2018年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説


2018年01月16日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2018年度 大学入試センター試験 「物理基礎」の講評&説明

(C) Copyright 2018 MATSUNO Seiji


[全体講評]

 センター試験の「物理基礎」,実施4年目である。全体としての印象は,昨年同様に,公式に当てはめるだけで正答が導かれるようないわゆる公式代入問題がほとんどなかったように感じた。また,第1問の問4では,パッと見の与えられた図が解答と大きく異なっていたのも,センター試験では珍しいのではなかろうかと思った。さらに,第3問のBは3物体の問題であり,センター試験としては,3物体とも同じ質量ではあるものの,やや難度が高い問題だろうと思った。
次に,今回は,部分点を与える問題が2問あった。個人的にはどちらの部分点も納得がいかない。
1つ目の第1問の問4は,空気中での音速を知識として聞いている点について,おそらく試験後の各種問い合わせに対処するためだろうと思わせる部分点だった。ただ,空気中の音速といえば,V=331.5+0.6t の式を受験生は覚えているだろうから,34[m/s]や3400[m/s]を選ぶとは考えられない。むしろ,この問題に部分点を与える意味が全く分からないというのが僕の正直な印象である。
2つ目の第2問Aの問1であるが,こちらは,うなりの周期の時間間隔がAでなく,Bだと思った場合にも部分点が与えられるというものである。もしかして教科書では,うなりの周期が計算式だけで書かれているものばかりなのかな? と思って,複数社の教科書をあわてて調べてみたのだが,どれも,うなりの周期をグラフ上できちんと提示していた。つまり,受験生は,うなりの周期の時間間隔はグラフ上でも理解できていないといけないわけであり,この問題への部分点を与えるということもまったく意味が分からない。
 全体を通してみると,今年は上に挙げたような,部分点に関する部分を除けば,しっかりとその現象を理解していないと正答が導けない問題も多くあり,公式だけ覚えていても点が取れないような問題となっていた。また,高校の物理基礎といえば必須だと思われる運動方程式に関する問題が,第3問のBは3物体のやや難しい問題のみであり,その点が非常に残念な出題だったというのが個人的な感想である。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1から順に,仕事(実際は仕事と力学的エネルギーの関係を使うとはやい),3力のつりあい,静電気と電荷,音の速度(実際は速度と時間と距離の関係),熱容量と熱平衡の問題であった。問4の図3がパッと見でではあるが,解答と大きく異なっているところが目新しい。センター試験といえば,その作図の正確さがこれまで解答が違っているかどうかを見極める一つとして使用できたのだが,今後は,与えられた図に引っかかる可能性も出てくるのかもしれない。いずれも面倒な計算もなく,小問集合としては取り組みやすかったと思われる。
問1)斜面上を引っ張り上げる物体に加えた仕事を求める問題。斜面に沿った引っ張り上げる力の大きさを,重力の斜面に沿った下向き成分とつりあう力から求め,高さh分の斜面の距離を三平方の定理から求めて,掛けあわせて仕事の定義どおりに求めてもいい。だが,ここは,斜面に摩擦はないことから,仕事と力学的エネルギーの関係を用いるのがよい。はじめの位置を位置エネルギーの基準とすれば,
  はじめの全力学的エネルギー+外力のした仕事=あとの全力学的エネルギー
      0 + 小物体に加えた力がした仕事 = mgh
つまり,求める小物体に加えた力がした仕事は,mghである。@が正解。【易】
問2)3力のつりあいの問題だ。90°と45°の3力のつりあいの問題は,演習問題などでよく見かける。この問題では力の大きさの比のみ求めるという親切仕様。FAとFBの合力の向きが45°のFCと逆向きになるには,FA:FB:FC=1:1:√2 の直角三角形でなければならないことは容易にわかる。Aが正解。【易】
問3)静電気と電荷についての基礎知識を問う問題。摩擦で帯電するときに移動するのは,電子である。陽子(原子核を構成する,電子の約1840倍の質量)が移動するわけはない。電荷がもつ電気量の単位はクーロンだ。悲しいことだが,クローンだと思っている受験生も結構いるようなので,その選択肢もあったら面白かったのに。【易】
問4)センター試験で与えられた図があんまりあてにならない問題は僕の経験でははじめてだった。図3では,観測者とピストルまで,ピストルとビルまでの距離は,ほぼ同じにかかれている。よく見ると,地面に長さをごまかす(?)記号はかかれているので文句は言えないのだが,パッと見たら,観測者とビルの真ん中くらいにピストルがあると思って引っかかった受験生もいるのではなかろうか。ところで,[エ]の空気中の音速は約340[m/s]である。この問題は部分点として,この音速が答えられなくても,次の[オ]だけで得点がもらえる。受験生は,空気中の音速の式である V=331.5+0.6t の式は覚えていると思うので,この問題には部分点を与える必要はないと僕には思えた。まず,1.0秒でピストルの音が観測者に直接聞こえたとあるので,観測者からピストルまでの距離は,340×1.0=340[m]とわかる。次にピストルからビルへ向かった音が反射して再びピストルの位置を通過し,観測者へ届くまでが2.0秒とあるので,ピストルから観測者までの1.0秒分(340[m])を引くと,ピストルからビルまでの距離の2倍を音が伝わるのに 2.0−1.0=1.0秒 かかることがわかる。つまり,ピストルからビルまでの距離は,(340×1.0)/2=170[m]だ。よって求めるLは,L=340+170=510[m]。Dが正解。【普通】
問5)熱容量と熱平衡の問題である。グラフより,物体Aが物体Bに与えた熱量(=物体Aが失った熱量)は,Q=CAΔT=(3.0×10^2)×(50-30)=6.0×10^3[J] である。この熱量が物体Bが得た熱量なので,Q=6.0×10^3=CBΔT=CB×(30-18) である。これより CB=5.0×10^2[J/K] と求められる。よって,CAとCBの大小関係は,CA<CB とわかる。正解はHだ。ただ,このように真面目に計算しなくても,AよりBのほうが同じ熱量での温度変化が小さいことより,Aよりも温まりにくく冷めにくいことがわかる。温まりにくく冷めにくいというのは,熱容量(物体が1[K]変化するのに必要な熱量)が大きいからだ。よって,CA<CB といえるのだ。【普通】

第2問
 Aは,グラフをもとにした「うなり」の問題。Bは,抵抗で発生するジュール熱と抵抗率の問題であった。

問1)二つの波(a)と(b)の合成波を選ぶ問題。ご丁寧に(c)に,二つの波が重ねてかいてくれているので,容易に(エ)が選択できる。次に,うなりの周期を合成波のグラフから読み取るのであるが,うなりの1周期は,“1度強く鳴ってから,次に強く鳴るまでの時間”であるから,Aが周期となる。Fが正解。ところでこの問題は,G(うなりの周期が2倍のBを選んだ場合)に,部分点が与えられるらしい。以下は,僕の勝手な憶測だが,定常波の周期と間違えて選んでしまった受験生にも部分点が与えたかったのだろう・・・。しかし,定常波の図は通常横軸は位置xであろうし,この問題ではうなりの図なので横軸が時刻tであるので,何の結びつきもない。Gに部分点を与える意味が分からない。この問題に部分点があるというので,なぜだろうと気になって該当部分を複数社の教科書で調べてみたのだが,どの教科書でも,今回と同じようなうなりの図がかいてあったし,図の中にうなりの周期もしっかりと示してあった。・・・なぜ部分点が与えられるのか,・・・謎だ・・・。【易】
問2)うなりの回数は,f=f1−f2[回/s]である。よってうなりの周期は,その逆数に等しい。T=1/f=1/(f1−f2)。Aが正解。【易】

問3)抵抗で発生するジュール熱は,Q=VIt=RI^2t=(V^2/R)t である。求めたい抵抗値は,R=(V^2/Q)t=(6.0^2/12)×1.0=3.0[Ω]。Cが正解。このような,RとVとtでジュール熱をあらわす式はあまり使用しない受験生が多いので,もしかしたら,差がついたかもしれない。・・・ただ,オームの法則を変形して代入するだけなのだが。【普通】
問4)R=ρ(l/S) の式に代入して,それぞれの金属線の抵抗値を求めると,Ra=0.17[Ω],Rb=1.0[Ω],Rc=10[Ω] であるから,正解は,Eの Rc>Rb>Ra だ。今回のセンター試験では珍しい,何のひねりもない単なる公式代入問題だった。ただ,10の累乗の掛け算や割り算が必要となるので,苦手とする受験生がいるかもしれないと思われる。【易】

第3問
 Aは,台車から小球を打ち上げるという,よく見かける問題。問2では,台車を一定の速さで走らせながら小球を打ち上げるという,いわゆる慣性についてしっかり理解しているかどうかを問わえた問題だった。Bは糸でつながった3物体の問題。問2では,運動方程式を正しく立てられるかで,正答へたどり着けるかが決まる問題だ。3物体の問題は,質量がすべて同じではあるものの,センター試験としてはやや難度が高い問題だったと思われる。

問1)単なる鉛直投げ上げ運動の問題だ。等加速度直線運動の速度の公式 v=v0+at より,鉛直上向きを正とすると,0=v0−gt となるから,小球が最高点に到達する時刻は,t=v0/g である。Aが正解。【易】
問2)慣性の問題として考えるのがよい。水平方向に一定の速度で動いている(慣性による等速直線運動)が,鉛直方向の運動には,水平方向の運動はかかわらない。そのことが理解されていれば,問1の結果から,小球が到達する最高点の高さは,静止した台車から打ち出した場合と(ア)変わらず,水平方向には一定の速度で台車も小球も動いているのだから,小球は発射装置の(イ)中に落下する。よく例で用いられる,電車の中でボールを真上に投げ上げた時と同じ現象だ。Hが正解。【普通】

問3)図2の状態で静止しているのだから,物体A,B,Cについて,それぞれ力のつりあいの式を立てる。AとBの間の糸の張力の大きさをT1,BとCの間の糸の張力の大きさをT2とすると,それぞれの物体についての力のつりあいの式は,
  物体A:T1=mg+T
  物体B:T1=mg+T2
  物体C:T2=mg
これらを連立すれば,T=mg が求まる。Cが正解。【普通】
問4)加速度の大きさをaとして,物体A,B,Cについて,それぞれ運動方程式を立てる。3物体は糸でつながっており,ピンと糸は張っているから,加速度の大きさは同じだ。大きさは問3と異なるが,AとBの間の糸の張力の大きさをT1,BとCの間の糸の張力の大きさをT2とすると,それぞれの物体についての運動方程式は,
  物体A:ma=T1−mg
  物体B:ma=T2+mg−T1
  物体C:ma=mg−T2
これらを連立すれば,a=(1/3)×g が求まる。@が正解。また,上級者ならば,物体A,B,Cをまとめて1物体として運動方程式を立てて,
  物体ABCを一体:(m+m+m)a=mg+mg−mg
この運動方程式1本から,a=(1/3)×g を即座に求めることができたかもしれない。【やや難】


以上。



無断転載や引用をかたく禁じます。一言、メールでご相談くださいな。


トップへ
戻る


(C) Copyright 2001-2024 MATSUNO Seiji