2021年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明


2021年01月20日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2021年度 大学入学共通テスト「物理基礎」 の講評&説明

(C) Copyright 2021 MATSUNO Seiji


[はじめに]

 いよいよはじまった「大学入学共通テスト」。今回はまさにその初年度の実施であった。
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け,突如決まった休校,おそらくなじめてのオンライン授業だとか,短い夏休みや冬休み等々の,学校現場にもかなり大きな影響をあたえた今年度。現役生にとっては,ここにきて,さらに大学入試センター試験から大きく出題傾向が変わる(かもしれない),大学入学共通テストと,気苦労の絶えない年におそらくなっているだろう。
 さて,平成30年11月の試行調査では,以下の点を重視して作問されたものが出題された。今回はじめて実施された「大学入学共通テスト」では,どこまでそれらが反映されているのかまで含めて,講評していくことにする。

***************************************

 ・共通テストでは,高等学校学習指導要領において育成を目指す資質・能力に準拠し,知識の理解の質を問う問題や,思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視
 ・共通テストでは,高校等における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し,授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定を重視する
 ・問題の中では,教科書等で扱われていない初見の資料等が扱われることもありますが,問われているのはあくまで,高校等における通常の授業を通じて身に付けた知識の理解や思考力等です。初見の資料等は,新たな場面でもそれらの力が発揮できるかどうかを問うための題材として用いるものであり,そうした資料等の内容自体が知識として問われるわけではないことに留意してください。

<物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎>
 ・日常生活や社会と関連した科学的な事物・現象に関する基本的な概念や原理・法則などの理解を伴う知識を問うたり,それらを活用したりして考察する問題や,科学的に探究する方法を用いる過程を重視

https://www.dnc.ac.jp/news/20181111-01.htmlより引用
***************************************

 上に引用した部分は長いので,簡単にまとめると,これまでの「大学入試センター試験」から変わるであろう問題の傾向は,以下の3点だろう。

 1.“知識の理解の質を問う問題”
 2.“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”
 3.“授業において生徒が学習する場面や,社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面,資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題の場面設定”


[全体講評]

 まず,解いてみての僕の素直な感想として,「計算の量が多すぎる……。手計算だと時間が足りないんではないか?」であった。今回特筆すべきなのは,文字式による解答を要求している問題が皆無であったこと。そのせいかは不明だが,数値による解答が多く,受験生にはかなりの計算力が求められたと感じられた。たった30分しかない物理基礎の試験なのだが,実際に解きながら,計算ばっかりやらされている感じがかなり強かった。しかも,第2問の問1のグラフから値を読み取ったものを使う計算や,第3問の問2の定規の目盛りから読み取った値で計算したりと,小数の計算はあたりまえ,3桁程度の精度までが必要になる計算もあり,計算スピードの遅い受験生には悲惨な試験であったろうと思われた。とくに第3問の問2では,その結果の数値を直接マークするという,「物理」の試行調査でもなされた形での解答方式を採用しているのだが,なぜこの問題で,この解答方式なのか? と僕には思えた。
 ただ,すでに試行調査で行われた“資料やデータ等をもとに考察する場面”にあたる問題でも,グラフから数値を読み取り,頑張って計算する必要があったので,このように数値計算が多くなることは充分に予想の範疇ではあったのだが。……しかし,そんなに数値計算することが物理なのかよ? それは,違うんじゃないか? としか僕には思えなかったのだが……。
 全体で見ていくと,まず,問題構成は「大学入試センター試験」の時とおおよそ同じような構成であった。小問集合の第1問。問4では,正誤判定を会話形式にしている点が目新しいが,“知識の理解の質を問う問題”を目指した結果なのだろうと推察される。波動分野から出題の音波に関する第2問A。電気分野から変圧器と消費電力に関する問題として第2問B。そして,力学の第3問。第2問も第3問も,“資料やデータ等をもとに考察する場面”の問題設定となっており,これが,データから読み取った数値を使って答える問題を生む原因になってしまい,結果,計算がかなり面倒な試験になってしまったといえよう。今後もこの傾向が続くというのは,少し考えなおしていただきたいものだ。また,第3問は,A,Bとわかれていなかった。
 次に,問題の質であるが,「大学入試センター試験」の物理基礎といえば,いわゆる一問一答問題集のような,教科書にある問レベルの,いわゆる公式を知っていてそれを使えばすぐに解けるような問題が多かった印象があるが,そこまで易しい問題はほとんどなくなったように感じた。特にひねった問題ではないが,単に知識を問うている問題が減り,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”として,少しは考えないと正答が導かれない問題へと傾向がやや変化しているようには感じた。また,「大学入試センター試験」の物理にあったような,シチュエーションにこだわりすぎた変な状況の問題にあたるようなものもなく,個人的には,問題作成者の方々は,初回にしては,かなり冒険した感があることを評価したい。……が,数値計算ばっかりなのは何とかしてほしい。文字式で答えさせる問題がないってどうなのよ,ともつけ加えておきたいところだ。
 あえてひとつだけここでコメントしておきたいとすれば,第3問の後半だ。スマートフォンの加速度測定機能を用いた生データを使用した設問が,非常に現代的な場面設定で感心したが,実際の問3および問4では,その生データの読み取り方を問題文で説明しすぎている点が残念でならない。ここは,問題文中では説明などせず,受験生に,ぜひ生データから必要な情報を読み取らせたかった問題だと,個人的には思うのだが……。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,木片にはたらく力の矢印の図示,静電気力,電磁波の基礎知識,熱に関する正誤判断,の問題であった。問4は会話形式でのセリフについて正誤判断をさせるという,これまでに見たことのない形式での出題であった。こんな会話を日常的にしている生徒さんに,ぜひとも出会ってみたいものである(笑)。

問1)木片にはたらく力の矢印をすべて表す図を選ぶ問題。ごていねいに,問題文中に,“地球からの重力”,“床からの力”,“りんごからの力”とまで教えてくれている。Cが正解。【易】
問2)あたえられた図2が,なんだか難しそうに感じさせるのだが,実際には単なる静電気力に関する問題。同極だと引力で引き合い,異極だと斥力で反発することを聞いているだけだ。図2の状態では,棒の負極が B の電気量 Q に引っ張られているので,Q の符号は正であることがわかる。[2]は@。次に,C へその正に帯電した小球を移動させたなら,当然,棒の負極は,C の向きを向く。[3」はG。両方正解でのみ得点が与えられるようだ。【易】
問3)この問題は単なる電磁波に関する知識問題。日焼けの原因は紫外線(←ア)。ラジオは電波(←イ)を利用して情報を利用している。がん細胞に照射する放射線治療に使われているのは,γ線(←ウ)。仮に,γ線がわからなくても,正解のEが選べる親切設計。【易】
問4)会話形式をとっているが,熱に関する正誤判断の問題。誤りを含むのはAとD。Aは,熱エネルギーを仕事に変換する熱機関というものがあるので誤り。Dは,セルシウス温度での最低温度は−273.15[℃](←これが絶対零度)であるので誤り。1問2点だった。【普通】

第2問
 Aは,音波の問題。Bは,電気分野から変圧器と消費電力に関する問題であった。物理基礎の教科書であまり詳しく扱われていない交流の,変圧器や消費電力に関する問題は差が付いた問題だったかもしれない。

 クラシックギターの音の波形をオシロスコープで観察したものを用いた,音波に関する問題である。波形といえば,三角波や四角形の矩形波,そんなんあるのかという台形のような波形,正弦波などが主流であったのだが,今回の「大学入試共通テスト」では,“日常生活や社会と関連した科学的な事物・現象に関する基本的な概念や原理・法則などの理解を伴う知識を問うたり,それらを活用したりして考察する問題”ということで,実際のギターの音の波形を題材にしている点が評価される。
問1)図2のうねうねしている波形から,周期を読み取る問題。うねうねしているが,繰り返す最小単位の波形を見抜けばよいだけだ。比較的正弦波に近い形なので,難なく読み取れるだろう。横軸が時間なので,その波形1個分の横軸での数値が周期となる。点線の 0.001[s]目盛り で言えば,5目盛りとほんの少し。つまり,[7]はBの 0.0051[s]が正解。また,それを振動数に直せば,表1から音の高さがわかる。振動数は周期の逆数なので,f=1/T=1/0.0051=196.07… 。よって,[8]の音階はDの ソ とわかる。計算が面倒だよ……(苦笑)。この問題は,[7]がBで正解の場合のみ[8]のDに点が入るという,これまでにない採点方法をとっていた。まぐれあたりでは点をやらんぞという出題者の気合い(?)を感じた(笑)。【普通】
問2)おそらく,受験生にとっては聞きなれない 2倍音 とか 3倍音 とかいう言葉であろうが,“基本音と2倍音の混ざった波形”,つまり,合成波はどれかという問題にすぎない。ゆっくり合成波を作成している時間ないので,片方の電圧が 0 であるところだけチェックしてみることにする。点線の目盛りでいうと,(時間,電圧)が,(1,2),(2,0),(3,−2),(4,0)の 4点 である。これらの目盛りの点では,もう片方の波形の電圧値になることから,Aが正解とすぐにわかる。【易】

 交流の問題である。物理基礎の交流に関する内容は,非常に扱いが少ないが,直流よりもはるかに“日常生活や社会と関連した科学的な事物・現象”であり,出題方針にのっとっている。ただ,高校現場では,おそらく多くの学校で,交流を丁寧に扱っているとは考えにくく,さらに,交流の消費電力までしっかりと扱っていないのではないかと考えられる。よって,問3は教科書問レベルの問題であるにもかかわらず,さらに,問4や問5にいたっては,交流の消費電力を扱っており,大きく差がついた問題だったのではないかと予想される。
問3)変圧器(トランス)の問題である。トランスの式もしくは,巻数比=電圧比 の関係を用いて解く。トランスの式であれば,N2/N1=V2/V1=8.0/100=0.0080倍。@が正解。ところで,有効数字は2桁だと思うが……?【易】
問4)問題文にあるように,“電力の損失”がないならば, が一次コイル側も二次コイル側も同じである。つまり, 。よって,求める二次コイル側の電流は,一次コイル側の, 倍である。Cが正解。【普通】
問5)この問題は,“思考力,判断力,表現力を発揮して解くことが求められる問題”として出題されたと思われる。特に,図6の商品ラベルのデータから,必要な情報を自分で見つけ出して,ニクロム線の消費電力を導かねばならない。まさに,今回の「大学入試共通テスト」で方針を変換した出題方法の典型的な出題だったといえる。しかも,受験生が慣れていないと考えられる交流の消費電力というわけで,正答率はかなり低かったのではなかろうか。
問題文には,なんだかんだと書いてはあるが,要は,16[cm]のニクロム線での交流 8.0[V]での消費電力を求めるというだけの問題だ。よく問題文を読むと,ごていねいにも,“交流の電圧計や電流計が表示する値を使うと,交流でも直流と同様に消費電力が計算できる”と書いてあるので,それに救われた受験生も多かったかもしれない。使用した 16[cm]の長さのニクロム線の抵抗値Rは,図6の“1[m]あたりの抵抗値が 8.0[Ω]”というデータを用いて,R=8.0×(16/100)=1.28[Ω]とわかる。よって,このニクロム線での消費電力は,P=VI=V^2/R=8.0^2/1.28=50[W]とわかる。よって,Cが正解。【やや難】

第3問
 試行調査にも登場した,記録タイマーと記録テープの実験だ。まさに“授業において生徒が学習する場面”であり,そこから“資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題”といえよう。ただ,実際の高校現場で,記録タイマーと記録テープを用いた速さの測定をしているところがどれくらいあるのだろうか? ちなみに,いつもは東日本(毎秒50打点)なのだが,この問題では西日本(毎秒60打点)である点が,西日本在住の僕としてはちょっと嬉しかったりした(笑)。
問1)記録テープの線は 6打点ごと に引いてあるとのことなので,線から線までは,(1/60)×6=1/10=0.10[s]である。よって,線Aから線Bまでの台車の平均の速さは,vAB=ΔxAB/Δt=(xB-xA)/0.10=(5.68-3.10)/0.10=25.8[cm/s]=0.258[m/s]と求まる。ここでは,有効数字2桁なので,Cの 0.26[m/s]が正解。線Bの位置が定規の目盛りと一致していないところが,“授業において生徒が学習する場面”らしさを演出しているように感じる。そうした場合は,測定装置の最小目盛りの1/10 まで気合いで読み取るのが実験の鉄則だ。【普通】
問2)“速度と時間のグラフを作ると,傾きが一定”とあるので,この実験では,台車が等加速度直線運動をしていることがわかる。ここで,水平方向の台車にはたらく力を考えてみると,台車を引くひもの張力が右向きに,台車と実験台の動摩擦力が左向きに,さらに記録テープが台車を引っ張る力が左向きにはたらいている。実際にこの実験をやったことがあるのであればわかると思うが,記録テープが台車を引っ張る力は結構大きかったりする。しかし,問題文中で“記録テープも記録タイマーも台車の運動には影響しない”としているので,無視せよとのことだ。であれば,それよりも小さい台車と実験台の動摩擦力も無視できることになるから,台車にはたらく力としては,ひもの張力のみを考えればよいこととなる。おそらく,おもりの質量が相当大きいのであろう。
以上を踏まえると,水平方向の運動方程式は,T=ma=0.50×0.72=0.36[N]となる。この解答が,今回,直接数値をマークする方式で解答させられた。問題文中に“摩擦がない”とは一言も書かれていないので,出題者の性根はひん曲がっているのかもしれないと思ったり思わなかったり。【普通】
問3)次に,“加速度測定機能のついたスマートフォン”を用いて,一気に現代的な実験に話が飛ぶ。問1や問2と状況は全く同じなのだが,スマートフォンを使用することで,直接,加速度の時間変化が得られるというわけだ。そして,その実験結果を用いて,“資料やデータ等をもとに考察する場面など,学習の過程を意識した問題”を意識したような出題がなされた。図4が実際の測定データであるが,かなりギザギザしているからか,問3も問4もグラフの読み取り方を問題文中で教えてしまっている点が残念だと個人的には思った。せっかくの生データを使用するのであれば,受験生がそれらのデータを読み取れるのかまで問うて欲しかった。
さて,この問3では,“台車は等加速度運動をしているものとする”とあり,さらに,生データからその加速度が読み取れるのにもかかわらず,“0.60[m/s^2]である”と問題文中に書かれている。つまり,記録テープのときよりも,同じおもりを用いているにもかかわらず,加速しにくくなったわけだ。その理由を選べという問題。順にみていこう。
 @スマートフォンの質量は,おもりと比べて大きくても小さくてもどちらでも加速度は小さくなるので誤り。
 A全体の質量が大きくなったことで加速度は小さくなる。これが最も適切。Aが正解。
 B摩擦の法則によって,動摩擦力の大きさは質量に比例するから,スマートフォンの質量が増えた分,動摩擦力も大きくなる。よって,誤りである。ただし,先に述べたように,この実験では動摩擦力は無視できるほど小さいとするのではあるが……。
 C糸の張力が同じならば,加速度は変わらないので,誤り。実際には糸の張力は大きくなる。
まさに,“資料やデータ等をもとに考察する”問題だった。しかし,難問というわけではない。【普通】
問4)等加速度運動をしているのだから,等加速度直線運動の公式を用いよう。図4より,等加速度運動をしているのは,約2.5[s]から 約4.2[s]までであることが読み取れれば,v1=v0+at=0+0.60×(4.2-2.5)=1.02≒1.0[m/s]と求められる。Aが正解。【普通】
問5)台車を引いているおもりについてのエネルギー変化についての問題である。おもりは鉛直下向きに落下していくので,おもりの位置エネルギーは減少する。はじめ静止していたおもりは,等加速度運動をしてどんどん速くなって落下していくわけなので,おもりの運動エネルギーは増加する。このときのおもりの力学的エネルギーはどう変化するのかというと,これが,単なるおもりだけの自由落下であったならば,全力学的エネルギーは保存する。しかし,この問題では,おもりは落下しながら,スマートフォンの固定された台車とひもでつながっていて引っ張っているから,その分の仕事をしているわけだ。つまり,おもりの力学的エネルギーは減少していくこととなる。よって正解はDである。仕事をするのでその分だけおもりの力学的エネルギーが減少するということについてを見抜けず,おもりの力学的エネルギーは一定であると間違えてCを選んでしまった場合にも部分点として半分の2点が与えられるようだ。なんというサービス満点であることかっ!【やや難】



以上。



無断転載や引用をかたく禁じます。一言、メールでご相談くださいな。


トップへ
戻る


(C) Copyright 2001-2024 MATSUNO Seiji