2021年度 大学入学共通テスト「物理(第2日程)」 の講評&説明


2021年02月09日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2021年度 大学入学共通テスト「物理(第2日程)」 の講評&説明

(C) Copyright 2021 MATSUNO Seiji


[はじめに]

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け,「大学入学共通テスト」は,今回新たに実施されるだけでなく,本試験の2週間後にも第2日程と称して,学習の遅れてしまった受験生や,本試験(第1日程)で,体調不良等による受験の延期に対応するため,本試験扱いで実施された。第1日程での試験の内容が,これまでの「大学入試センター試験」と大きく傾向が変更されていたため,第2日程の問題は,どうなっているのか,おそらく,日本中が気になるところであっただろう。
 ところで,大学入試センターに公開された解答をみると,右上に(X)と書いてあるのにお気づきか。ちなみに,先日実施された第1日程の右上には(Y)とある。もしかして,第2日程がなかったなら,(X)と書かれた今回実施された第2日程の試験が本試験として実施されていたのかもしれない……。
すでに,本試験(第1日程)のところで,これまでの「大学入試センター試験」から変わるであろう問題の傾向については述べているので,まとめとしての以下の3点と,物理・化学・生物・地学での出題に関する部分を再掲しておく。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”

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<物理・化学・生物・地学>
・科学的な探究の過程を重視します。自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論することが求められます。教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないものも含め,資料等に示された事物・現象を分析的,総合的に考察することができるかという,科学の基本的な概念や原理・法則などの深い理解を伴う知識や思考力等を問う問題や,仮説を検証する過程で数的処理を伴う思考力等が求められる問題なども含まれます。

https://www.dnc.ac.jp/news/20181111-01.htmlより引用
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[全体講評]

 さて,どうこれまでの「大学入試センター試験」と比べて,出題傾向が変化しているのか,第1日程のときに感じたような出題傾向の変化がやはり表れているのか,という目で問題を解いてみた感想だが,あんまり「大学入試センター試験」のときと出題傾向の変化はないんじゃないか? という印象をもった。定性的に現象を扱う問題もあり,文字式で計算し答える必要のある問題もあり,数値計算の問題もありと,明らかに第1日程のときとは異なっていた。試行調査で導入され,第1日程でも登場した,数値で答える問題(「○.○×10^○」という解答方法)が登場していたり,“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”も出題されていた点は,新傾向を意識してはいると思えたが,問題文での説明も丁寧で,取り組みやすかったと思える。また,第1日程と同じように,選択問題はなくなり,全問題が必答となっていた。全問必答で,しかも,原子分野の問題も,小問の中にではあるものの,ガッツリ出題されていたので,個人的には大満足だ。
 出題形式は,「大学入試センター試験」とほぼ同じであった。第1問は,やや面倒ではあるが,どこかで見たことがあるような典型的な問題で構成された小問集合。大問として,第2問,第3問,そして第4問。すでに述べたように選択問題はい。「大学入試センター試験」では全部で大問5題を解く形式だったので,大問としての数は1つ減ったのだが,マークの数は増え,1問あたりの点数もいろいろになっている。また,部分点が設定されている解答が多かったのも特徴的だろう。
 では,各問題について,思ったことおおざっぱに述べておこう。
 第1問。小問集合。ただ,小問の形をとっているものの,それぞれの設問は,どこかで見たことがあるような典型的な標準問題であり,計算量も多く必要となるものもあった。問4では,ガッツリ原子分野の問題も出題されていたりして,なかなか骨のある問題ばかりで構成されていた。第1日程のときにも感じたのだが,今後は,第1問の小問は,「大学入試センター試験」のときのような,公式に代入するだけや知識のみで答えられるような基本的な問題は出題されないというように考えておいたほうがよいかもしれない。
 第2問のAは,図1で電流計と電圧計の指針の根元の構造がかかれているので,“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”なのかと思わせておいて,問われた内容は,単なる電流計と電圧計の基本的内容に過ぎなかった。一方,Bは,おそらく,“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”としての,“電流が磁場から受ける力を用いて質量を求める天秤の原理”が扱われていた。僕自身が,このような問題に初めて出会ったし(笑)。ただ,問題文で原理が丁寧に説明されており,電流が磁場から受ける力,電磁誘導,そして,力学が組み合わされた,よく考えられた総合的な問題構成となっており,感服した。
 第3問のAは,“資料やデータ等をもとに考察する場面”ではあったが,データはほぼ直線的に並んでおり,そこから読み取った数値を用いた数値計算もさほど面倒ではなかった。問3では,多くの受験生が苦手とするであろう波の式が登場していた。しかし,実際に問われたのは,初期位相のズレのないy2の波であり,比較的簡単だったと感じた。初期位相のズレを考えなくてはならないy1の波の式の方がよほど間違えやすかろう。Bは,定期試験レベルのくさび形空気層による光の干渉の実験であった。問5で,実験での測定方法と精度に関する設問が珍しい以外は,基本問題レベルであったといえよう。
 第4問は,物体の単振動に関する問題であった。物体の右と左の両方にばねがあるという場合で,ここまで大問として詳しく扱っている点が珍しかった。しかし,問題文中で丁寧に説明がなされており,合成ばね定数の導出,そして,単振動へと話が続き,問4では,実際のデータをもとにして,数値として導くことまで要求するという,とても工夫された問題であったと思う。ここでも,“資料やデータ等をもとに考察する場面”ではあったが,データはきれいな正弦波の形になっており,数値計算で苦労するようなこともなかった。
今回の「大学入学共通テスト」は,第1日程とはまた異なる傾向であったと思う。以下にまとめておく。

 ・第1日程と異なり,定性的に現象を扱う問題もあり,文字式で計算して答える必要のある問題もあり,数値計算の問題もあった。
 ・数値で答える問題では,「○.○×10^○」という解答方法で解答する問題が1か所あった。
 ・小問集合では,小問の形をとっているものの,それぞれの設問は,どこかで見たことがあるような典型的な標準問題であり,計算量も多く必要なものもあった。これまでのように基本事項を問うていた「大学入試センター試験」とは,傾向が大きく異なっていた。
 ・“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”の出題が目立ったものの,問題文中で丁寧に説明がなされており,取り組みやすいように工夫されていた。
 ・“資料やデータ等をもとに考察する場面”として,実験の生データを用いて正解を導く問題が出題されてはいたものの,あまりガタガタとしておらず,きれいにフィッティング(しかも,最初からフィッティングした線までかかれていた)できるので,数値の読み取りもしやすく,数値計算で苦労することもなかった。
 ・小問の1題という形ではあるものの,原子分野の問題が出題された。その内容も,ガッツリ原子分野の問題であった。
 ・部分点をもらえる問題が多かった。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1は物体が倒れない条件を見つける問題,問2は等速円運動のやや難しい問題,問3は等電位線に関する問題,問4は原子分野からコンプトン効果の問題,問5は定積変化と定圧変化に関する問題だった。小問の形をとっているものの,それぞれの設問は,どこかで見たことがあるような典型的な標準問題であり,計算量も多く必要となるものもあった。第1日程でもそれなりに骨のある問題が出ていたので,今後も小問集合の問題でも,公式に代入するだけのものや,知識だけで正解が導けるような基本的な問題が出題されることはほとんどない,という傾向が続く可能性は高いのかもしれない。
問1)分野としては,力学の力のモーメントに該当するのであろうが,もしかしたら,こういった問題に出会ったのが初めてだった受験生もいたかもしれない。“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたると考えられる。図1の状態で倒れることがないものはつぎのようにして見つけ出す。角材1と角材2の重心であるG1とG2の中点Cが,2つの角材を一体と考えたときの重心にあたるので,そこから鉛直下向きに重力がはたらくと考え,薄い板が,その重力の矢印よりも長ければ(図1では,重心の力の矢印よりも左側まであれば)倒れることはない。よって,(ア),(イ),(ウ)が,倒れないとわかる。Bが正解。【普通】
問2)問題文中で,はじめから,等速円運動の運動方程式と,小球にはたらく鉛直方向の力のつりあいの式が与えられているのがありがたい。求めようとしている,小球が床から離れずに等速円運動をする条件は,N≧0 である。小球にはたらく鉛直方向の力のつりあいの式 T cosθ+N = mg より,N = mg − T cosθ ≧ 0 が必要。ここから,mg ≧ T cosθ であり,T ≦ mg / cosθ の関係が導かれる。これを,等速円運動の運動方程式 T sinθ = m・ω^2・L sinθ に適用すれば,T = m・ω^2 ≦ mg / cosθ となるから,ω ≦ √( g / L cosθ) が必要になる。よって,求める最大値は,ω = √( g / L cosθ) である。@が正解。【普通】
問3)等電位線からわかることを問うている問題であった。“知識の理解の質を問う問題”にあたる。たとえ,等電位線がどのようであろうとも,“正電荷が電場から受ける静電気力は常に等電位線に垂直である”から,[3]は,Aが正解。【易】
次に,位置Aと位置Bの電位を比べてみると,Aよりも,Bの方が等電位線3本分だけ高い電位であることが読み取れよう。つまり,AからBへ移動する間に,谷のようなところを経由してから山を登り,Aより高いBへたどり着くということとなる。よって,“外力が正電荷にした仕事の総和は正である”。[4]は,@が正解。等電位線を,地図における等高線だと思えばよいのである。もし,負電荷を移動させたと書いてあったら,ひっかかった受験生が多くいたかもしれないが,そこまで意地悪な出題ではなかったようだ。【やや易】
問4)原子分野のコンプトン効果について問われた。コンプトン効果とは,X線を物質にあてて散乱させると,散乱X線の波長が入射X線の波長より長くなる現象(1922年)である。図5に,衝突後の電子の運動量を作図しよう。衝突現象なので,運動量保存の法則が成り立つから,衝突後の電子の x方向の運動量 は p。y方向は −p´ である。ここでは,図5の上方向を y軸の正 とした。よって,tanθ = p / p´。[5]は,Aが正解。【易】
次に,問題文中にあるように,X線光子のエネルギーは hν である。また,アインシュタインの光量子仮説から,hν= hc /λ の関係がある。コンプトン効果は,衝突後のX線の波長が長くなる現象であることから,X線光子の振動数は“衝突前に比べて小さくなる”ことがわかる。[6]は,Aが正解。衝突後のX線の波長ではなく,振動数の変化を問われている点に注意が必要だ。【やや難】
問5)定積変化と定圧変化に関する典型的な標準問題である。物質量 n の単原子分子理想“気体の圧力を一定に保って温度を T から ΔT だけ上昇させたら,体積が ΔV だけ増加する。このとき,”熱力学第1法則から,“気体に与えられた熱量は”,ΔQ = ΔU + pΔV となる(←ア)。ここで,“気体が外部にした仕事は nRΔT で与えられる”ことより,熱力学第1法則の式は,ΔQ = ΔU + pΔV = nCvΔT + nRΔT = n(Cv+R)ΔT = nCpΔT と変形できる。ここから,Cv + R =Cp の関係(←マイヤーの関係式)があることがわかる。よって,Cp − Cv = R(←イ)が導ける。マイヤーの関係式を覚えていたなら,計算などしなくても一発で答えられただろう。以上により,Cが正解。(ア)だけ正解でも部分点として 3点 がもらえた。【普通】

第2問
 Aは,図1で電流計と電圧計の指針の根元の構造がかかれているので,“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”なのかと思わせておいて,問われた内容は,単なる電流計と電圧計の基本的内容に過ぎなかった。まさに,見かけ倒しの問題であった。
 Bは,おそらく,“教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないもの”としての,“電流が磁場から受ける力を用いて質量を求める天秤の原理”が扱われていた。先にも述べているが,僕自身がこのような問題に初めて出会った。こちらは見かけ倒しではない。しっかりと問題に取り組まねば正解を得られなかっただろう。ただ,問題文で原理が丁寧に説明されているので,電流が磁場から受ける力,電磁誘導,そして,力学が組み合わされた,総合的な問題となっていてやや難易度は高いかもしれないが,取り組みやすかったと思われる。

問1)電流計と電圧計の指針の根元の部分が図1でかかれているので,指針の振れる仕組みが問題に出ているかと思いきや,単に,内部抵抗が 2[Ω]であるということだけを以下用いるというまさに見かけ倒しであった。ここでは,電流計を電圧計として使用するための方法が問われている。これは,どの教科書にも登場しており,まさに基本問題といえよう。電流計を電圧計として用いるには,電流計に最大で 10[mA]までしか電流が流れないように,大きな抵抗値をもつ電気抵抗を回路に倍率器として直列につなげばよい。+端子から−端子の向きに電流が流れるので,[8]は,Bが正解。【易】
最大電圧 10[V]のときに,電流の最大値として 10[mA]=0.010[A]が流れるようにすればよいわけだから,オームの法則( V=RI )より,合成抵抗が,R = V/I =10/0.010 = 1000[Ω]になっていなければならない。すなわち,このとき接続する抵抗の抵抗値としては,1000−2=998[Ω]が必要ということだ。[9]は,Eが正解。【普通】
この問1では,B−E完答でのみしか,[9]に 2点 が入らなかったようだ。
問2)実験するときの電圧計の使用方法についての知識を聞いているだけの問題である。要は,接続する電圧計になるべく電流が流れないようにする方法を考えればよいだけだ。“通常,電圧を測定するときは,測定したいところに電圧計を並列(←ア)に接続する。電圧計を接続することによる影響が小さくなるように,電圧計全体の内部抵抗の値を大きく(←イ)し,電圧計に流れる電流(←ウ)を小さくしている”。Dが正解。【易】

問題文のはじめにあるように,2018年11月に国際単位系の改定がなされ,質量を,長年使用してきたキログラム原器ではなく,物理定数から定義するように変更された。やはり,キログラム原器という現物の質量で定義するというところに無理があり,しかも,各国にある原器のレプリカの質量も,経年影響等によりそれぞれ異なっているらしく,正確な 1[kg]がわからなくなってきたという背景もあるのだろう。ただ,物理定数の組み合わせで定義されたのは構わないのだが,物理学の初学者に,その物理定数による定義の説明をするのは難儀である。次回の教科書改訂において,どのように,教科書で説明がなされるのか,個人的に楽しみにしていたりする(笑)。
問3)図2にえがかれた“分銅を使わず,電流が磁場から受ける力を用いて質量を求める天秤”の問題である。何度も述べているように,僕は初めて見た。ただ,問題文をよく読めば,この問3では,コイルの下部分に流れる電流が磁場から受ける力についてのみ考えればよいことがわかる。灰色の磁場領域中のコイルの下部分を流れる電流が,鉛直下向きに力を受ければ天秤がつりあうというわけなので,フレミングの左手の法則をつかって,その電流の向きがQの向きに流れていればよいことがわかるだろう。【普通】
問4)ほぼ同じ装置ではあるが,問4では,コイル部分の直流電源を電圧計に取り換えて,灰色の磁場領域中にあるコイルを鉛直上向きに速さ v で通過させるという別の実験である。コイル部分だけをよく見れば気が付くのだが,これは,一様磁場中をコイルが移動している場合にあたり,向きが鉛直方向ではあるが,実は,よく見かける電磁誘導の基本問題なのである。磁場のかかっている領域は図4の灰色の領域であるから,コイルが鉛直上向きに移動するということは,コイルを貫く紙面奥から手前向きの磁力線の本数が減少するわけだ。コイルは,自己誘導をして,紙面奥から手前向きの磁力線を生じるように誘導起電力が発生し,誘導電流がQの向き(←エ)に流れる。このときの誘導起電力の大きさは,ファラデーの電磁誘導の法則により,V =|ΔΦ/Δt|=|BΔS / Δt|=|BL Δx/Δt|=BL・v/1 = BLv である。この式と,式(1)を連立して,B を消去すると,mg=IBL=I(V / Lv)L = IV / v となり,mgv = IV(←オ)が導かれる。以上より,正解はDとなる。問題文にかかれている順に従って考えていけば,正解にたどり着けるはずだ。【やや難】
問5)話がガラッと変わって,左辺の mgv があらわす物理量の意味を考えるという,あまり見かけない問題であった。この「大学入学共通テスト」で,物理・化学・生物・地学において目指すと宣言されている“科学の基本的な概念や原理・法則などの深い理解を伴う知識や思考力等を問う問題”にあたるのものと思われる。では,選択肢を見てみると,mgv の物理量の意味の候補は 3つ だ。まずは,“重力による位置エネルギー”かな? と考えてみる。通常,重力による位置エネルギーといえば,mgh であることを思い出せば,mgv とは次元が異なるので違うことがわかる。次に,“物体の運動量”かな? と考えてみる。物体の運動量といえば,mv である。これまた,mgv とは次元が異なるので違うことがわかる。というわけで,残った“重力のする仕事の仕事率”が mgv の物理量の意味である。仕事率であることがわかれば,その単位は[W](ワット)である。よって,Dが正解。ちなみに,仕事率といえば,「物理基礎」で学ぶ内容である。そこでもおそらく学んでいるとは思うのだが,P = W/t = F・x / t = F・(x/t) = Fv と変形できるので,[力]×[速度]は,仕事率を表すのだった。このことを知識としてもっていたのなら,瞬時に正解が判別できたに違いない。【やや易】

第3問
 Aは,図1の何やら見たことのない装置に面くらいそうだが,問題文の説明を読み,何が問われているのかが見抜ければ,正解にたどり着けただろう。“資料やデータ等をもとに考察する場面”として,図2があたえられたものの,データはほぼ直線的に並んでおり,しかも,はじめから直線のフィッティングがなされていたので,データの数値の読み取りの苦労だとかは必要なかった。問2では,今回唯一の「○.○×10^○」という解答方法で解答する方式が取られていた。問3では,多くの受験生が苦手とするであろう波の式が登場していた。しかし,実際に問われたのは,初期位相のズレのない y2 の波であり,比較的簡単だったと感じた。初期位相のズレを考えなくてはならない y1 の波の式の方がよほど間違えやすかろう。定常波の節の位置を見つけ出すのは,「物理基礎」で扱った内容でもある。
 Bは,定期試験レベルのくさび形空気層による光の干渉の実験であった。問5で,実験での測定方法と精度に関する設問が珍しかった。これは,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたる設問だったと思われる。それ以外は,よく見かける典型的な問題であったと思う。

問1)L=0.50[m]ということは,図2の横軸では,1/L=1/0.50[1/m]のところになる。そのときの縦軸の数値を読み取れば,それが求める基本振動数である。すでに測定データにフィッティングした直線がかかれているので,f=190[Hz]くらいであることが容易に読み取れる。Cが正解。【易】
問2)弦に生じる定常波の波長は λ=2L であるから,弦を伝わる波の速さは,波の基本式( v=fλ )より求められる。たとえば,問1で読み取った数値を使って求めてみると, v = fλ= 2fL = 2×(1.9×10^2)×0.50 = 1.9×10^2[m/s]となる。今回唯一の「○.○×10^○」という解答方法で答える問題であったので,[15],[16],[17]は,順に 1,9,2 を直接マークする。この結果については,図2のグラフから読み取った数値により,少し計算結果がずれるようで,それも含めて正解とされた。また,問1で誤って選択した値を用いて計算した場合に限り,間違った結果になるが,それにも部分点として 2点 が与えられた。なんと太っ腹なことよっ!【やや易】
問3)(ア)は,y2 の波の式を問われている。問題文に,右に進む実線の正弦波 y1 の波の式が,はじめからかかれているので,ぜひとも,参考にしよう。まず,右に進む正弦波 y1 との違いは,破線の y2 の正弦波は左に進んでいるということだ。つまり,sin の中身の符号が“+”になる。これは,後退波とよばれるものである。次に,初期位相のズレを考えるのだが,y2 の正弦波は,初期位相のズレは 0 だ。よって,y2 は,“後退波で初期位相 0 の波の式”となる。y2 = A0/2 sin 2π( ft + x/λ ) が正解(←ア)。もしこれが正しいかどうかの自信がなければ,図3の破線の正弦波のどこかの値を代入して確かめるというのがよい。せっかくなので,たとえば a のところの( λ/4 , A0/2 )を通るかどうかを確認してみようか。t=0,x=λ のとき,y2a = A0/2 sin 2π( (λ/4) / λ )= A0/2 sin 2π(1/4) = A0/2 sin π/2 = A0/2 。うむ。間違いないようだ。もしこれが,“進行波で初期位相πの波の式”である y1 のほうが問われていたなら,正答率は大幅に下がったのではないかと予想される。
次に,生じる定常波の節の位置を見つける。見つけ方としては,2つの波の波形が重なるときを考えるのがよい。図3の波形を,λ/4 だけ両方を進ませたときに,波形が重なることがわかる。この重なった波形において,合成波を作り,そのとき振幅が 0 になっているところが生じる定常波の節であり,振幅が 2倍 になっているところが腹である。よって,a と a´の位置が節になる(←イ)。「物理基礎」でも学んだはずの基本的な見抜き方である。
以上により,Dが正解。やはり,波の式は正答率が低いためか,(ア)か(イ)のいずれかが正解していれば,部分点として 2点 が与えられた。【普通】

問4)くさび形空気層による光の干渉実験だ。入射光が上の平面ガラス内下面で反射するときには位相は反転しないが,下の平面ガラス表面で反射するときに位相が反転するので,反射光が弱めあって暗線となる条件は,2d = mλ (m=0,1,2,…)である。次に,図4から,相似の関係により,d/x = D/λ である。よって,暗線の位置は,x = m Lλ / 2D となる。隣り合う暗線の間隔は,Δx = xm+1 − xm ={ (m+1) Lλ / 2D }−{ m Lλ / 2D }= Lλ / 2D と導かれる。よって,求める金属箔の厚さは,D = Lλ / 2Δx である。Cが正解。丁寧に説明したが,教科書本文の説明と同等のレベルである。【易】
問5)実際に測定する場合に,できる限り正確に測定する実験の方法を問うている,珍しい出題であった。“授業において生徒が学習する場面”でありかつ,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたるだろう。ただ,この問題においては,問題文を読みながら少し考えれば正解はすぐわかるようになっていたので,むしろ,サービス問題だったのではないだろうか。“ N 個の暗線をまとめて NΔx を測定できるならば,Δx を 0.1/N[mm](←ウ)まで決めることができる。したがって,金属箔の厚さをより正確に測定するためには,Nを大きく(←エ)するとよい”。正解はD。【易】
問6)空気層に屈折率 n の液体を満たすと,経路差 2d が光学的距離の差 2nd に変わる。すると,暗線条件が 2nd = mλ となるから,隣り合う暗線の間隔は,Δx´ = Lλ / 2nD と変わる。屈折率が 1<n<1.5 であることより,Δx´<Δx となる。つまり,隣り合う暗線間隔は狭くなった(←オ)。次に,この理由を,光学的距離ではなく単色光の波長で考えてみる。屈折率 n の液体中では単色光の波長は λ/n となるので,この液体中では波長が短くなった(←カ)ことで,隣り合う暗線の間隔が狭くなるわけだ。以上により,@が正解。【普通】
問7)虹色の縞模様といえば,光の分散である。それは,白色光に含まれているさまざまな色の光は波長の違いによるから起こる現象である。この実験においても,色ごとに異なる波長であるから,暗線条件(明線条件)が異なるために,虹色の縞模様として観察されるわけだ。正解は,“C 波長によって明線の間隔が異なるため”である。いわゆる知識問題であった。【易】

第4問
 物体の単振動に関する問題であった。物体の右と左の両方にばねがあるという場合で,よく見かける一つもしくは,二つを連結したばねにくっついたおもりの単振動とは異なっていた。しかし,問題文中で丁寧に説明がなされ,合成ばね定数の導出,そして,単振動へと話が続くことで,正解へと導いてくれるつくりとなっており,取り組みやすかった。特筆すべきところとして,問2では,実際に実験する際の,実験上の注意点を考えさせる設問が出ていた。さらに,問4では,実際のデータをもとにして,この単振動の周期と速さの最大値を求めさせたり,問5の(イ)では,実験したときの摩擦力の影響によりどのように変化するかを考察させたりと,“授業において生徒が学習する場面”として実際の実験のようすや,その後の処理の方法,そして生じる誤差の評価までを問題の中で体験できるような工夫された出題となっていた。この問2,問4および問5の(イ)は,「大学入試共通テスト」の新傾向がよく反映された問題であったように感じた。
問1)図1の(a)の状態で,物体がつり合っていることより,力のつり合いの式を立てる。ばねAもばねBも自然の長さから伸びているので,物体は,左方向にばねAから弾性力 kALA を受けており,右方向にばねBから弾性力 kBLB を受けて静止している。よって,力のつり合いの式は,kALA = kBLB となる。“@ kALA − kBLB = 0 ”が正解。【易】
問2)実際にこの実験をおこなう場合の注意点を考えさせる設問であり,目新しいと感じた。“授業において生徒が学習する場面”に,どういったことに注意すべきかを考察させようというわけであろう。ところが,自分で考えなくても,よく問題文を読めば,“どちらのばねも常に自然の長さよりも伸びた状態にする必要がある”と,その注意点もかかれていたりする。つまり,物体が単振動しているときに,左端の位置および,右端の位置で,ばねの伸びが LA および LB を超えないようにすればよい。それはつまり,はじめに伸ばすx0の長さが,最大振幅になるということを考慮すると,“B LA > x0 かつ LA > x0 ”の条件を満たせばよいことに気が付くはずだ。Bが正解。【普通】
問3)合成ばね定数を求めるのに役立つ設問である。問題文にかいてあるように,x軸の正の向きを力の正の向きにとると,ばねAから物体にはたらく力は −kA(LA+x) であり,ばねBから物体にはたらく力は +kB(LB−x) である。よって,Bが正解。【易】
このときに物体にはたらく合力は,F = −kA(LA+x) + kB(LB−x)= −kALA − kAx +kBLB − kBx = −(kA+kB)x = −Kx とかけるので,合成ばね定数Kは,K = kA+kB となることが導ける。勢い余って合成ばね定数Kを求めたのだが,この後の問題でも使用することはなかったりする。……残念。
問4)図2では,実際の測定データをもとにして,単振動の周期と物体の速さの最大値を求める問題だ。“資料やデータ等をもとに考察する場面”ではあったが,測定データは,きれいな正弦波の形をえがいており,また,はじめからフィッティングされた正弦曲線もかかれているため,数値の読み取りで苦労するようなこともなかったはずだ。周期は,同じ波形が繰り返す最小時間のことであるから,横軸から読み取ればよい。例えば,正の最大振幅となる時間で読み取るとすると,t=0[s]のときから t=2.8[s]のときまでの 2.8[s]間が,周期Tに相当することが容易にわかる。T=2.8[s]である。
物体の速さの最大値は,単振動においては振動中心を通過する瞬間であるので,図2の位置 x=0[m]のときの,瞬間の速さを求めればよい。たとえば,t=0.7[s]の前後 0.1[s]のときの数値を利用すれば,t=0.7[s]の瞬間の速度は,グラフの傾きに相当し,v(t=0.7[s]) = Δx/Δt = {(−0.03)−(+0.03)} / {0.8−0.6}= 0.06/0.2 = 0.3[m/s]と求まる。いま問われているのは瞬間の速さであるから,これを大きさに直して,vmax=0.3[m/s]と答える。
以上により,Bが正解。【やや易】
問5)x=x0 の位置と振動中心での,力学的エネルギー保存則を立てると次のようになる。
   x0の位置の全力学的エナルギー = 振動中心の全力学的エネルギー
   1/2 K・x0^2 = 1/2 m・vmax^2
この式から物体の質量を求めると,m = K・x0^2 / vmax^2 と表すことができる(←ア)。
実際に“実験すると,物体と水平面上との間にわずかに摩擦がはたらく。摩擦のない理想的な場合に比べると,摩擦のある場合の振動では”,上の力学的エネルギー保存則の式からもわかるように,一部が摩擦力のした仕事になってしまうため,振動中心の物体の運動エネルギーはその分だけ減ってしまう。よって,振動中心の物体の速さの最大値 vmax は,小さくなる。よって,その小さくなった vmax を用いて(ア)の式で計算された物体の質量は,真の質量よりわずかに大きい(←イ)。
以上により,@が正解となる。また,実際に実験した場合に質量が大きくなってしまうという(イ)を間違えた場合でも,部分点として 3点 が与えられる。う〜む,なんてサービス精神旺盛なんだっ!【普通】


以上。



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