[はじめに]
いよいよはじまった「大学入学共通テスト」。今回はまさにその初年度の実施であった。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け,突如決まった休校,おそらくはじめてのオンライン授業だとか,短い夏休みや冬休み等々の,学校現場にもかなり大きな影響をあたえた今年度。現役生にとっては,ここにきて,さらに大学入試センター試験から大きく出題傾向が変わる(かもしれない),大学入学共通テストと,気苦労の絶えない年におそらくなっているだろう。
さて,平成30年11月の試行調査では,以下の点を重視して作問されたものが出題された。今回はじめて実施された「大学入学共通テスト」では,どこまでそれらが反映されているのかまで含めて,講評していくことにする。
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・共通テストでは,高等学校学習指導要領において育成を目指す資質・能力に準拠し,知識の理解の質を問う問題や,思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視
・共通テストでは,高校等における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する
・問題の中では,教科書等で扱われていない初見の資料等が扱われることもありますが,問われているのはあくまで,高校等における通常の授業を通じて身に付けた知識の理解や思考力等です。初見の資料等は,新たな場面でもそれらの力が発揮できるかどうかを問うための題材として用いるものであり,そうした資料等の内容自体が知識として問われるわけではないことに留意してください。
<物理・化学・生物・地学>
・科学的な探究の過程を重視します。自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論することが求められます。教科書等では扱われておらず受検生にとって既知ではないものも含め,資料等に示された事物・現象を分析的,総合的に考察することができるかという,科学の基本的な概念や原理・法則などの深い理解を伴う知識や思考力等を問う問題や,仮説を検証する過程で数的処理を伴う思考力等が求められる問題なども含まれます。
https://www.dnc.ac.jp/news/20181111-01.htmlより引用
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上に引用した部分は長いので,簡単にまとめると,これまでの「大学入試センター試験」から変わるであろう問題の傾向は,以下の3点だろう。
1.“知識の理解の質を問う問題”
2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”
[全体講評]
まず,解いてみての感想から。これまでの「大学入試センター試験」と比べて,大きく出題傾向が変化していたと痛感した。端的に述べれば,定性的に現象を扱う問題が増え,計算問題が極めて少なくなったように感じた。試行調査では,計算を必要とする問題が多かった印象だったので,見直されたのだろうか。試行調査で導入された数値で答える問題(「○.○×10^○」という解答方法)は,2か所に登場していた。また,すでに宣言されていたように,選択問題はなくなり,全問題が必答となっていた。全問必答については,実によいことだと個人的に思っている。
問題の出題傾向から考えると,ご存知のように,2017年と2018年に「物理」の試行調査が2回行われたのであるが,そのどちらとも出題傾向が異なっていたので,受験生は戸惑ったと思われる。
出題形式は,「大学入試センター試験」とほぼ同じであった。第1問が小問集合。大問として,第2問,第3問,そして第4問。選択問題はなくなった。「大学入試センター試験」では全部で大問5題を解く形式だったので,大問としての数は1つ減ったのだが,マークの数は増え,1問あたりの点数もいろいろになっている。
では,各問題について,思ったことおおざっぱに述べておこう。
第1問。小問集合の形式ではあるが,それぞれの設問はなかなか骨のある問題で構成されていた。たとえば,問2の定滑車と動滑車を組み合わせた装置の問題は,レベル的には難問の部類に入るだろう。実際,手元にあった問題集を数冊確認したが同様の問題は応用問題に登場している。また,問5も等温変化と断熱変化をあつかっているのだが,よくある計算問題ではなく,与えられた2つの変化の違いを示したグラフから考察するという,受験生にはなじみのない問われ方であったため,難しかったと感じたのではなかろうか。
第2問のAは,コンデンサーの過渡現象に関する問題であり,その時点でもう難しい問題の部類となる。ただ,過渡現象についての知識がなくとも,問題文中で丁寧にその現象によりコンデンサーがどう振る舞うのかが書かれているので,その部分を読んで理解できれば,解くことは可能であっただろう。Bの問6は,この現象が衝突現象とみなせることに気が付くかが問われた,やや難しい問題であったように思う。
第3問のAは,光の屈折現象についてのしっかりした理解が必要な問題であり,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”となっている。今年度の「大学入学共通テスト」の「物理」で,最も話題になった問題でもあろう。通常の問題演習を経験してきた受験生にとってもおそらく初めて出題されたダイヤモンドのブリリアントカットの問題であったからかもしれない。しかし,実は,光の分散の学習のところで,三角プリズムの色による屈折率の違いは学んでいるし,教科書のコラムでは,虹が見える理由が載っているので,それを目にしているはずなのだ。また,ご存知の方もいるかと思うが,数研出版のフォトサイエンス物理図録には,このダイヤモンドの明るく輝く理由が載っていたりもするのだ。ただ,問3の図5のグラフは僕自身も初めて目にしたグラフであり,面食らった受験生も多かったのではないだろうか。このグラフをきちんと読み取れるかどうかで,ダイヤモンドがガラスより明るく輝いて見える理由がわかるので,個人的には非常に興味を持った問題であった。Bは,原子分野からの出題であるが,その内容は,電磁気学の問題であったり,エネルギー変化について考える程度の問題でありやや拍子抜けした。
第4問は,力学の総合問題であった。よくある計算問題というわけでなく,現象を,主に定性的に考える問題であり,“日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”にあたると思った。個人的には,このように,日常の現象を科学的(物理学的)に見るという目を,子どもたちに,ぜひもつようになっていただきたいと思っている。そういう意味では,非常に良い問題であったといえよう。また,図1で与えられている図が正確ではないということも特筆すべき点だろう。これまでの「大学入試センター試験」では,図はいつでも正確であり信用おけたのだが,新しく始まった「大学入学共通テスト」では,図が正確ではなかったのだ。今後も,図は信用おけないものとして問題に取り組まねばならないのだろうか。この点に関しては,大きな傾向の変化と言えよう。現象を正確に理解しているかを問うているのであり,与えられた図に惑わされるな,ということなのかもしれないが,いじわる極まりない出題者なのかなぁと思ったり思わなかったり……。
最後に,衝突現象を扱った,運動量に関する問題が今回は大問や小問と,合わせて3題分も出ていることにも驚いた。第2問のBの問6,第3問のB。そして,第4問である。そういえば,試行調査でも,衝突現象を扱った,運動量に関する問題がでていたよなぁ……。「大学入学共通テスト」の出題者は,よほど,衝突現象がお好きと見える。
今回の「大学入学共通テスト」の「物理」が,これまでの「大学入試センター試験」と変わったところを列挙する。
・計算問題が極めて少なくなり,かわりに定性的に現象を扱う問題が増えた。特に,変化後の物理量の大・小を正しく見抜けるかどうかという問題が多かったように感じた。
・数値で答える問題では,「○.○×10^○」という解答方法で解答する問題が2か所あった。しかも,そのうち1つは「○.○×10^1」という解答であった。もしかしたら,今後は,「○.○×10^0」もあるかもしれない。
・小問集合のなかにも難易度の高い骨のある問題も含まれていた。
・“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”として,“日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”が設定された問題が出題された。
・公式に数値を代入してすぐ正解に至るような問題ではなく,“知識の理解の質を問う問題”として出題された。
・問題で与えられた図の中には,正確にえがかれたものではない図が見られた。
・“自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論する”ような工夫された問題もあった。
・“資料やデータ等をもとに考察する場面”もあったが,今回の「物理基礎」ほどではなかった。
・原子分野の問題も出題された。ただ,その内容はガッツリ原子分野の問題というわけではなかった。
[各設問に対するコメント&説明]
第1問
小問集合。問1は慣性力の問題,問2は定滑車と動滑車を組み合わせた装置の問題,問3は静電気力の問題。問4はドップラー効果の基本問題,問5は等温変化と断熱変化による違いをしっかり問われた問題だった。小問集合の割には,なかなか骨のある問題も混じっていたように思う。なるべく定性的に正解を導くこととする。
問1)台車を右向きに一定の力で押し続けると,台車は運動の法則( ma=F )より等加速度直線運動をする。その時の加速度の大きさをaとすれば,糸でつり下げられたおもり(質量 m とする)には,台車にのった立場で見ると,左向きに ma の大きさの慣性力がはたらいていると考えることになる。鉛直下向きには,重力 mg がはたらいているので,おもりにはたらく力の合力は,左下向きとなる。つまり,おもりには見かけの重力として,左下向きの重力がはたらいていることと同じだ。よって,おもりをつるしている糸は左下向きに傾くし,水そう内の水面は,見かけの重力と直角になっているものが正解である。Cが正解。【普通】
問2)定滑車と動滑車を組み合わせた装置の問題だが,この問題の類題は,多くの問題集でも見かけたことのある受験生も多かったと考えられる。たまたま手元にあった問題集をいくつか開いてみたところ,どの問題集にも類題はあり,いずれも,発展問題とか応用問題として扱われていた。つまり,難度が高いのである。
さて,この問題で求めたいのは,人がロープを引く力がどれだけより大きくなると,“初めて荷物,板および自分自身を一緒に持ち上げること”ができるかである。いいかえれば,板が床面から浮き上がる瞬間の条件を求めよということだ。実は,“荷物,板および自分自身を一緒に”の部分がヒントになっており,すべて一体として考えるとよいと教えてくれているのだ。つまり,荷物 50[kg]+板 10[kg]+人 60[kg]=120[kg](← M とする)の一体物体にはたらく力を考えればよいというわけだ。図2に,はたらく力をかき込んでいくとわかるのだが,一体物体にはたらく力は,鉛直下向きの重力 Mg,上向きにはロープが3本分あるのでロープの張力として 3T,まだ床から浮き上がっていないときは床からの垂直抗力 N が上向きにはたらく。合計で力は4本あることになる。力のつりあいの式でかくと,Mg=3T+N 。ここで,床から浮き上がる条件を考えると,N=Mg−3T≦0 となるときなので,T ≧ Mg/3 が必要となる。図2に戻れば,人がロープを引く力の大きさ F は,作用・反作用の法則により F=T であることがわかるから,ロープを引く力の大きさの条件は,F = T ≧ Mg/3 = (120×9.8)/3 = 392 ≒ 3.9×10^2[N]。よって,Dが正解。【難】
問3)平行板コンデンサー内部の電場の大きさから,点電荷にはたらく静電気力の大きさを比較する問題。まず,平行板コンデンサー内部の電場の大きさは,E=V/d で求まる。次に,点電荷にはたらく静電気力の大きさは,F=qE=q・V/d である。以上を踏まえて,それぞれの点での静電気力の大きさを求めれば比較できる。ただ,図3では,いちいち計算しなくてもよい。点電荷の電気量は同じだし,隣り合う極板の電位差はVで一定であることから,点電荷にはたらく静電気力の大きさは,極板間隔dに反比例する( F = q・V/d ∝ 1/d )。よって,最も点電荷にはたらく静電気力の大きさが大きくなるのは,最も極板間隔が狭いところとなる。Aの点Bが正解。【やや易】
問4)ドップラー効果の問題。観測者は静止しているが,音源が動く場合である。もちろん,直接Bさんに向かってくる音波と,壁で反射してBさんに向かってくる音波を,それぞれしっかり計算してやれば正解が得られるが,それでは時間がかかりすぎるので,最低限の計算量にて状況を的確に判断し,時間短縮しないと間に合わない。
まず,直接Bさんに向かってくる音波を考える。音源のAさんは,Bさんに近づいているので,波長が短くなった音波をBさんは聞くことになる。結果,Bさんの聞く音波の振動数は大きくなる(←ア)。一方。壁で反射した音波は,音源のAさんが,Bさんから遠ざかっていくのと同じことになる。つまり,波長が長くなった音波をBさんは聞くことになる。結果,Bさんの聞く音波の振動数は小さくなるわけだ(←イ)。つぎに,Aさんがさらに速く歩くとどうなるかというと,よりドップラー効果が大きくなる(Bさんの聞く音波の振動数は,音源の振動数からの変化分がより大きくなる)。直感的にいえば,より音の高さの違いが顕著になるということだ。よって,振動数の差はさらに大きくなるので,うなりの回数は,多くなる(←ウ)。@が正解。まともに計算を始めると,ものすごく時間をロスしてしまう問題である。【やや難】
問5)小問集合の1つでありながら,等温変化と断熱変化を p−Vグラフ で扱うという,かなり本格的な問題であった。しっかりと計算していけば,もちろん正解へたどり着くが,これまたものすごく時間がかかることは間違いない。必要最小限の計算量で状況を的確に判断し,時間短縮をせねばならない。
まず,図5の(a)鉛直に立てた状態と(b)上下逆さにした後では,どちらのほうがシリンダ内部の理想気体の圧力が大きいのかを判断しよう。大気圧を p0,ピストンの断面積を S,ピストンの質量を m,重力加速度の大きさを g とおく。
(a)ピストンの力のつりあいの式は,mg+p0S = pAS。つまり,理想気体の圧力 pA は,pA = mg/S + p0 > p0 である。
(b)ピストンの力のつりあいの式は,mg+pBS = p0S。つまり,理想気体の圧力 pB は,pB = p0 − mg/S < p0 である。
つまり,pB < p0 < pA の関係である。
次に,図6 のp−Vグラフ であるが,等温変化はボイルの法則により,pV = 一定 の関係であるから,反比例のグラフとなる。一方,断熱変化では,ポアソンの法則により,pV^γ = 一定 の関係となり,比熱比 γ=5/3(単原子分子理想気体の場合)である。こちらは,等温変化のグラフよりも傾きが急になる。以上により,実線のグラフが等温変化(←エ)を示しており,破線のグラフが断熱変化(←オ)を示していることがわかる。実は,教科書にも,これらのグラフの比較されたものは載っているので,見たことがある受験生にとっては,瞬時に正解が選べただろう。さて,問題は,(b)での L等温 と L断熱 の大小を判断できるかというところにある。仮に間違ったとしても,グラフが読み取れた(もしくは知っていた)だけでも部分点が3点ももらえるようだ。
では,L等温 と L断熱 の大小はどう判断すべきなのか。ここでは,図6の p−Vグラフ を用いて判断するのが一番速いだろう。変化させる前(a)は,理想気体の圧力はどちらも pA であった。また,変化後は,pB < p0 < pA となって,圧力は低くなるのであった。図6の p−Vグラフ で考えると,(a)は,グラフの実線と点線の交差している点にあたる。変化後は,より低い圧力となるわけなので,(b)は交差している圧力より低い圧力となるわけだ。その圧力 pB のときの体積をグラフから読み取れば,V等温 > V断熱 とわかる。いま,ピストンの断面積は S で同じだから,V等温 = S・L等温 > V断熱 = S・L断熱 となり,L等温 > L断熱 が導かれる(←カ)。よって,Aが正解。p−Vグラフ をうまく利用できるかどうかが運命の分かれ道であった。【難】
第2問
Aは,特に新傾向を意識しているは思えない問題であった。従来から,二次試験ではよく見かける問題である。内容としては,コンデンサーの過渡現象に関する問題であり,かなり難易度が高い。もちろん,教科書でも取り扱ってはいるが,はっきりいって難しい問題の部類であろう。ただ,今回の共通テストにおいては,仮に過渡現象についての知識がなかったもしくは忘れていたとしても,問題文中で丁寧にその現象によりコンデンサーがどう振る舞うのかが書かれているので,その部分を読んで理解できれば,解くことは可能であっただろう。二次試験で問われる場合はそのような説明はほとんどないので,その点においては,“資料やデータ等をもとに考察する場面”といえなくもない,がやや苦しいか。また,試行調査で登場した数値で答える問題(「○.○×10^○」という解答方法)も登場していた。
Bは,一見すると,よく見かける電磁誘導の問題っぽく見えた。導体棒が2本あるところが,ややめずらしいかも……。また,導体棒の単位長さあたりの抵抗値が与えられているところがいじわるなひっかけ(なのではないか)と感じたのだが,僕の考え過ぎだろうか。問6のグラフは,2つの導体棒が最終的にくっついて一体となって動くことから,この現象が衝突現象とみなせることに気が付くかが問われた,やや難しい問題であったと思う。“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にあたるのかもしれない。
A
問1)スイッチを閉じた直後の過渡現象であるが,問題文の,“スイッチを閉じた瞬間は…(略)…コンデンサーの両端の電位差は 0[V]”というヒントにより,コンデンサーの部分が導線でつながっているのと同じであるとみなせることがわかる。よって,等価回路はBだ(←[ 6 ])。すると,この回路は,左と右が 10[Ω]と 20[Ω]の縦に並んだ2つの抵抗が並列つなぎになっており,それら左右の並列つなぎの抵抗が,直列つなぎになっているとわかる。であれば,左上の 10[Ω]の抵抗に着目すると,その両端の電位差は 3.0[V]である。左上の 10[Ω]を流れる電流は,I左上 = V左上/R左上 =3.0/10 =0.30[A]。有効数字2桁で答えるので,3.0×10^(−1)[A]とマークすることになる。(←[ 7 ],[ 8 ],[ 9 ])。試行調査で登場した数値で答える問題(「○.○×10^○」という解答方法)がここで採用されたわけだ。ちなみに,“有効数字2桁”の指定があるので,0.3×10^(−0)[A]と答えても不正解になる。【普通】
問2)充分時間がたったあとの過渡現象であるが,問題文の“スイッチを閉じて十分時間が経過すると,コンデンサーに流れ込む電流は 0 となる”というヒントにより,コンデンサーは切れている(つながっていない)導線とおなじとみなせることがわかる。つまり,問1の等価回路でいうと@と同じにみなせるわけだ。すると,上の 10[Ω]と 20[Ω]の抵抗の直列つなぎ(合成抵抗 10+20 = 30[Ω])と,下の 10[Ω]と 20[Ω]の抵抗の直列つなぎが,上下の並列つなぎになっていることがわかる。つまり,回路全体の合成抵抗は,1/R = 1/30 +1/30 = 2/30 = 1/15 より,R=15[Ω]である。点Pを流れる電流の大きさは,I = V/R= 6.0/15 = 0.40[A]とわかる。[ 10 ]は,Cが正解。次に,回路の上と下では同じ合成抵抗 30[Ω]であることから,それぞれに は0.20[A]が流れているわけなので,コンデンサーの上の極板の電位は,右上の 20[Ω]の電気抵抗の両端の電位差である,V右上 = R右上×I上 = 20×0.20 = 4.0[V]とわかる。同様に,コンデンサーの下の極板の電位は,右下の 10[Ω]の電気抵抗の両端の電位差である,V右下 = R右下×I下 = 10×0.20 = 2.0[V]とわかる。つまり,コンデンサーの両端の電位差は,4.0−2.0=2.0[V]であるわけだ。よって,コンデンサーに蓄えられた電気量は,Q=CVコンデンサー=0.10×2.0=0.20[C]とわかる。[ 11 ]は,Aが正解。順番に考えていけば解けるだろう。【普通】
問3)次に,“スイッチを開いてコンデンサーに蓄えられた電荷を完全に放電”させて,“可変抵抗の抵抗値を変え,再びスイッチを入れた”ところ,“点Pを流れる電流はスイッチを入れた直後の値を保持した”とのこと。つまり,スイッチを入れた瞬間のコンデンサーが導線とみなせる場合と,充分に時間がたった後のコンデンサーが切れている導線とみなせる場合で,コンデンサーの下の電極の電位が変化しなければよいわけだ。いいかえると,スイッチを入れた瞬間も,導線とみなしたコンデンサーに電流が流れなければよいわけだ。つまり,スイッチを入れた直後も,充分に時間が経過した後も,コンデンサーの両端の電位差が0[V]であり続ければよい。すると,コンデンサーの上の電極の電位は,スイッチが入っていれば,問2ですでに計算したように4.0[V]であったので,右下の可変抵抗の値を決めて,コンデンサーの下の電極の電位も4.0[V]にすればよいこととなる。ここでは,左下の 20[Ω]の抵抗に着目し,その両端の電位差が 6.0−4.0=2.0[V]であるときの,電流値を求め,それを用いて,右下の可変抵抗の値を導こう。左下の 20[Ω]の抵抗の両端の電位差が 4.0[V]となるのは,I左下 = V左下/R左下 = 2.0/20 = 0.10[A]の電流が流れる場合とわかるので,右下の可変抵抗の値は,R右下 = V右上/I左下 = 4.0/0.10 = 40[Ω]である。ここもまた,数値で答える(「○.○×10^○」という)解答方法であるので,4.0×10^1[Ω]が正解だ。ちなみに,指数のところが“1”になるのは,試行調査のときにも登場していた。また,問3の状態が,ホイートストンブリッジ回路そのものである点に気が付けば,もっと素早く正解へたどり着ける。……僕は,問題を解いてから後で気が付きましたデス(涙)。【普通】
B
問4)導体棒aが右に動いているので,導体棒に流れる誘導電流の向きは,フレミングの左手の法則から,Pの矢印の向きとわかる(←ア)。このときの誘導起電力の大きさは,ファラデーの電磁誘導の法則により,V = |ΔΦ/Δt| = BΔS/Δt = B・dΔx/Δt = Bdv0 である。誘導電流の流れる閉回路は,導体棒a→金属レール→導体棒b→金属レール であるから,電気抵抗としては,導体棒aおよびbの分だから,R=(d×r)+(d×r)=2dr である。問題文にあるように,導体棒の抵抗値は,“単位長さあたりの抵抗値はr”であるからだが,問題作成者のねらったひっかけがココにはあるのではないかと僕には感じた。なぜなら,イの選択肢に,d のあるものとないものが混在しているからである(← R=2r と間違えた場合に導かれる結果)。話を戻して,誘導電流の大きさは,オームの法則から,I = V/R = Bdv0/2dr = Bv0/2r と求められる(←イ)。Aが正解。【普通】
問5)導体棒aが誘導電流から受けるローレンツ力の向きは,左向きである。このときの導体棒bに流れる誘導電流の向きは,手前から奥の向きなので,導体棒aと,同じ大きさで反対向き(右向き)の力を受けて動き始める。よって,Bが正解。【易】
問6)導体棒aは動き始めると,左向きにローレンツ力を受けるのだから,だんだんその速さは遅くなる。一方で,導体棒bは右向きにローレンツ力を受けるのだから,どんどん右向きに加速してはやくなる。そのうちに導体棒bは,導体棒aにぶつかることとなる。ぶつかったあとは,導体棒aとbが一体となって,右に動き続ける。それぞれの導体棒は,動き始めてから衝突して一体となるまで,外力を受けていないので,これは,2物体の完全非弾性衝突である。衝突までに受けているローレンツ力は,大きさが同じで向きが逆であるため,一般の衝突現象における作用・反作用の力と同じ扱いができることに気が付かねばならない。つまり,この問題は,運動量保存則で解くこととなる。右向きを正とすれば,運動量保存則は次のようになる。
はじめの全運動量 = あとの全運動量
ma×v0 + mb×0 =(ma+mb)×vあと
ここで,導体棒aとbの質量は同じであるから,ともに m とすれば,vあと = mv0/2m = v0/2 。一体となったあとは,右向きに v0/2 の等速直線運動をするわけだ。以上により,Bが正解。新たな傾向である“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”にしても,やや難しい問題であると感じた。【やや難】
第3問
Aは,今年度の「大学入学共通テスト」の「物理」で,最も話題になった問題だった。予備校各社の講評などでも,この問題ばっかり取り上げられていたような気がしないでもない。この問題は,光の屈折現象についてのしっかりした理解が必要であり,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”となっているからだろう。通常の問題演習を経験してきた受験生にとって,おそらく初めて出題されたダイヤモンドのブリリアントカットの問題であったからかもしれない。しかし,実は,光の分散の学習のところで,三角プリズムの色による屈折率の違いは学んでいるし,教科書のコラムでは,虹が見える理由が載っているので,それを目にしていれば,比較的取り組みやすかったのではないだろうか。また,ご存知の方もいるかと思うが,数研出版のフォトサイエンス物理図録には,この問題のようなダイヤモンドの明るく輝く理由が載っていたりもするのだ。ただ,問3の図5のグラフは,僕自身も初めて目にしたグラフであり,面食らった受験生も多かったのではないだろうか。このグラフをきちんと読み取れるかどうかで,ダイヤモンドがガラスより明るく輝いて見える理由がわかるので,個人的には非常に興味を持った問題であった。しかも,そのほとんどで,計算によらず定性的に現象を理解できるかが問われており,出題者の工夫をまじまじと感じた問題でもあった。つまり,“自然の事物・現象の中から本質的な情報を見いだし,課題の解決に向けて主体的に考察・推論する”問題であったといえよう。
Bは,原子分野から出題されていた。……とはいっても,問われた内容としては,電磁気学の知識で充分解けるものや,エネルギーの変化を定性的に考察する程度であったので,拍子抜けした。いずれにせよ,これまでは選択問題であった原子分野の問題が必須になったことは評価したい。もっとガッツリ原子分野っぽい問題が出題されることを,個人的には希望したいところである。
A
問1)光の分散という現象についての理解度を問うている。“知識の理解の質を問う問題”にあたるだろう。“真空中では光速は振動数によらず一定である。ある振動数の光が媒質中に入射したとき,振動数(←ア)は変化しないで,波長(←イ)が変化する。”“ダイヤモンドでは波長の短い光ほど屈折率が大きくなることから,波長の短い方が図2の(i)(←ウ)の経路をとる。”ちなみに,波長が短いほうが紫で,長いほうが赤である。問題文中にあるように,波長の短い紫のほうが,屈折後に大きく曲がるわけだ。図2で確認してみよう。入射後,ダイヤモンドの中心側が大きく曲がる光である紫で,外側が赤だ。AC面での反射は色によらず 入射角=反射角 で反射するので,BC面に向かう光路は,上のルートを通る中心側が赤,下のルートを通る外側が紫である。BC面で反射した後にBE面に向かう光路は,上のルートを通る中心側が紫,下のルートを通る外側が赤となる。よって,紫は図2の(i)のほうであると判断できる。【普通】
問2)ここは単色光を考えるわけなので,よく見かける演習問題の基本問題と同じだ。入射角 i と屈折角 r の関係は,DE面での屈折の法則(スネルの法則)の式,1×sin i = n・sin r となる。つまり,sin i = n・sin r だ(←エ)。次にAC面で,臨界角 θC を考える。臨界角とは,屈折角の角度 が90°のときをいうので,AC面での屈折の法則の式は,n・sinθC = 1×sin 90° となる。これより,sinθC = sin 90°/n = 1/n(←オ)。Aが正解。AC面が斜めになっているが,教科書の基本問題そのものであった。【やや易】
問3)ダイヤモンドが明るく輝く理由である。いわゆるブリリアントカットにする理由を考察させる問題だ。この問題は,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”といえる。さらに,図5の見慣れないというか,僕自身がはじめて見たグラフが与えられており,“資料やデータ等をもとに考察する場面”でもある。まずは,図5を読み解けないと次に進まない。この問題文では穴埋めの出題で,図5の読み解き方をヒントという形で教えてくれている。まず,問2で求めた臨界角 θC の関係式より,“光は,ダイヤモンドでは,0°<i<iC のとき,面ACで全反射(←カ)し,iC<i<90° のとき面ACで部分反射(←キ)する”。これをヒントにすれば,図5(a)に立ち戻って,臨界角 θC の縦軸と,θAC のグラフとの関係を見ると,臨界角 θC の破線よりも上にあるとき( 0°<i<iC のところ)は,全反射になっているということがわかる。逆に,臨界角 θC の破線よりも下にあるとき( iC<i<90°のところ)では,部分反射になっていることもわかる。よって,図5のグラフでは,臨界角の破線より上なのか下なのかで,全反射するか部分反射なのかを見抜くことができるわけなのだ。では,図5(b)のガラスのときを見てみよう。“ガラスでは,0°<i<90° のとき,面ACで”は,θ´AC のグラフは,臨界角の破線よりどこでも下なので,部分反射(←ク)だとわかる。つまり,[ 20 ]は,Cが正解。
ここで,いよいよ問題では本題に入る。“ダイヤモンドがガラスより明るく輝くのは,ダイヤモンドはガラスより屈折率が大きい(←ケ)ため臨界角が小さく,入射角の広い範囲で二度全反射(←コ)し,観測者のいる上方は進む光が多いからである”。ガラスの屈折率は約 1.5 。ダイヤモンドは約 2.5 であるということを知っていればすぐ穴は埋まる。知らなくても,問2で求めた関係である,sinθC = 1/n を用いても正解にたどりつける。θC →小 なら,屈折率 n→大 というわけだ。[ 21 ]は,@が正解。
以上により,ダイヤモンドがガラスより明るく輝く理由は,簡単にいうと,面ACで光が全反射するダイヤモンドと,面ACで部分反射になってしまい,暗くなってしまうガラスとで,明るさに違いが出るからだとわかるわけだ。図5のグラフが読み取れるかで運命が分かれたかもしれない。
この問題は,“科学的な探究の過程を重視”した問題であったといえよう。個人的にはこういった,現象を定性的でいいので説明するような問題は,物理っぽくて良い問題だと思うが,受験生にとってはやや難しかったのではないかと予想される。【やや難】
B
問4)蛍光灯が光る原理をあつかった“日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面”を想定したであろう問題であった。図6を見ればわかるように,クルックス管における電子の加速運動と同じである。電子が電圧 V によって加速され,プレートに到達したとき,電子が得る運動エネルギーは,フィラメントから電子が飛び出す直前に電子がもっている電子の位置エネルギー( E=eV )に等しい。Aが正解。電子を扱っているが,電磁気学の分野の問題であり,原子分野の問題ではない。【易】
問5)加速された電子が,まわりにいっぱいあるであろう水銀原子に衝突する場合には,図7に示されたような二つの過程が考えられる。まずは,衝突の前後での,電子と水銀原子の運動量の和がどうなるか考えよう。過程(a),過程(b)のいずれの衝突過程であっても,外力がはたらいていない。いいかえると,外力による力積は 0 である。つまり,運動量はどちらの過程においても,衝突の前後で保存するというわけだ。@が正解。【普通】
問6)次に,運動エネルギーの和はどうなるかということを考える。過程(a)では,衝突の前後で水銀の状態は状態Aのまま変化していないから,エネルギーは,衝突後にすべて運動エネルギーになっている。つまり,E0 = E + E水銀 である。過程(a)では運動エネルギーの和は変化しない。次に,過程(b)では,衝突の前後で水銀の状態は状態Aから状態Bに変化している。実は問題文のさらに下を読めば,“状態Bの水銀原子は,やがてエネルギーの低い状態Aに戻り”とあるので,状態Bは状態Aよりもエネルギーが高い状態であることがわかる。では,どこからそ分のエネルギーをゲットしたかといえば,当然,衝突時に電子のもつ運動エネルギーの一部を水銀の状態の変化分としてゲットしたわけだ。つまり,E0 = E´ + E´水銀 + E´水銀の状態変化分 というわけだ。というわけで,過程(b)では運動エネルギーの和だけ考えると,水銀の状態変化分としての E´水銀の状態変化分 だけのエネルギーが,衝突前後で運動エネルギーの和から減っているわけだ。以上により,Eが正解。原子分野とはいっても,原子分野っぽくないのが残念だ。水銀の状態がより多くのエネルギーをもった不安定な状態Bに変化し(励起状態),より安定な状態A(基底状態)に電子が移るときに放出される紫外線が蛍光物質にあたって,蛍光灯が光るのである。定性的な問題であったとしても,それぞれの状態でのエネルギー準位図とかを出題してほしかったものである。【普通】
第4問
まさに,力学の総合問題のような問題であったと思う。これまでの「大学入試センター試験」であれば,文字式での計算をして,各設問に対して,計算結果を選択肢から求めるような問われ方をしていたのであるが,今回の「大学入学共通テスト」では,計算問題というわけではなく,定性的に扱うことで,現象を科学的にしっかりと間違いなく理解できているかが問われた。この問題は特に,こういった出題傾向の変化をまじまじと感じさせられた問題であった。さて,これまた,衝突現象である。今回の「大学入学共通テスト」の「物理」では,3題目の衝突現象である。出題者は,よっぽど衝突現象か運動量保存則が好きなんだなぁ……。
問1)放物運動が科学的に正しく理解できているかが問われた。“知識の理解の質を問う問題”にあたると思われる。AさんのほうがBさんよりも高い位置からボールを投げていることより,力学的エネルギー保存則から,Aさんが投げた位置の高さと,Bさんが捕球した位置の高さの差の分の重力による位置エネルギーに相当するエネルギーが,Bさんの位置でのボールの運動エネルギーに変換されるので,vA < vB である。次に,θA と θB の関係であるが,Aさんの位置と,Bさんの位置での放物線の接線の向きを考えれば,θA < θB の関係が導かれる。Cが正解。放物線の形が正確に理解できているかが問われたことになる。ちなみに,図1をじいぃぃっと見ていても,θA > θB にしか見えない。分度器で測定してみても,θA > θB であった! どうも,図にえがかれている放物線の破線が放物線ではないようである。これは,図でひっかけてやろうということなのだろうか? ちなみに,こういったそれっぽい図が「大学入試センター試験」時代は出なかったはずだ。図はつねに正確であった。しかし,今回の「大学入学共通テスト」では,残念ながら,与えられた図が信用おけないものであった。つまり,これまで,よくわからんけれども図から救われたこともあった受験生もいたであろうが,これからはそれはないということだ。与えられた図はむしろ,疑ってかからねばならないと思った方がいいのかもしれない。【易】
問2)水平方向の運動量保存則の式を立てる。Bさんが捕球した後は,“そりとBさんとボールが一体となって氷上をすべり出す”とのことなので,完全非弾性衝突である。右向きを正として運動量保存則の式を立てると次のようになる。
はじめの全運動量 = あとの全運動量
mB・cosθB + M×0 = (m+M)・V
よって,求めるBさんが捕球した後に一体で動く速さは,V = (mB・cosθB)/(m+M) とわかる。Bが正解。【普通】
問3)問2の衝突前後において,全力学的エネルギーがどう変化するかが問われている。衝突現象において,全力学的エネルギーが保存するのは,はねかえり係数 e=1 の,いわゆる弾性衝突である場合のみだ。それを知っていれば,@の“ΔE は負の値であり,失われたエネルギーは熱などに変換される。”が正解だとわかる。しっかりと計算して求める時間はないだろう。【普通】
問4)図2のようにボールがそりに衝突した後も,そりが静止したままである場合についての考察を,会話形式で問うている。わずか4つのセリフなので,会話形式にする意味がよく分からないが,こういった会話をする子どもたちが多くなるような未来が来るといいなぁという出題者の願いが込められているのかなぁと感じたり,感じなかったり……。
ボールがそりに衝突後,そりが“全然動かなかったということは,ボールからそりに[はたらいた力の水平方向の成分がゼロ](←ア)と言える”。ボールはそりとの衝突後に向きが変化しているから,ボールに与えられた力積がゼロではない。“こうなるときには,ボールとそりは必ず弾性衝突しているんだろうか? [いいえ,鉛直方向の運動によっては弾性衝突とは限らない](←イ)と思うよ”。よって,Cが正解。ちなみに,衝突後に,Aさんがボールを投げたあとの最高点と同じ高さまでボールが跳ね上がれば,鉛直方向の衝突は,弾性衝突であったといえよう。この問題は,(イ)を弾性衝突になるという誤ったものを選択してしまった場合でも,部分点として3点が与えられるようだ。【普通】
以上。
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