2015年度 大学入試センター試験 「物理I」の講評&説明


2015年01月24日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2015年度 大学入試センター試験 「物理I」の講評&説明

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[全体講評]

 今年は、先行実施された理科の科目において、旧課程と新課程の両方が出題された。この 講評&説明 は、旧課程の「物理I」のものである。
 新「物理」と旧「物理I」で大きく異なるのは、なんといっても範囲だ。旧「物理I」には含まれなかった(「物理II」の範囲だったもの)、2次元運動、円運動、単振動、運動量、熱力学の一部、磁気、原子物理等の各分野が「物理」には含まれるようになった。単純に考えると、「物理I」のほうが範囲が約3分の2であるため、浪人生のほうが有利な気もするのだが、実際の出題はどうだったのか、順番に見ていくことにする。
 出題された「物理I」の問題には、「物理」との共通問題も見られた。「物理」の範囲ではあるが、「物理I」の範囲ではない問題は、別の問題に置き換わっているという感じである。
 以下の コメント&説明 の部分では、共通問題には、≪共通≫と記すことにするが、とくに、「物理」を見なくてもいいように共通問題についても コメント&説明 をつけている。
 第1問の小問集合では、問5の太陽を凸レンズで実像を作るという問題がめずらしかった。また、第3問≪共通≫のAでは、屈折の法則を用いずに、図から導くタイプの問題であり、考え込んでしまった受験生がいたかもしれないと予想される。第4問のAは、センター試験がお得意のグラフの問題で、個人的には非常に良い問題であると感じた。また同じく第4問のB≪共通≫およびCは、難しくはないが、計算量が多く、時間がかかった受験生も多いだろう。
 全体を通してみると、最近の傾向と異なり、特に第4問の計算量が増えたなぁという印象を持った。ただ、ひねった出題ではなかったし、素直に問題文通りに考えていけば、面倒な計算があるだけで難易度はさほど高くはなかったと思うので、しっかり基本的な力を持った受験生は、高得点が得られたのではないだろうか。
 また、昨年度から継続されると思われた部分点のある問題がなかった。これは、新「物理」も同様なので、今後も、部分点は与えない方針でいくのだろうか。来年を待ちたい。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1は波の現象、問2はエネルギーの変換+その効率、問3は電流の定義、問4は浮力、問5は凸レンズ、問6は力のモーメントの各分野からの問題であった。この中では、問5の凸レンズの問題が、遠方の太陽の実像の大きさを求めるという、ほかで見かけたことのない問題であり、【やや難】だったか。
問1)≪共通≫波の現象から回折現象を選ぶというもの。順に、@屈折、A共鳴、B音の屈折(温度による音速差)、C自由端反射による合成波、D回折、E光の色(波長or振動数)による屈折(または散乱)のしやすさ、F音のドップラー効果。【易】
問2)電力 P は、単位時間あたりの電力量 W である。水力発電なので、“電力量=単位時間あたりに水が失った重力の位置によるエネルギー×効率”として求められる。発電所Aは、a=Mgh×0.6=0.6Mgh。発電所Bは、b=0.5Mg×4h×0.7=1.4Mgh。発電所Cは、c=1.5Mg×0.6h×0.8=0.72Mgh。よって、a<c<bとなる。【易】
問3)1秒間に通過した電気量を Q とすると、電流の定義により、Q=It=1.0×10^-12[A]×1.0[s]=1.0×10^-12[C]である。よって、電極Bに流れ込む電子の数は、1秒間で、Q/e=1.0×10^-12[C]/1.6×10^-19[C]=6.25×10^6≒6.3×10^6[個]。【易】
問4)物体の重力は、ρ1Sl。物体にはたらく浮力は、アルキメデスの原理により、沈んでいる部分が押しのけた水の重力に等しいから、ρ0S(l-h)。物体は図2の状態で浮いて静止しているので、力のつりあいの式をたてる。ρ1Sl=ρ0S(l-h)。これより、h=[(ρ0-ρ1)/ρ0]l。【普通】
問5)凸レンズのレンズの式 1/a+1/b=1/f1 を用いる。太陽からレンズの中心までの距離は、太陽と地球の距離だと考えればよいので、a=1.5×10^11[m]。レンズの中心からスクリーンまでの距離は b[m] とする。レンズの焦点距離 f=75[cm]=0.75[m]なので、凸レンズの式は、1/(1.5×10^11) + 1/b = 1/0.75 となる。次に、bを求めることにするのだが、1/b = 1/0.75 - 1/(1.5×10^11) = (1.5×10^11)-0.75 / 0.75×(1.5×10^11) ≒ (1.5×10^11)/ 0.75×(1.5×10^11) = 1/0.75 と、近似できるので、レンズの中心からスクリーン上の実像までの距離は、b=0.75[m]といってよい。これは、虫めがねで太陽の像を作った経験がある受験生なら、焦点(と呼んでいたが実際には大きさがあった)に太陽の実像が(上下左右ひっくり返って)うつっていたことから正しいと考えられよう。つまり、太陽は倍率 b/a 倍の像になるということなので、求める実像の直径は、(1.4×10^9) × 0.75/(1.5×10^11) = 0.70×10^-2[m]=0.70[cm]。通常の物体の像ではなく、かなり遠方の太陽の像なので、導けなかった受験生もいたかもしれない。【やや難】
問6)≪共通≫棒の長さをlとすると、ちょうつがいまわりの棒の力のモーメントのつりあいの式は、mg(l/2)cos30°=Tl となる。【普通】

第2問
 Aは、電流計の仕組み、その内部抵抗。Bは、オームの法則および非オーム抵抗の典型的な基本問題。

問1)電流が磁場から受けるローレンツ力の向き(回転の向きからわかる)を、フレミングの左手の法則か、右ねじの法則(IからBに右ねじを回しねじの進む向きがFの向き)で導けば、磁場の向きが求められる。たとえば、辺fで考えてみると、コイルが回転する向きから、辺fの部分は手前から奥の向きにローレンツ力を受けていることがわかる。電流の向きは下から上なので、磁場は左から右でなくてならない。よって、磁極AはN極、磁極BはS極と求まる。【易】
問2)電気抵抗と抵抗率の関係式 R=ρl/S に代入すればよい。ただ、1[mm^3]=10^-6[m^3]の単位変換を間違わないようにしなくてはならない。R = 1.7×10^-8 × 2.0 / 0.030×10^-6 =1.13…≒1.1[Ω]。【普通】
問3)電流計のコイル両端の電圧が v であるから、回路に流れる電流 I は、オームの法則 v=rI より、I=v/r。ならば、抵抗値 R の両端の電圧VRは、VR=RI=Rv/rとわかる。よって、図2のPQ間の電圧 V は、V=VR+v=Rv/r+v=(R+r)v/r。【易】

問4)図4のグラフから、電圧6.0[V]のときの電流は、0.80[A]と読みとれるので、オームの法則 V=RI より、R=V/I=6.0/0.80=7.5[Ω]。また消費電力は、P=VI=6.0×0.80=4.8[W]。【易】
問5)非オーム抵抗の問題なのだが、キルヒホッフの法則を使うまでもなく、容易に解答が導かれる。回路の電流計が0.10[A]であることより、図5の特性曲線から、白熱電球の両端の電圧が0.40[V]と読みとれる。ならば、抵抗rの両端電圧は、3.0-0.40=2.6[V]である。回路全体の消費電力は、電源電圧 V=3.0[V]と回路に流れる電流 I=0.10[A]を用いて、P=VI=3.0×0.10=0.30[W]。抵抗rでの消費電力は、Pr=2.6×0.10=0.26[W]。数値計算も簡単なサービス問題だ。【易】

第3問≪共通≫
 Aは、屈折の問題。ただ、屈折の法則(スネルの法則)を用いるのではなく、図から導くタイプの問題であった。授業で作図した経験があると有利だったかもしれない。Bは、よくある干渉の問題だ。問4で、dずらすことが、経路差としては+2dになる点に気が付けばたやすいが、+dであると間違えた受験生も多いのではないだろうか。

問1)問題文中の“単位時間当たりの山の数”とはすなわち、振動数のことだ。つまり、振動数が変わらないと説明してくれているだけ。波の基本式 v=fλ より、f=v/λ=一定 なわけだから、f=v1/λ1=v2/λ2 が導ける。【易】
問2)図のdを、λ1を使ってあらわすと、媒質1の波面間隔がλ1なので、d=λ1/sinθ1 となる。また、媒質2のλ2を使ってdをあらわすと、d=λ2/sinθ2 となる。よって、λ1/sinθ1=λ2/sinθ2 が導ける。与えられた図を幾何学的に考えれば答えが導かれる。【普通】

問3)仕切り板から発生する波は逆位相であるから、観測点で波が強めあう条件式は、Δl=(m+1/2)λ である。今、v=fλ=λ/T より、λ=vT となるから、Δl=(m+1/2)vT が導けよう。【易】
問4)仕切り板をdだけずらすと、経路差が +2d になる。たとえば上にdうごかすと、A側がd短くなるが、B側はd長くなるので、経路差は +2d となる。そして、観測点で波が弱めあったとあるので、1/2λだけ、経路がずれたことがわかる。よって、2d=1/2λ であればいいので、d=(1/4)λ=(1/4)vT となるわけだ。【普通】

第4問
 Aは、センター試験お得意の力学におけるグラフを用いた問題である。等速直線運動、等加速度直線運動などの状況が含まれた、それでいて変にひねっていない、v-tグラフの問題であり、個人的には良問であったと感じた。B≪共通≫は、2つのばねが用いられている場合でかつ、縦に引っ張るという、シチュエーションとしてもやや複雑で、計算量もかなりあり、受験生に差がついた問題であるといえよう。Cは、よくあるピストンを縦置きした場合の熱力学の問題である。ピストンには質量がないが、問7では質量 m のおもりを置くので、これまた、よくある典型的な熱力学の問題であった。ボイルの法則やシャルルの法則を利用すればよい。

問1)AB間は、加速度αの等加速度直線運動である。t1 秒間に距離 L 進んだので、位置の公式を用いれば、L=1/2αt1^2。よって、t1=√2L/α。【易】
問2)単なるグラフを選ぶ問題に見えるが、なかなかに奥の深い良問だと思う。ここでは、v-tグラフのt軸と囲まれた部分の面積が移動距離にあたるということを用いることで、正解が選べる。ABの距離も、BCの距離も、CDの距離もいずれも L で等しいことから、“0からt1までの部分のt軸と囲まれた部分の面積”=“t1からt2までの部分のt軸と囲まれた部分の面積”=“t2からt3までの部分のt軸と囲まれた部分の面積”となっているグラフを選ぶ。それは、Bしかない。このグラフからわかることは、CD間の加速度は、求めていないのだが、−αであるということがいえる。【普通】
≪共通≫
問3)2つのばねが真ん中に小球を挟んだ場合である。合成ばね定数を用いて解く方法もあるだろうが、ここでは、一番オーソドックスな方法で解くやり方で説明することにする。小球は、図2の状態で静止しているので、力のつりあいの式を立てよう。まず、重力mgが下向きにはたらく。下のばねは l-h だけ縮んでいるので、伸びようとするから、上向きの k(l-h) の弾性力を生じる。上のばねは、(2l-h)-l だけ伸びているので、縮もうとするから、上向きの k[(2l-h)-l] の弾性力を生じる。よって、小球にはたらく力のつりあいの式は、mg=k(l-h)+k[(2l-h)-l] となる。これを整理すれば、h=l-mg/2k が求まる。【普通】
問4)図2からばねを引っ張り上げて図3にしたわけだ。図3では下のばねは自然長 l になっており、上のばねは y-2l だけ伸びていることがわかるはずだ。さらに、小物体の位置もhからlの高さに上昇している。この状態で、小球は静止しているのだから、力のつりあいの式を立てると、mg=k(y-2l)。これより、y=mg/k+2l が求まる。次に、手がした仕事Wであるが、考え方としては、図2での全力学的エネルギー E2 と、図3での全力学的エネルギー E3 を求め、増加した分が手がした仕事Wであるとして求めるのがよい。つまり、W=E3-E2 とするわけだ。図2の E2 は、小球の位置エネルギー mgh と下のばねの弾性エネルギー 1/2k[-(l-h)]^2、上のばねの弾性エネルギー 1/2k(l-h)^2 を足しあわせたものとなる。つまり、E2 = mgh + 1/2k[-(l-h)]^2 + 1/2k(l-h)^2。図3の E3 は、小球の位置エネルギー mgh と、上のばねの伸びている分の弾性エネルギー 1/2k(y-2l)^2 の和である(下のばねは自然長なので弾性エネルギーはない)。つまり、E3 = mgl + 1/2k(y-2l)^2。以上より、W=E3-E2=mg(l-h)+k/2(y-2l)^2-k(l-h)^2 が求まる。ただし、計算量は多い。【やや難】

問5)ピストンは軽くなめらかに動くので、(a)→(b)の変化は、定圧変化とわかる。この変化により、気体は膨張しているので、気体が外部からされた仕事 W は負(外部に仕事をしている)であることがわかる。また、大気の温度が上がった結果なので、気体は外部から加熱されたのと同じなので、気体が外部から吸収した熱量 Q は正である。【易】
問6)定圧変化であれば、シャルルの法則 V/T=一定 が成り立つ。(a)のときのピストン(目盛 0 の位置)がシリンダーの底から l の位置とすれば、(a)と(b)で、Sl/T0 = S(l+h1)/T1 が成り立つ。これより、l=T0h1/T1-T0 の関係が導かれる。また、(b)と[温度Tのときに目盛の読みhとなる状態]では、S(l+h1)/T1 = S(l+h)/T の関係になるので、h = l×[(T/T0)-1] となる。これに、先ほど求めた l を代入すれば、h=[(T-T0)/(T1-T0)]×h1 が導かれる。【普通】
問7)図5のように、質量 m のおもりを置いた状態でピストンが静止しているのだから、ピストンにはたらく力のつりあいの式をたてよう。大気圧から下向きに P0S。おもりの重力も下向きに mg。気体の圧力を P とすれば、上向きに PS の力がはたらく。よって、ピストンにはたらく力のつりあいの式は、P0S + mg = PS となる。これより、気体の圧力は、P = P0 +mg/S。一方、気体の温度が T0 であることから、この温度が(a)と同じになっていることがわかる。温度が一定であればボイルの法則 PV=一定 が成り立つので、(a)と[おもりを置いた状態]で、P0V0 = P×(V0-Sh2) が成り立つ。先に求めた P を代入すれば、P=( P0 + mg/S )×(V0-h2S) が導かれる。【普通】


以上。



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