[全体講評]
今年度も、熱分野と原子分野は選択できるようになっており、教科書を全部できなかった場合でも不公平がないような問題となっていた。・・・が、文科省が物理は全範囲を必須にしたのに、選択問題にする理由がわからない。昨年度も同様に該当分野は選択問題になっていたので、今後も選択問題になるのだろうか。この形式が続くと、何のために選択分野をなくしたのかまったくわからないではないか。
また、昨年なかったので、部分点のある問題は今後出ないのかと思っていたのだが、今年度再び出題された。1問5点にして部分点を出すくらいなら、4点とかにして部分点ではなく問題を分けたほうがいいと個人的には思うのだが、いかがだろうか。
第1問の小問集合のなかの問3から、波の式の問題が出ており、なかなか驚かされた。受験生の多くがよく理解できていない波の式なので、差がついたことだろう。ついで、問4も、単なる分裂の問題ではなく、これまた受験生がよく理解していない相対速度と絡めた問題が続き、きっと、受験生はあせったことだろう。
第2問のBは、一様磁場中のローレンツ力による粒子の円運動を扱っているのだが、ちょっとほかでは見たことのない出題のされ方で、戸惑った受験生もいたのではなかろうか。ただ、難しいわけではない。しかも部分点まであたえられるサービス旺盛な問題だった。
また、第3問Bの問3のエは、薄膜の往復時間tを用いた光が強めあう条件式というみかけない問われ方であり驚いた。問4は、用語の穴埋め問題のように見えるのだが、しっかりと考えないと正解が導かれないし、色と波長の関係も知識として知っていないといけないという、実に凝った出題であったと思う。
第5問と第6問の選択問題であるが、今年度は、熱力学のほうが問題が易しかった感じを受けた。
全体を通してみると、昨年よりも、計算量が減った印象がある。知識が必要な問題もちらほらあり、さまざまな出題の仕方がうまくブレンドされているなと思った。
[各設問に対するコメント&説明]
第1問
小問集合。問1は斜方投射、問2は誘電分極と静電誘導、問3は波の式、問4は運動量と相対速度、問5は熱量保存の法則の問題であった。この中では、問3の波の式が難しくないが苦手な受験生がいそうだ。また、問4の分裂後の速度を相対速度で答える問題が【やや難】だったか。
問1)問題文に、“斜め方向に同じ速さで打ち上げた”とあるので、仰角を変えたときの鉛直成分の大きさの差で、打ち上げられてから地面に落下するまでに要した時間Tが決まる。垂直方向には、鉛直投げ上げ運動と同じなので、Tは、速度の公式(戻ってきたときは-v)-v=v-gT で求まり、T=2v/g と、投げ上げ速度であるvに比例することがわかる。よって、仰角が小さい小球2のほうが、鉛直成分の初速度が小さいため、はやく地面に落下するわけだ。@。【普通】
問2)問題文が非常に丁寧である。(a)では、不導体の右側に誘電分極(不導体の分子の回転が原因)によってすこしだけ−がかたよるため、引力がはたらく(ア)。(b)の導体では、自由電子の移動による静電誘導により、B側に電子が移動して引力がはたらく(イ)。そのままの状態で(C)のように真ん中を切断すれば、自由電子はB側に移動したままとなり、A側は、電子が不足した正に帯電した状態となる。(d)で、さらにAとBを離しているが、離さなくても、Aは正に帯電したままである。(ウ)。【易】
問3)受験生が苦手とする波の式である。まず、グラフから、周期T=2[s]がよみとれる。次に、波の基本式 v=fλ から、この波の波長は、λ=v/f=Tv=2×2=4[m]とわかる。波の式の一般形は、y=Asin[2π(t/T-x/λ)] であるから、振幅 A=0.2 も代入すると、y=0.2sin[2π(t/2-x/4)]=0.2[π(t-x/2)] となる。Cが正解だ。【普通】
問4)右向きを正とすると、運動量保存則より、0=MV+mv(物体Aの後の速度をVとした)。これより、V=-mv/M である。ただ、求めたいのは、衝突直後のAに対するBの相対速度であるから、AからみたBの相対速度を答えなくてはならない。つまり、v-V を答えるということだ。よって、v-V=v-(-mv/M)=(M+m/M)V が正解となる。【やや難】
問5)熱量保存の法則の式を立てればよい。温度が上昇した物体が得た熱量=温度が下降した物体が失った熱量 であるから、熱平衡状態の温度をTとすれば、C1(T-T1)=C2(T2-T) となる。よって、T=(C1T1+C2T2)/(C1+C2)(エ)が導かれる。また、熱にかかわる現象は、エントロピー増大の法則により元の状態には戻らない。すなわち、不可逆変化(オ)である。【易】
第2問
Aは、コンデンサーの基本問題。Bは、ローレンツ力を問う、ちょっとほかでは見かけない問題だったからか、部分点があった。
A
問1)はじめに各コンデンサーに電荷が蓄えられていなかったので、C1、C2、C3の3つをつなぐ導線部分の合計の電気量は0[C]であるはず。よって、Q1=Q2+Q3 がたちどころに導かれる。また、C2とC3の合成容量は、並列つなぎだから、C2+C3=3+1=4[μF]となり、C1と同じである。よって、C1には、5[V]の電圧がかかっていることがわかり、Q1=C1V1=(4×10^-6)×5=2×10^-5[C]が求められよう。ちなみに、1[μF](マイクロファラド)=1×10^-6[F]である。【易】
問2)コンデンサー内部電場の大きさは、誘電体の有無に関係なく、E=V/d である。ここでは、両端電圧が V0 で、コンデンサーの極板間の距離が d なので、(a)も(b)も、極板間の内部電場の大きさは E=V0/d である。比誘電率εrの誘電体をはさむと、静電容量がεr倍になるため、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー(U=1/2CV^2)も、εr倍となる。よって解答はAだ。【普通】
B
問3)正の電荷が、図3の下向きに力を受ければよいので、一様電場は、下向き(B)にかければよい。また、一様磁場では、ローレンツ力として正電荷に力を与え、図のようになるには、一様磁場中の電荷の運動が等速円運動になることを思い出すと、即座に、紙面の裏から表の向き(D)に磁場をかければよいことに気づく。ただ、気がつかないと、正解は導けなかったにちがいない。【普通】
問4)問3で、一様磁場をかけた場合は、等速円運動になるということがこの図から見抜けていれば、その軌道が円弧の一部であること、その円の半径rは、r=L/√2 であることが見抜ける。点Pから点Qまでは、半径rの円弧の90°分(1/4)であることもわかると思うので、その間を運動する時間は、(2πr/4)/v=π/2(L/√2)=√2πL/4v と求まる。C。【普通】
第3問
Aは、定常波と、ドップラー効果、うなりの問題。Bは、薄膜干渉の典型問題。ただ、問3のエは、薄膜の往復時間tを用いた光が強めあう条件式というみかけない問われ方でありかつ、mが整数(m=0、1、2、…)ではなく、正の整数(m=1、2、3、…)であるという、細かな引っ掛けもある問題であり、もしかしたら差がついたかもしれない。
A
問1)図1のように、同じ振幅、同じ波長の波が同じ速さで逆向きに重ね合わさったときにできる合成波は、定常波である。音が最も強めあうところとは、定常波の腹であるから、腹と腹の距離Lは、重ね合わさる前の波の波長λの半分(L=λ/2)である。音速がVなので、波の基本公式より、V=f0λ より、λ=V/f0。よって、L=V/2f0 となる。【易】
問2)観測者がAから受けた音の振動数(ア)fA は、観測者が速さ v で音源に近づく場合なので、fA=(V+v/V)f0 である。一方、観測者がBから受けた音の振動数 fB は、観測者が速さ v で音源から遠ざかる場合なので、fB=(V-v/V)f0 である。よって、観測者が聞くうなりの回数(イ)は、|fA-fB|=(V+v/V)f0 - (V-v/V)f0=(2v/V)f0 となる。よってFが正解。音源が近づく場合と遠ざかる場合、さらに、うなりまで求めさせるという、なかなか凝った出題であった。【普通】
B
問3)光学的距離として、薄膜内の距離を考えれば、間違えにくかろう。光学的距離とは、真空中だったと仮定した場合に距離を換算した距離である。薄膜内を往復する距離は 2d であるから、その光学的距離は、2nd(光学的距離=絶対屈折率×実際の距離)である。よって、光が薄膜内を往復するのに要する時間は、t=2nd/c。次に、境界面Aと境界面Bで反射した2つの光が強めあう条件を求めるのであるが、境界面Aでは、反射後に位相がπずれることに注意して、2nd=(m-1/2)λ(m=1、2、3、…:mは正の整数)となる。しかし、問題ではtを用いた条件式にするようになっているため、c=fλ と、先ほど求めたt=2nd/c を用いれば、t=(m-1/2)1/f と求まる。ただ、このような条件式ははじめてみた形であり、僕自身が驚かされた。【普通〜やや難か?】
問4)問3の条件式がそのまま利用できる。薄膜が光の波長より十分薄い場合というのは、 d≒0 という場合と考えてよいから、2n×0=(m-1)λ(弱めう条件式)で、m=1の場合となるため、これは、弱めあう条件を満たしていることとなる(オ)。その後強めあい(カ)、ふたたび、m=2 のとき弱めあうはず。つまり、m=2 のときを満たすのが、薄膜の厚さが、d1 の場合である。2nd1=λ。この結果は、波長λの長さと薄膜の厚さ d1 が比例しているということを示しているので、d1 が最も小さいのは、波長λが最も小さい青色の場合となる(キ)。単色光の波長の長さの関係で、赤>緑>青 を知らないと答えられない。正解はB。【やや難】
第4問
Aは、よくある力学の総合問題である。面もなめらかなので、まさに典型問題といえる。Bも、よくある力学の総合問題であろう。問4は、部分点を与えることになっているが、導出までの説明が丁寧すぎるため、誘導に従えばたいして苦労することなく正解が導かれたことだろう。
A
問1)力学的エネルギー保存則を用いるのがよいだろう。1/2mv0^2=1/2mvA^2+mg(R+h)。これを解けば、vA=√v0^2-2g(R+h) が導かれる。Eが正解だ。【易】
問2)点Aを通過する瞬間に、小物体にはたらいている力は、重力 mg と、天井面からの垂直効力 N である。これらの合力を向心力とした、円運動が成立すれば小物体が点Aを通過できるので、点Aにおいて、等速円運動の運動方程式を立てると、mvA^2/R=mg+N。点Aを通過するとは、N≧0 であればよいことから、N=mvA^2-mg≧0 を満たす最小の vA を求めればよい。すなわち、vA≧√gR となるから、求める vA の最小値は、√gR。【普通】
B
問3)“小物体は台の上で滑ることなく”とあるので、はじめから最後まで M+m の質量をもつ一体の物体として扱ってよいことがわかる。力学的エネルギー保存則より、1/2(M+m)v^2=1/2kd1^2。これを解けば、d1=√(M+m/k)v。【易】
問4)“d が d2 を超えたところで小物体が台の上から滑りはじめた”とあるので、d≦d2 では、まだ台と小物体は一体のままとして扱ってよい。そのときの運動方程式を立てると、加速度をaとすれば、(M+m)a=kd となる。よって、a=kd/(M+m)(ア)となる。次に d2 であるが、“小物体にはたらく最大摩擦力と慣性力がつりあう条件から”と、求め方をご丁寧にも教えてくれている。それに従えば、小物体にはたらく最大摩擦力 F=μN=μmg と、慣性力(加速度 a と逆向きに ma)mad2 が、つりあうので、力のつりあいの式を立てる。mad2=μmg。ところで、縮み d=d2 のときの加速度は、アで求めたものを利用すればよいから、力のつりあいの式は、m(kd2/(M+m))=μmg となる。これを解くと、d2=(M+m/f)μg となる。よって解答はHとわかる。一見難しそうだが、誘導に乗ってやれば比較的容易に解答が導かれる。【普通】
第5問(選択問題)
第6問と選択の問題。熱力学の基本問題である。容器A、Bは、熱をよく通すとのことなので、容器内の気体の温度は常に大気の温度(Tとする)で一定の、等温変化である。
問1)容器A内の理想気体の状態方程式は、pAVA=nART。容器B内の理想気体の状態方程式は、pBVB=nBRT。これらを連立すれば、pA/pB=nAVB/nBVA となる。Bだ。似たような選択肢なので添え字を間違えないようにしたい。【易】
問2)コックを開けると、全体がひとつの容器になる。内部の理想気体は、物質量が nA+nB、体積が VA+VB となるわけなので、状態方程式は、p(VA+VB)=(nA+nB)RT=nART+nBRT=pAVA+pBVB である。よって、p=(pAVA+pBVB)/VA+VB である。Bが正解。添え字に気をつけないとこれまた間違ったものを選択しそうである。【普通】
問3)この問題は等温変化であるから、変化をしても、理想気体の内部エネルギーは一定のままである。よって、U0-U1=0 が正解。Dである。【易】
第6問(選択問題)
第5問と選択の問題。こちらは、原子の分野からの出題だった。光電効果の現象をよく理解していれば、すぐ解ける問題である。
問1)光電効果は、アインシュタインにより光の粒子性(ア)によって、説明された。この功績で、アインシュタインはノーベル物理学賞をもらっている。アインシュタインによると、光の粒子(光子)は、エネルギー E=hν(イ)をもっているとすると、光電効果は、アインシュタインの関係式、hν=1/2mvmax^2+W で説明できる。金属から飛び出した直後の電子の運動エネルギーの最大値は、1/2mvmax^2=hν-W=E-W(ウ)とわかる。この式の、Wは、金属の仕事関数とよばれる。以上より、正解はEだ。【易】
問2)光電効果の典型的なワンパターン問題。グラフより、-V0の切片の値から、阻止電圧がわかるため、光電効果によって電極bから飛び出した直後の電子の速さの最大値を vmax とすると、エネルギー保存則の式として、eV0=1/2mvmax^2 の関係を導ける。これを解くと、vmax=√2eV0/m となる。Gが正解だ。【普通】
問3)光源を変えてどうなったかというと、阻止電圧は変わらず(-V0の切片が同じである)、光電流の最大値が小さくなった(I0より電流値が低くなった)とグラフから読み取れる。阻止電圧が変わっていないということは、光子1個あたりのエネルギーが変わっていないということになるから、光源交換後の光の振動数は、交換前と等しい(エ)といえる。次に、光電流の最大値が小さくなっていることより、単位時間あたりに電極aを通過する電子数が少なくなったということがわかるから、光電効果によって生じる電子数が減ったことになる。つまり、単位時間あたりに電極bに入射する光子の数は、光源交換前より少なくなった(オ)とわかる。【普通】
以上。
|
|
|