])をどれだけの時間で通過するかを問われているわけなので,t = x/v = 100/25 = 4.0[s]とわかる(←[イ])。相対速度の求め方が,“〜から見た”の基準を引くのだということを理解していれば正解できる。正解はFだ。【普通】
なお,[ア] が 25[m/s]であることだけを導けたGを選んでしまっても,部分点は2点与えられるようだ。
問2)糸につるしたおもりを持ち上げる,よく見かける基本問題である。しかし,グラフにておもりが糸から受ける力 F の大きさを示していたり,結果が数値ではなく,おもりの運動の状態を文章で述べられている中から選ぶという,ひと工夫を感じさせる出題形式だった。この問題はそれだけにとどまらず,運動方程式を立てて考えたり,さらには,慣性の法則の理解も必要となってくる,いわゆる良問であったと言えるだろう。
さて,おもりにはたらく重力は,鉛直下向きに mg である。鉛直上向きを正とすれば,おもりの運動方程式は,ma=F−mg となる。各区間ごとに順に考えていこう。
 区間1)F=mg であるから,運動方程式に代入すると,ma=mg−mg=0。すなわち,a=0 であり,おもりは加速度運動をしているわけではないことがわかる。言い換えれば,おもりにはたらく力はつりあっている。問題文にあるように,はじめおもりは静止しているので,区間1では,おもりは静止したままということになる(a)。慣性の法則が問われているわけだ。
 区間2)F>mg であるから,運動方程式に代入すると,ma=F−mg>0。つまり a>0 である。区間2では,おもりは鉛直上向きに等加速度直線運動をしている(c)。この区間では,運動の法則が問われているわけだ。
 区間3)再び F=mg としたのだから,運動方程式に代入すると,ma=mg−mg=0。すなわち,a=0 であり,おもりは加速度運動をしているわけではないことが分かる。言い換えれば,おもりにはたらく力はつりあっている。おもりの運動は,直前の速度での等速直線運動となる。区間3では,おもりは鉛直上向きに等速直線運動をするということになる(b)。ここでも慣性の法則が問われているわけだ。力がつりあっていれば静止していると安易に考え,(a)を選んでしまった場合(B)でも部分点が2点与えられる受験生にやさしい出題者だった。
以上により,正解はC。繰り返すが,良問だった!!【普通】
問3)鉛直投げ上げ運動における,力学的エネルギーに関する問題であった。まず,重力による位置エネルギーは U=mgh であるから,小球の高さに比例する。つまり,破線のグラフは,比例のグラフとなる。選択肢はすべて候補だ。次に,小球の運動エネルギーであるが,小球にはたらく外力が重力以外ないことより,力学的エネルギー保存則が適用できる。重力による位置エネルギーと運動エネルギーの和が一定になるような変化をしているものを選ぶこととなる。(c)だ。力学的エネルギーの保存則は,小球の上昇中,下降中を問わず成り立つので,上昇中,下降中とも,(c)の関係となる。Hが正解。【易】
しかしまあ,縦軸にエネルギーをとり,横軸に y座標 をとるという,いままで見たことがない軸のとり方をしたグラフだったのが,印象に残った。
問4)受験生が苦手とする(と思われる)縦波の問題であった。差がついた問題の1つだったと考えられる。問題文をよく読めば,教科書で扱う縦波の項目そのままの出題であることが分かるので,しっかりと教科書を理解していれば悩むことなく正答が得られただろう。
まず,密と密の間隔が L であることより,波長λが L だとわかる。つぎに,(ii)の状態から再び(ii)の状態になるまでに経過した時間(これが周期)から,周期 T が T とわかる。よって,波の基本式(v = fλ = λ/T)より,縦波が媒質中を伝わる速さは,v = λ/T =L/T である(←[ウ])。また,(ii)において,媒質の変位がすべて左向きであるのは,a の部分である(←[エ])。これは,(i)と(ii)を見比べれば容易にわかる。Dが正解。なんと,@を選んだ場合は3点,EFGを選んだ場合も1点が与えられるという,大盤振る舞いのようだ。やはり,出題者も受験生が縦波を苦手としていると認識しているのであろう。【易】

第2問
 Aは,電気抵抗とジュールの法則の問題。Bは,消費電力に関する問題であった。いずれも,電気分野からの出題だ。Bは,交流電源を用いているが,問題文中に“電力量は,交流電源の電圧を100[V]として直流の場合と同じように計算してよい”とあるので,交流回路をよく知らなくても,特に問題なかったと思われる。

 電気抵抗(電熱線)の直列接続と並列接続によって,水の温度を上昇させる実験である。正しい記述をすべて選べという解答形式であり,これは,大学入学共通テストの試行調査で登場した解答形式である。よくある物理の問題と異なり,どの順番で記述が正しいかを確認していくのかが問題文で示されていないので,慣れていない受験生には,取り組みにくかったかもしれない。また,定性的な問われ方をしているので,着目する物理量の大小を正しく見抜かねばならないため,公式暗記&数値代入だけでは得点できない類の問題だったと思われる。“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”といったところか。それにしても,オール電化でIHが全盛の時代に電熱線なんて,もはや時代おくれなのではないかな? と思ったり,思わなかったり。
問1)電熱線AとBを直列に接続した場合なので,AとBに流れる電流Iは同じである(アは誤り)。また,それぞれの水は同じ量で同じ温度から始めて,同じ時間たっているので,電熱線の発熱量が,そのまま温度に反映される。ジュールの法則によるジュール熱は,Q = VIt = R・I^2・t = (V^2/R)・t であることから,同じ電流 I で同じ時間 t の場合なので,Q∝V,Q∝R の関係がある。よって,Aの温度がBの温度より高かったことから,QA>QB だから,VA>VB となり(ウは正しい),RA>RB となる(イは誤り)。よって,ウのみ正しい。Bが正解。【易】
問2)電熱線CとDを並列に接続した場合なので,CとDの両端電圧 V は同じである(ウは誤り)。また,それぞれの水は同じ量で同じ温度から始めて,同じ時間たっているので,電熱線の発熱量が,そのまま温度に反映される。ジュールの法則によるジュール熱は,Q = VIt = R・I^2・t = (V^2/R)・t であることから,同じ電圧 V で同じ時間 t の場合なので,Q∝I,Q∝1/R の関係がある。よって,Cの温度がDの温度より高かったことから,QC>QD だから,IC>ID となり(アは正しい),RC<RD となる(イは正しい)。よって,アとイが正しい。Cが正解。【易】

 交流の問題である。ちなみに昨年も交流の問題が出ていた。物理基礎の交流に関する内容は,非常に扱いが少ないが,直流よりもはるかに“社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”であり,出題方針にのっとっていると思われる。ただ,高校現場では,おそらく多くの学校で,交流を丁寧に扱っているとは考えにくく,さらに,今回問われた交流回路での消費電力までは,しっかりと扱えていないのではないかと思われる。ただ,出題者もそこまで予想してか,してないのかもしれないが(?),問題文中に“電力量は,交流電源の電圧を 100[V]として直流の場合と同じように計算してよい”と計算方法を教えてくれているという新設設計ではあった。
問3)電力とは電流が単位時間(1秒間)あたりにする仕事のことなので,単位時間あたりのエネルギー量であると考えると,ドライヤー全体でエネルギー保存則が成り立たねばならない。つまり,消費電力の和は,変化しないということだ。よって,C P=Ph+Pm が正解。【易】
問4)交流回路における電力量も,実効値をつかえば,直流の場合と同じように計算できる。つまり,W = VIt = R・I^2・t = (V^2/R)・t で求められる。100[V],10[Ω]。2分間(2×20=40[s])のときは,W = (V^2/R)・t = (100^2/10)×(2×60) = 1200000 = 1.2×10^5[J]となる。公式を知っていて,数値を代入できれば正解が得られるという基本問題。今回唯一の新傾向で登場するようになった「□.□×10^□」の解答形式ではあったが,指数部分にはじめから5乗とかかれており,計算もやさしかった。[8] に@,[9] にAが入る。当然完答のみが正解とされる。【やや易】

第3問
 演劇部の公演の一部という設定で,会話形式による,様々な分野について立て続けに問われた出題であった。……とはいうものの,会話形式なのは一部にとどまり,細工師を追い詰める緊迫感のあるようなドラマチックな内容ではなく,地の文で設問に当たる部分を説明してしまっており,はっきり言って普通の問題と化していたので,会話文にした意味があまりないと拍子抜けしたのは僕だけだろうか。内容としては,スプーンBが純金製ではないことを,問1では比熱の違いで,問2では密度の違いで,問3では抵抗率の違いで,それぞれ証明していこうという,実験によって科学的に解明していくという,新傾向の“社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”に相当する出題であった。とくに,問2の密度の違いでは,アルキメデスの原理の発見に至ったとされる有名なエウレーカの逸話をたぶん基にしており,出題者のドヤ顔が容易に想像される出来栄えの工夫されまくった問題だったと思う。
問1)スプーンAとBの比熱の違いを根拠に,Bが純金製ではないことを認めさせようとしているという内容だ。スプーンAを水に入れた場合とBを入れた場合では,わずか 0.1 ℃ ではあるが,熱平衡の温度がAのほうがより温度が低くなった。この結果より,BのほうがAより冷えにくいことが分かる。つまり,Bのほうが比熱が@大きい(←[10])といえる。なぜなら,比熱というのは,単位質量の物質を 1[K]上昇させるのに必要な熱量であるからだ。これに対し,細工師はわずか 0.1 ℃ では,同じ温度のようなものと逃げている。もっと温度変化を大きくするためには,この実験における水の量をA半分(←[11])にしたり(水の量が少なければより温まりやすい),水に入れる前のスプーンと水の温度差を@大きく(←[12])すればよい(温度差が大きい方が熱平衡状態での温度差も大きくなる)。この設問で問われていることは,比熱というものが正しく理解できているどうかであった。……しかしなぜ,王女はそんな基本的なことに気が付かなかったんだろうか???【普通】
ちなみに,[11] および [12] のみの正解でも3点の部分点がもらえるようだ。
問2)スプーンAとBの密度の違いを根拠に,Bが純金製ではないことを認めさせようとしているという内容だ。この設問はアルキメデスの原理の発見に至ったとされる有名なエウレーカの逸話をたぶん基にしている。水中で図2(ii)のように,スプーンAが沈んだ理由は,Bにはたらく重力の大きさは,Aにはたらく重力の大きさBと同じであり(←[13]),Bにはたらく浮力の大きさは,Aにはたらく浮力の大きさ@よりも大きいため(←[14])である。アルキメデスの原理によれば,浮力の大きさは F = ρVg であるので,スプーンの体積に比例する。つまり,Bの体積はAの体積よりも@大きく(←[15]),AとBの密度が違うとわかる。細工師は,形状が少し違うからと言いかけたが言葉に詰まったとあるのは,形状が異なっても,同じ純金製であれば,体積は同じになるはずだからだと気が付いたからだろう。【普通】
ちなみに,[13] および [14] のみの正解,または,[14] および [15] のみの正解でも3点の部分点がもらえるようだ。なんか,まったくわからなかったとしても,またはあてずっぽうで選んだとしても,部分点がもらえそうにしか思えないぞ! それでいいのか,出題者よっ! 王女は悲しんでいるぞっ!(苦笑)
問3)スプーンAとBの抵抗率の違いを根拠に,Bが純金製ではないことを認めさせようとしているという内容だ。この設問だけは,数値計算をする必要がある。“資料やデータ等をもとに考察する場面”の設問だ。昨年度のような,生データをプロットしたようなグラフではなく,比例した一直線のグラフで実験結果が示された。針金にしたBの電気抵抗は,オームの法則(V=RI)より,RB = V/I = 1.0/0.24 = 4.166…[Ω]と求まる。グラフのどこの点を代入してもよいだろうが,今回は 1.0[V]のところで読み取った値を用いて計算した。B4.1[Ω]が(←[16])正解。この抵抗値から抵抗率を求める。ρと R の関係式は,R = ρ・l/S  であることを知っていれば,Cρ = R・S/l (←[17])を選べる。これは,知識問題+文字式の変形を問うた問題だ。【普通】
ちなみに,問題を解くうえでは必要ではないものの,実際に抵抗率を求めると,ρB = 4.1 × (2.0×10^-8)/1.0 = 8.2×10−8[Ω・m]となる。では,針金にしたAについても求めておこう。Aの電気抵抗は,RA = V/I = 1.0/0.95 = 1.052…[Ω]であり,その抵抗率は,ρA = 1.05 × (2.0×10^-8)/1.0 = 2.1×10−8[Ω・m]である。これはBのおよそ4分の1の値だ。王女と同じく,実際に僕も物理図録の巻末で金の抵抗率(0 ℃)を調べてみたところ,2.05×10^−8[Ω・m]とあった(理科年表 2016)。なるほど。Aは純金製のスプーンであったようだ。そして,細工師が逃げ出て幕が下りる。
……あの〜,王女さん? スプーンが両方とも針金になっちゃいましたけどぉ,いいんですかぁ??
こう考えると,逸話通りなら,シラクサ王だったヒエロン2世の頼みではあるものの,王冠を壊すことなく,純金製かどうかを判別したアルキメデスの偉大さがよくわかる設問であった。


以上。



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