2019年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説


2019年01月25日更新


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2019年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説明

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[全体講評]

 センター試験の「物理基礎」,実施5年目である。すでにご承知かとは思うが,2020年度より,大学入試センター試験が廃止され,その代わりのような位置づけで,「大学入学共通テスト」がはじまることになっている。つまり,来年度がセンター試験は最後となる。
 さて,まずざっと解いてみての印象から。知識問題がちらほら見受けられた。また,計算が必要な問題は,昨年同様に,公式に当てはめるだけで正答が導かれるようないわゆる公式代入問題がほとんどなかった。さらに,第2問の問2では,ヘリウムガスを満たした箱の中での閉管の共鳴という,あまり見かけないシチュエーションが設定されていたし,第3問のAでは,等加速度直線運動における,ひもにつながれた2物体の問題であるのは典型的な問題なのでいいとして,問2で,それらの運動エネルギーを問うているのがあまり見かけない問題の類だと思った。最後に,個人的には,第3問のBの問3の定性的に扱った問題が,定量的に考えるよりも難しく感じた。
 今年度は,部分点を与える問題が1問だけあった。第2問の問4であるが,消費電力で正解が導けなかったとしても,抵抗率を用いた電気抵抗値の式(R=ρl/S)から正解が導かれる[オ]のほうだけでも部分点がいただけるのはありがたい限りだと感じた。
 全体を通してみると,第1問の問3で電磁波の知識,第1問の問4で原子と放射線に関する知識,第3問Aの問2では,乾電池が化学エネルギーであるという知識など,知識問題が多かったのが印象に残っている。特に,第1問の問4の放射線に関する知識問題は,教科書の最後に位置されている内容でありかつ,おそらく,時間をかけて高校現場では扱っていない場合が多いのではなかろうかと思われる分野である。受験生にとっては,差のついた問題になった可能性が高いと考えられる。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,力のつりあい,v−tグラフ,電磁波の知識問題,原子と放射線に関する知識問題,熱量のよくある計算問題であった。問3,問4は知識問題で,特に問4は,受験生がどこまで放射線についての知識を持ちかつ理解しているかで差がついた問題だった可能性が高いと思う。
問1)図1には,床がかいてあるが,“物体は床から離れた”瞬間についての問題である。フックの法則によって導かれるばねの弾性力と,物体にはたらく重力の,力のつりあいの式をたてればよい。kx=mg。よって,ばねの伸びは,x=mg/k。Aが正解。【易】
問2)なめらかな面であるAより左側および,Bより右側では,物体は等速直線運動をする。AB間のあらい面では,物体は,一定の大きさの動摩擦力を受け続けるので,a=-μgの等加速度直線運動だ。v−tグラフでは,等加速度直線運動は傾き一定の直線となるので,Aが正解。【普通】
問3)電磁波の知識問題。3か所も空欄があるので,まぐれでの正解率は低いだろう(笑)。“電磁波は,周波数(振動数)のア:低い(小さい)方から順に,電波,イ:赤外線,可視光線,ウ:紫外線,X線,γ線に大きく分類される。”知っていたか知らなかったか,それだけの問題だろう。Bが正解。【易】
問4)原子と放射線に関する知識問題。教科書傍用の問題集などでは,この分野に関する問題は極めて少ないし,教科書のページ数もダントツで少ない分野である。多くの受験生が,おそらくしっかりとこの分野を学習していないままなのではないかと思われる。歴史的には,東日本大震災後に鳴り物入りで,放射線に関する内容が教科書に入ったのではあるが……。今年度の物理基礎で差がついた問題の一つだと思われる。【やや難か??】
せっかくなので,順に間違い部分を取り上げていく。ちなみに,Bが正しいので正解だ。
 @中性子の数ではなく,陽子の数だ。
 A透過力や電離作用は放射線の種類によって大きく異なる。
 CX線検診は,X線の透過力を利用している。いわゆるレントゲン撮影のこと。
 D原子力発電は,核分裂の連鎖反応を継続するようにしておこなっている。“臨界”という状態を維持している。
問5)熱量に関するよくある典型問題だ。電力も絡んだ問題ではあるが,目新しさはない。
15[℃]の水500[g]を95[℃]まで加熱するのに必要な熱量は,Q=mcΔt=500×4.2×(95-15)=16800[J]。これをヒーターでまかなうわけなので,16800=Pt となる必要がある。求める加熱するのに要する時間は,t=16800/(1.4×10^3)=120[秒]。Cの 1.2×10^2 が正解。【普通】

第2問
 Aは,気柱共鳴の問題。Bは,直流回路の問題であった。

問1)開管および閉管の両方について一度に問うた,なかなかの良問だった。音波の周波数を0[Hz]からゆっくり増加させていくことで,各管に順番に基本振動が生じていくという,実験を意識した出題であったと思う。このような,実験観察を踏まえた出題は,先に行われた「大学入学共通テスト」試行を意識したものであろう。
最初の共鳴は,閉管Bに基本振動が生じる。その波長は,0.50×4=2.0[m]であるから,そのときの音波の周波数は,f1=V/λ=340/2.0=170[Hz](←ア)。さらに周波数を大きくしていくと,次は,開管Aに基本振動が生じる。そのあとは,閉管B(←イ)に3倍振動が生じる。よって,正解はA。【普通】
問2)ヘリウムガスを満たした箱の中での気柱の共鳴実験という,めずらしいシチュエーションの問題だった。ヘリウムガスといえば,吸ってしゃべると声が高くなるという,パーティーグッズが思い浮かんだのは僕だけではないだろう。ちなみに,ヘリウムガスは,希ガスであるため,極めて安定な気体である。
シチュエーション自体は珍しいのだが,“ヘリウムガス中の音速は,空気中の音速の3倍である”と,それだけが空気中の場合と異なるに過ぎない。最初の共鳴は,問1と同様に閉管Bにおいて生じる基本振動である。そのときの周波数は,f2=3V/λ=sf1λ/λ=f1。つまり,[ウ]は3である。この共鳴が生じているときは,閉管Bには基本振動が生じているので,定常波の節の数は,閉口端の位置の1箇所のみだ。つまり,[エ]は1である。よって,Fが正解。【普通】

問3)一見すると,抵抗が直列つなぎにつながっているように見えるが,回路をよく見ると,そうではないことにすぐに気がつくだろう。
抵抗Aには,電池から反時計回りに電流が流れる。その大きさはオームの法則(V=RI)より,IA=V/RA=6.0/20=0.30[A]。抵抗Bには,電池から時計回りに電流が流れる。その大きさは,IB=V/RB=6.0/30=0.20[A]である。点Pを流れる電流は,キルヒホッフの第1法則により,I=IA+IB=0.30+0.20=0.50[A]。Cが正解。【易】
問4)抵抗値を求める R=ρl/S の式を利用する。“抵抗Dの直径が抵抗Cの2倍”ということは,抵抗Dの断面積は抵抗Cの4倍である。ここで,抵抗Cの断面積をS,長さをlとすると,抵抗Dは,4Sと2lである。
抵抗Cの抵抗値は,RC=ρl/S であり,抵抗Dの抵抗値は,RD=ρ2l/4S=1/2・RC である。よって,[オ]には 1/2 がはいる。次に,抵抗の消費電力は P=VI=RI^2 である。抵抗Cと抵抗Dは直列につながっているので,電流値は同じである。よって,Cの消費電力は,PC=RCI^2 。Dの消費電力は,PD=RDI^2=1/2・PC となる。つまり,[カ]には 1/2 がはいる。Bが正解。【普通】
なお,この問題では,[オ]の 1/2 だけでも部分点が与えられた(←Cを間違えて選択した場合にあたる選択肢)。

第3問
 Aは,ひもにつながれた2物体を水平に引っ張り,等加速度直線運動をしている場合の問題。機関車が“一定の加速度で走行できる”とあるので,図1の力Fの大きさが一定の場合の運動とわかり,よく見かける典型問題と気づいてほしい。ただ,問2では,客車A,Bの運動エネルギーの増加量を問うていたり,そのエネルギーがどこから来たのか,また,乾電池のエネルギーは何のエネルギーなのかという知識も問うているかなり欲張った問題だったと感じた。Bは,異なる傾きを持つすべり台の同じ高さから小物体をすべらせる問題なのだが,定量的ではなく,定性的に問われているため,僕には難しく感じられた。いっそのこと,斜面の角度を具体的に30°や,45°としていただきたかった。……というわけで(?),以下の説明では,30°や,45°として考察することにしよう。

問1)客車Aについての運動方程式と,客車Bについての運動方程式をたて,連立するという,典型的な問題。機関車の加速度の大きさをa,右向きを正とすると,
 Aについて:Ma=F-f
 Bについて:ma=f
連立すると,f=mF/(M+m)。Dが正解。【普通】
問2)客車Aの運動エネルギーの増加量は,ここでは,仕事とエネルギーの関係で求める。客車Aは,F-f の力を受けながら距離 L だけ右に移動したわけなので,その間にされた仕事は,(F-l)L である。よって,その分が運動エネルギーの増加量になるから,[11]は,Aが正解。このエネルギーはどこから来たものかというと,機関車からであり,機関車は乾電池で動くということから,乾電池の化学エネルギー(←[12])の一部が変換されたものだとわかる。[12]はBが正解。【易】
[12]については,化学基礎を学んでいれば,乾電池が化学反応によるものだと扱うのだが,物理基礎だけでは,充分に扱われない可能性もあり,知っているか,知らなかったかという,知識問題だったろう。

問3)力の矢印を分解して作図すれば,定性的には正解が得られると思うが,以下では,30°と,45°の角度の斜面として,定量的に説明することにする。個人的には,t1 と t2 の大小関係を見極めるのには,定量的に考えた方が自信をもって正解へたどり着けると思う。
まずは,小物体の受ける垂直抗力の大きさから。すべり台Aの角度を30°としたら,N1=mg cos30°=√3/2・mg。すべり台Bの角度を45°としたら,N2=mg cos45°=1/√2・mg=√2/2・mg < N1。
次に,小物体がすべり始めてから床に達するまでの時間を求める。小物体1のすべる距離は 2h。斜面に沿った加速度の大きさは,g sin30°=1/2・g。等加速度直線運動の公式の一つである,x=v0t+1/2・at^2 を用いると,2h=1/2×(1/2・g)t1^2 だから,t1=√(8h/g)。小物体2のすべる距離は,1/√2・h だから,同様にして,t2=√(4h/g) < t1。
以上により,@が正解。【普通】
問4)小物体がすべり始めてから水平な床に達するまでの間,斜面から受ける垂直抗力は(斜面に沿った方向と常に垂直方向にはたらくので)小物体に[ア:仕事をしない]。この間に,重力が小物体1,2にする仕事をそれぞれ W1,W2 とすると,(仕事の原理によって同じ大きさになるから)その大小関係は[イ:W1=W2]となる。Dが正解。【易】


以上。



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