2015年度 大学入試センター試験 「物理」の講評&説明


2015年01月21日更新


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2015年度 大学入試センター試験 「物理」の講評&説明

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[全体講評]

 新課程の「物理」では、物理基礎も含む全範囲が出題されることになることはわかっていたが、実際には、熱分野と原子分野は選択できるようになっており、教科書を全部できなかった場合でも不公平がないような問題となっていた。せっかく、文科省が物理は全範囲を必須にしたのに、個人的にはがっかりである。
 さて、新課程で「物理」の範囲になった分野が主として問われた問題は、第2問のAの交流、Bのローレンツ力、第6問の原子分野である。
 特筆すべき問題としては、第1問の問3だ。単振動の加速度が、a=−ω^2xであること、慣性力は、F=−maであること、静止している物体が動き出すのは、物体にはたらく力が最大摩擦力μNより大きくなったときであること、以上3点がわかっていないといけない問題であり、なかなか考えられた問題だと感じた。
 また、第3問のAでは、屈折の法則を用いずに、図から導くタイプの問題であり、考え込んでしまった受験生がいたかもしれないと予想される。第4問のAの問3、Bは、ともに計算量が多く、時間がかかった受験生も多いだろう。第5問と第6問で選択になっているのだが、第6問のほうはほとんど知識問題であるため、そちらを選んだほうが時間がかからなかっただろう。しかも、第6問の問1にいたっては、2003年のセンター試験の追試問題とかなり類似、というかまったく同じであり、過去問を学んでいた受験生は、ラッキーだったに違いない。
 全体を通してみると、最近の傾向と異なり、第4問を筆頭に、計算量も増え、知識だけで何とかなるような問題が少なくなったように感じた。であるから、難易度としては難化したといってよさそうだ。新課程で増加した分野の問題は、さほど難度は高くなかった。むしろ、第4問のBの力学の問題に今年は振り回されたような印象がある。
 また、昨年度から継続されると思われた部分点のある問題がなかった。従来どおり、今後も、部分点は与えない方針でいくのだろうか。来年を待ちたい。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。問1は波の現象、問2は静電気力、問3は単振動と慣性力と摩擦力の混合問題、問4は熱力学、問5は力のモーメントの各分野からの問題であった。この中では、問3の単振動と慣性力と摩擦力の混合問題がやや難か。問4にいたっては、理想気体の状態方程式の数値の代入だけの問題であり、おもわず、「なんだこれは?」と口に出してしまった。
問1)波の現象から回折現象を選ぶというもの。順に、@屈折、A共鳴、B音の屈折(温度による音速差)、C自由端反射による合成波、D回折、E光の色(波長or振動数)による屈折(または散乱)のしやすさ、F音のドップラー効果。【易】
問2)クーロンの法則の典型的基本問題である。文字なので計算もさほど面倒ではない。正方形の1辺をlとすれば、qは、右上のQから、kqQ/l^2 の力を左に受ける。左下のQからは、kqQ/l^2 の力を上に受ける。この2つの力の合力は、左斜め上(45°)に、√2kqQ/l^2 である。このqにはたらく静電気力がつりあうには、右斜め下(45°)に、同じ大きさの力がはたらけばよいので、Q’(負の電荷である必要がある)から受ける力の大きさは右斜め下に kqQ’/(√2l)^2=√2kqQ/l^2 であればよい。まとめると、Q’=−2√2Q。【普通】
問3)単振動の加速度が、a=−ω^2x であること、慣性力は、F=−ma であること、静止している物体が動き出すのは、物体にはたらく力が最大摩擦力μNより大きくなったときであること、以上3点がわかっていないといけない問題である。アの慣性力の最大値F1は、単振動の加速度が最大になるところ(x=A)であるから、F1=−m×(−ω^2A)=mAω^2 となる【やや難】。イは、アができなくても解ける親切設計【易】。
問4)理想気体の状態方程式 PV=nRT に代入するだけ。計算すると P=1.992×10^5≒2.0×10^5(有効数字2桁)。【易】
問5)棒の長さをlとすると、ちょうつがいまわりの棒の力のモーメントのつりあいの式は、mg(l/2)cos30°=Tl となる。【普通】

第2問
 Aは、交流の問題。今年話題になったLEDにからめてか、ダイオードのある問題。かなり引っかかりやすい問題だと思う。Bは、典型的なサイクロトロンの問題。

問1)図2には、Bに対するAの電位がかかれている。グラフで正の部分はBよりAが電位が高いのだから、電流が流れるならば、A→C→D→B(時計回り)の向きだ。だが、この向きはダイオードの逆方向なので、流れない。一方、グラフの負の部分ではAよりBが電位が高いのだから、電流は、B→D→C→A(反時計回り)の向きだ。こちらはダイオードの順方向なので電流がながれる。以上を総合すれば、Dが導かれる。【難】
問2)交流回路における抵抗の平均の消費電力は、P=VeIe(Ve、Ieは実効値)=V0I0/2(V0、I0は最大値)。ここでは、最大値のほうを用いる。しかも、ダイオードにより半分の電流が流れていないので、求める平均の消費電力はさらに半分にすることになる。よって、P=(1/2)×V0I0/2=(1/4)×V0^2/R。ここでは、オームの法則 V0=RI0 を用いた。【普通】

問3)Vの電圧で1回電極間を粒子が通り過ぎると、粒子は加速され、エネルギーはqVだけ増える。n回ならnqVだけはじめよりエネルギーが増える。【易】
問4)エネルギーがEnの粒子の速度は、En=1/2mv^2 より容易に求まる。また、円運動の半径rは、円運動の運動方程式 mv^2/r=qvB から容易に求められる。【易】

第3問
 Aは、屈折の問題。ただ、屈折の法則(スネルの法則)を用いるのではなく、図から導くタイプの問題であった。授業で作図した経験があると有利だったかもしれない。Bは、よくある干渉の問題だ。問4で、dずらすことが、経路差としては+2dになる点に気が付けばたやすいが、+dであると間違えた受験生も多いのではないだろうか。

問1)問題文中の“単位時間当たりの山の数”とはすなわち、振動数のことだ。つまり、振動数が変わらないと説明してくれているだけ。波の基本式 v=fλ より、f=v/λ=一定 なわけだから、f=v1/λ1=v2/λ2 が導ける。【易】
問2)図のdを、λ1を使ってあらわすと、媒質1の波面間隔がλ1なので、d=λ1/sinθ1 となる。また、媒質2のλ2を使ってdをあらわすと、d=λ2/sinθ2 となる。よって、λ1/sinθ1=λ2/sinθ2 が導ける。与えられた図を幾何学的に考えれば答えが導かれる。【普通】

問3)仕切り板から発生する波は逆位相であるから、観測点で波が強めあう条件式は、Δl=(m+1/2)λ である。今、v=fλ=λ/T より、λ=vT となるから、Δl=(m+1/2)vT が導けよう。【易】
問4)仕切り板をdだけずらすと、経路差が +2d になる。たとえば上にdうごかすと、A側がd短くなるが、B側はd長くなるので、経路差は +2d となる。そして、観測点で波が弱めあったとあるので、1/2λだけ、経路がずれたことがわかる。よって、2d=1/2λ であればいいので、d=(1/4)λ=(1/4)vT となるわけだ。【普通】

第4問
 Aは、よくある力学の総合問題である。ただ、問3はかなり計算量がある。Bは、2つのばねが用いられている場合でかつ、縦に引っ張るという、シチュエーションとしてもやや複雑で、計算量もかなりあり、受験生に差がついた問題であるといえよう。

問1)小球を投げてから点Pにあたるまでは、水平投射の問題でとして考えればよいから、水平方向成分だけを考えれば求まる。つまり、L=v0t1。よって、t1=L/v0。【易】
問2)小球を投げてから落ちるまでの時間は、点Pで衝突しても壁がなめらかであることより、鉛直方向の運動には衝突は影響をおよぼさない。よって、鉛直方向成分だけを考えればよく、自由落下とみなせるから、h=1/2gt2^2 である。よって、t2=√2h/g。【普通】
問3)点Pでの衝突で、水平方向の速さがe倍になるので、力学的エネルギーは保存しない。問題にしたがって、点Oと点Qにおける小球の力学的エネルギーをまじめに求めるのが一番の近道だ。まず、点OのE0であるが、点Qの高さを重力による位置エネルギーの基準とすれば、E0=1/2mvo^2+mgh となる。次に点Qでの小物体の速さvQを求めよう。水平方向成分は壁で反射しているのでev0(左向き)。鉛直方向成分は、自由落下でt2秒後の速さなので、gt2である。三平方の定理により、vQ=√(ev0)^2+(gt2)^2。よって、点QのE1は、E1=1/2mvQ^2=1/2me^2v0^2+mgh となる。求めるのは、E0-E1=1/2(1-e^2)mv0^2。計算量が多く面倒なのだが難しくはない。【やや難】

問4)2つのばねが真ん中に小球を挟んだ場合である。合成ばね定数を用いて解く方法もあるだろうが、ここでは、一番オーソドックスな方法で解くやり方で説明することにする。小球は、図2の状態で静止しているので、力のつりあいの式を立てよう。まず、重力mgが下向きにはたらく。下のばねは l-h だけ縮んでいるので、伸びようとするから、上向きの k(l-h) の弾性力を生じる。上のばねは、(2l-h)-l だけ伸びているので、縮もうとするから、上向きの k[(2l-h)-l] の弾性力を生じる。よって、小球にはたらく力のつりあいの式は、mg=k(l-h)+k[(2l-h)-l] となる。これを整理すれば、h=l-mg/2k が求まる。【普通】
問5)図2からばねを引っ張り上げて図3にしたわけだ。図3では下のばねは自然長lになっており、上のばねは y-2l だけ伸びていることがわかるはずだ。さらに、小物体の位置もhからlの高さに上昇している。この状態で、小球は静止しているのだから、力のつりあいの式を立てると、mg=k(y-2l)。これより、y=mg/k+2l が求まる。次に、手がした仕事Wであるが、考え方としては、図2での全力学的エネルギー E2 と、図3での全力学的エネルギー E3 を求め、増加した分が手がした仕事Wであるとして求めるのがよい。つまり、W=E3-E2 とするわけだ。図2の E2 は、小球の位置エネルギー mgh と下のばねの弾性エネルギー 1/2k[-(l-h)]^2、上のばねの弾性エネルギー 1/2k(l-h)^2 を足しあわせたものとなる。つまり、E2 = mgh + 1/2k[-(l-h)]^2 + 1/2k(l-h)^2。図3の E3 は、小球の位置エネルギー mgh と、上のばねの伸びている分の弾性エネルギー 1/2k(y-2l)^2 の和である(下のばねは自然長なので弾性エネルギーはない)。つまり、E3 = mgl + 1/2k(y-2l)^2。以上より、W=E3-E2=mg(l-h)+k/2(y-2l)^2-k(l-h)^2 が求まる。ただし、計算量は多い。【やや難】

第5問(選択問題)
 第6問と選択の問題。センター試験お得意の、グラフを用いた熱力学の問題である。
問1)熱の出入りがない→断熱変化、内部エネルギーが変化しない→等温変化、という、基本的な連想ゲームができれば楽勝だ。【易】
問2)P-V図における仕事は、V軸と囲まれた部分の面積であることを理解していれば、気体が外部からされる仕事(P-V図では体積が小さくなる向きの変化→右から左への状態変化)は、Wa>Wb>Wcの関係であることがすぐ判別できる。【易】
問3)(a)の断熱変化(Q=0)は、熱力学第1法則(ΔU=Q+W外から)より、ΔU=W外から となるので、V0→V1でW外から>0 より、ΔU>0 となる。ならば、変化後は温度が上昇するから、カ。(b)の等温変化は、変化前後で温度がT0で一定だから、オ。(C)の定圧変化は、シャルルの法則に従うので、VはTに比例する。よって、ウ。グラフ慣れしていないと悩むかもしれない問題だ。【普通】

第6問(選択問題)
 第5問と選択の問題。今年のセンター試験で範囲に含まれるようになった原子物理学の分野からの出題だ。が、ほとんど知識問題なので、第5問より得点しやすかったのではないだろうか。
問1)この問題は2003年のセンター試験追試の問題と同じである。α粒子は+2eであるので、正に帯電している。一方、金の原子核も正に帯電している(+79e:α粒子よりはるかに電気量が大きい)。よって、原子核に近い軌道を通ったα粒子のほうが、より受ける斥力が大きくなり大きく軌道が変化しているものを選べばよい。【易】
問2)ラザフォードの水素原子模型(長岡半太郎模型)は、電磁力学的にすぐエネルギーを放出してしまうという欠陥があった。これを解決したのがボーアの模型であり、電子はとびとびの軌道をとるという条件を与えること(定常状態)で、現在の原子模型へとつながるのである。エネルギーが高い定常状態から低い定常状態へと電子が移るときに、差の分のエネルギーが光(光子)として放出される。ちなみに、“光電子”は、光電効果の起こったときに出てくる電子のこと。【易】
問3)ボーアの条件とは、2πr=nλ(n=1,2,3,…)。ここに、ド・ブロイ波長λ=h/mv を代入すると、2πr=nh/mv となる。【易】


以上。



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