2020年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説


2020年01月22日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2020年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説明

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[全体講評]

 大学入試センター試験の「物理基礎」,実施6年目である。今年度で大学入試センター試験としては最後となる。次年度から始まる「大学入学共通テスト」を意識したような出題はなく,これまで通りの出題であったような印象をもった。
 ざっと解いてみての第一印象は,今年度の「物理基礎」は,ひねった問題がほとんどなく,素直な問題が多かったという印象だ。また,ひねったというか,あまり見かけない類の問題であった,第3問のAで扱われたゴムひもであるが,問題文中に,縮んだときは弾性力を考えなくてよく,伸びたときだけばねと同様の弾性力がはたらくものとして解くようにと懇切丁寧な説明があったので,とくに混乱することもなく解くことができたと思われる。第3問のBでも,物理基礎の範囲を逸脱した斜方投射を扱ってはいるが,解き方を問題文中で懇切丁寧に説明してくれているので,これまた,混乱することもなくたやすく解くことができたのではなかろうか。
 今年度も,昨年度と同様に,部分点を与える問題が1問だけあった。第1問の問4であるが,おそらくその理由として,問うている内容が,かなりわかりにくい表現になっていると出題者も思ったのではないかというように推察したが,実際のところはどうなのだろう?
 全体を通してみると,原子と放射線に関する問題が全くなかったことが残念だった。また,第3問のBでは,物理基礎の範囲では定性的にしか扱わないことになっているはずの斜方投射が,大問として扱われているのに違和感を感じた。しかも,扱わないことをわかって出題しているためか,水平方向は等速直線運動と同じだとか,鉛直方向には鉛直投げ上げ運動と同じであるとか,それぞれの初速度の成分もかいてあるし,ちょうど壁と垂直に衝突するのは,鉛直投げ上げ運動の最高点に達するときであるなどと,ヒントどころか,解き方を教えてくれている問題となっており,単なる鉛直投げ上げ運動の問題として出題した方がよっぽどよかったのではないかと感じた。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,力のつりあい,運動方程式,送電の知識問題,うなり,熱に関する問題であった。問3は送電の知識問題であるが,教科書では欄外に書いてある内容であり,差がついたかもしれない。ただ,同じ内容の問題が,2016年度の本試の第2問B問4にて問われていた。
問1)力のつりあいの式 3kl=mg より,l=mg/3k。@が正解。また,並列つなぎの場合の合成ばね定数Kが,K=k+k+k=3k となることを用いても解ける。【易】
問2)この問題は,以下のような連想ゲームができれば正解にたどり着く。“それぞれの場合に1秒間引いた直後の小物体の運動エネルギー”を求めるのであるが,そこを,「運動エネルギーは K=1/2・mv^2 なのだから,1秒後のそれぞれの速さvを求めて,その大小を比較すればよい」と連想ゲームができるかである。A〜Cは,いずれも等加速度直線運動であるから,それぞれの加速度を求め,1秒後の速さ(速度)を,v=v0+at=0+(a×1) として求めよう。
  Aの運動方程式は,maA=F−mg なので,aA=F/m−g
  Bの運動方程式は,maB=F−mg/√2 なので,aB=F/m−g/√2 >aA
  Cの運動方程式は,maC=F >aB
よって,1秒後の速さは,vC>vB>vA とわかる。つまり,KC>KB>KA。Eが正解。小問集合としては,難度がやや高かったか。【やや難?】
問3)送電に関する知識問題。同じ内容の問題が,2016年度の本試の第2問B問4にて問われていたので,過去問をやった受験生はラッキーだったかもしれない。“送電線で発生するジュール熱によって失われる電力を小さくする”ためには,“送電線(R:一定)での消費電力 P=VI=RI^2=V^2/R”を小さく必要がある。ここで,P=RI^2 に注目すると,送電線に流れる電流が大きいほど,送電線での電力損失は大きくなってしまう。“発電所から一定の電力を送り出す場合”であるから,P=VI の関係より,Vを大きく(高電圧:ア)すると,Iが小さく(小電流:イ)てすむため,送電線での電力損失を少なくすることができることになる。送電では,6万6千ボルト(または3万3千ボルト)で発電所で発電した電気を,少しずつ降圧して需要家へと届ける。降圧がしやすいのはコイルの巻き数比に比例するトランスが用いられる交流(ウ)である。これは送電の問題であるが,常識であると個人的には思っている。【易】
問4)うなりの問題。AとBのうなりの回数は,1秒間あたり,f=|445−440|=5 回。よってうなりの周期は,T=1/f=1/5=0.2[s](エ)。周期とは,うなりが1回おこる間にかかる時間のこと。すなわちそれは,“おんさAとBが振動する回数の差が1(オ)である”ということと同じである。Bが正解。(オ)の設問の仕方がわかりにくいのではないかと出題者が感じたのかどうかはわからないのだが,なぜか部分点があるようだ。(エ)だけの正解で2点をくれる。【易】
問5)熱に関する問題。Aが正解。ちなみに潜熱のうちの融解熱である。せっかくなので,順に間違いをみていこう。【普通】
  @ 273[K]ではなく373(.15)[K]が正しい。
  B ΔU=ΔQ−W(熱力学第1法則)であるから,“和”ではない。
  C 接触させると温度差は減少する向きに熱が移動し,充分時間がたつと同じ温度となる。これを熱力学第0法則という。
  D 熱に変換されたエネルギーは,完全に元に戻らないので,不可逆変化である。

第2問
 Aは,気柱共鳴の問題。Bは,直流回路の問題であった。

問1)図1の2つの波形の時間変化を読み取ると,0.50[s]で,0.50[m](1マス分)波形が進んでいることが分かる。つまり波の速さは,v=Δx/Δt=0.50[m]/0.50[s]=1.0[m/s] だ。Bが正解。【易】
問2)もっとも無駄なく最短時間で正解へたどり着く方法のひとつとして,1.5[s]後と,2.0[s]後だけで判断できる。もちろん,懇切丁寧に作図してもよいが……。
  1.5[s]後:図1のt=0[s](上図)の波形を3マスずつ進めて図中にかく
        → 原点の合成波は,1.0[m]の変位であることが分かる → ABD
  2.0[s]後:図1のt=0.50[s](下図)の波形を3マスずつ進めて図中にかく
        → 原点の合成波は,0[m]の変位であることが分かる → @DE
以上により,Dが正解と判別できる。【普通】

 スイッチのつなぎ方で,回路がどのようになっているのかを見抜ければ,教科書例題レベルの問題だ。
問3)“スイッチがa側にもb側にも接続されていないとき”は,回路は,OP間の1つの電気抵抗だけの閉回路となる。よって,OP間電圧は,電池の電圧2.0[V]と等しくなり(ア),回路がつながっていないOP間には電圧は生じない。つまり,電圧0[V](イ)。Fが正解。【易】
問4)“図2のスイッチをa側に接続する”と,「OP間の電気抵抗」と,「OQ間の電気抵抗」が,並列つなぎとして回路に接続されたことになる。合成抵抗は,1/R1=1/10+1/10=2/10=1/5 であるから,R1=5.0[Ω]である。このとき,回路全体での消費電力は,P1=V^2/R1=2.0^2/5.0=080[W]となる(ウ)。
一方,“図2のスイッチをb側に接続する”と,「OP間の電気抵抗」と,「OQ間の電気抵抗と一番右の電気抵抗が直列につながった合成抵抗(10+10=20[Ω])」が,並列つなぎとして回路に接続されたことになる。合成抵抗は,1/R2=1/10+1/20=3/20 であるから,R2=20/3[Ω]である。よって,回路全体での消費電力は,P2=V^2/R2=2.0^2/(20/3)=0.60[W]となる。
すなわち,P2<P1 である(エ)。正解はG。【普通】

第3問
 Aは,ゴムひもを使ったというあまり見かけないシチュエーションであるが,問題文中に,縮んだときは弾性力を考えなくてよく,伸びたときだけばねと同様の弾性力がはたらくものとして解くようにと懇切丁寧な説明があったので,とくに混乱することもなく解くことができたと思われる。力学的エネルギー保存則をつかって解く問題である。
Bは,物理基礎の範囲では定性的にしか扱わないことになっているはずの斜方投射が,大問として扱われているのに違和感を感じた。しかも,扱わないことをわかって出題しているためか,水平方向は等速直線運動と同じだとか,鉛直方向には鉛直投げ上げ運動と同じであるとか,それぞれの初速度の成分もかいてあるし,ちょうど壁と垂直に衝突するのは,鉛直投げ上げ運動の最高点に達するときであるなどと,ヒントどころか,解き方を教えてくれている問題となっており,単なる鉛直投げ上げ運動の問題として出題した方がよっぽどよかったのではないかと感じた。

問1)ゴムひもの自然の長さまでの落下運動であるので,これは,単なる自由落下の問題である。
下向きを正として,自由落下におけるの位置の公式( y=1/2・gt^2 )を用いるのがいいだろう。l=1/2・gt^2。これを変形して,t=√(2l/g)。Dが正解。【普通】
問2)力学的エネルギー保存則をつかう。ゴムひもは自然長lよりも伸びた分だけ弾性力が生じるということなので,最下点では,(h−l) だけ伸びている。よって,天井の位置を位置エネルギーの基準とすれば,最下点での小球は静止しているわけだから,力学的エネルギー保存則は次のようになる。
  はじめ(天井)         最下点
    mgh      =    1/2・k(h−l)^2
よって,m=k(h−l)^2/2gh。Dが正解。【やや難】

問3)「小球は,水平成分の速さ v/2 で,速度が一定の運動をする」という説明をよめば,l=(v/2)・t であることが直ちに導かれよう。求める小球が壁に到達するまでの時間は,t=2l/v となる。【易】
問4)「小球は,鉛直成分の速さ √3/2・v で,鉛直投げ上げ運動をする」という説明をよみかつ,“点Qで鉛直投げ上げ運動の最高点に達する”とあるので,鉛直投げ上げ運動の位置と速度の関係式(v^2−v0^2=−2gy)を用いよう。0^2−(√3/2・v)^2=−2gh。これを解いて,h=3v^2/8g。Bが正解。【普通】



以上。



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