2014年度 大学入試センター試験 物理Iの講評&説明


2014年01月20日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2014年度 大学入試センター試験 物理Iの講評&説明

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[全体講評]

 今回も部分点がある!
 昨年同様計算問題が少ないうえに、今年度の問題はシチュエーションに凝ったものもその本質さえ見抜けば素直なものが多かったように感じられた。よって、昨年と比較すると簡単になったといえるだろう。1問のミスで大きく左右されそうだ。
 小問集合の第1問の問2は、シチュエーションに凝った問題だったと感じられたのだが、電気に関する基本問題であった。問3のレンズの問題は、問題文中で丁寧にヒントを与えており、親切設計だなぁと感じた。
 第2問のAは、受験生の苦手とする交流のしかもオシロスコープの出力の問題で、差がつくかもなぁと感じた。Bは非常にオーソドックスな素直な基本問題であったので、ぜひ正解して欲しいところだ。
 第3問のAは、ドップラー効果の問題を公式暗記では点をやらんぞという出題者の気合を感じた。ただ、ベルトコンベアーをその説明に利用しているが、こんな例ははじめてみた。かえって判りにくいような気がしないでもないのだが・・・。問1より先に問2をみたほうがスムーズにできたかもしれない。Bの問4は、珍しい問題だったので、差がついた問題かもしれない。
 少し面白いと感じたのは、第4問のAの問2で、これはセンター試験でよくあるグラフの問題ではあるが、物体Cが物体Aと離れたあとに等速直線運動になることに気がつかないと答えられない。BとCは素直な基本的な問題であったように感じた。
 全体を通してみると、昨年とは異なり、基本的な素直な問題が多かったような印象を受けた。シチュエーションに凝った問題も見受けられたが、問題文中に多くのヒントがあり、落ち着いて、そのヒントに気がつけば正解が得られたのではないかと思う。来年度からの新課程の物理や物理基礎で採用されるかわからないが、部分点がある点も定着するのだろうか。


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。順に、力学的エネルギー保存則、消費した電気エネルギー、波長とレンズの屈折の関係、電流が作る磁場と電流が磁場から受ける力、弦の振動とうなり、力のモーメントのつりあい。昨年同様、たいした計算もなく、比較的容易に解答が得られたかと思われる。短い1つの小問でありながら2つの事を聞いていたりと、問題作成者のセンスのよさが感じられた。
問1)力学的エネルギー保存則より、はじめの高さHまでとすぐわかる。「点Cから鉛直上方に飛び出した」とあるからありがたい。これが斜めに飛び出すと、とたんに斜方投射問題になり難しくなる。【易】
問2)シチュエーションに凝ってはいるが、電気の基本問題である。“棒の電気抵抗がR[Ω]であり、そこにI[A]の電流が流れたとき、t[s]間ではどれだけ電気抵抗が電気エネルギーを消費しますか”というのと同じであるとわかれば求められる。消費電力を P=RI^2[W]で求めて、t[s]間で消費した電気エネルギー W=Pt=RI^2t[J]とすればよいわけだ。【普通】
問3)レンズというのがプリズムの連続体であるというようなことを知っていれば、単なるプリズムの問題であり簡単にわかる。さらに、「空気に対するガラスの屈折率は、青色の光のほうが赤色の光よりも大きい」と問題文にもヒントがあり、屈折の法則から、青のほうがよく曲がることを導いても答えが得られるという超親切設計の問題だ。【易】
問4)アのほうは、電流がまわりに作る磁場の向き。通称“右ねじの法則”ですぐわかる。イは、電流が磁場から受ける力の向き。フレミングの左手の法則を用いて向きを見つける。また、アルミ箔とあるが、単なる逆向き電流を流した場合の直線電線が互いに斥力を受けることを知っていればすぐわかる。ちなみに、同じ向きに電流が流れていればたがいに引力を受ける。【易】
問5)部分点があるのがびっくり! そんなにエは難しくないと思うのであるが・・・。前半は弦の基本振動がどんな振動であるのかがわかることと、振動数の見抜き方を問うている基本問題だ。真ん中のコマをとると、基本振動の波長が2倍となるので、振動数は1/2倍となる(糸の張力が同じなので弦を伝わる波の速さは同じ:v=fλ)。後半はうなりの式である、n=|f1-f2| からわかるように、振動数の差が大きくなるほどうなりの回数は多くなる。コマをよりずらすと振動数の差が大きくなるのでうなりまくるというわけだ。【易】
問6)棒にはたらく力のモーメントのつりあいの式が立てられればよい。点Aまわりの力のモーメントのつりあいを考えよう。点Bには下向きにMgの大きさの張力、右向きにmgの大きさの張力がはたらくので、力のモーメントのつりあいの式は、+mga-Mgb=0 となるから、Mb=ma が導かれる。【易】

第2問
 Aは、受験生が苦手とする交流の問題だ。問1はオシロスコープの出力という、なかなか高校現場ではそこまで実験ができていないのではないかと思われる内容が試験で問われた。問2はよくある交流の計算問題だ。Bは、電流と磁場の向きの問題である。問3はローレンツ力の向き、問4はレンツの法則の問題である。いずれも素直な基本問題だろう。

問1)60[Hz]なので、1周期の波形の時間が1/60=0.0166・・・[s]のものを選ぶ。また、100[V](実効値)→約140[V](最大値)と書いてあり、それを1/10にしたので、波形の最高値から最低値は140/10×2=28[V]のものを選ぶ。該当するのはAしかない。ただ、オシロスコープの出力になれている受験生はそんなにいないと思われる。通常の交流の式としてV-t(電圧-時刻)グラフをかくのと同じであると考えればできるかな。【普通】
問2)よくある計算問題だ。前半は、電線は全部で400[m]なので、その抵抗 r=400×(2.0×10^-4)=0.080[Ω]である。電熱器の消費電力 P=1000[W]=VI=100×I なので、I=10[A]とわかる。ならば、電線での消費電力は、P1=rI^2=0.080×10^2=8.0[W]である。後半は、変圧器があっても消費電力は同じであることと、変圧器は 電圧の比=巻数の比 ということを知っていればできよう。1次コイル側の電圧が100[V]の20倍の2000[V]になるが、消費電力は1.0[kW]で同じであることから、P=1000[W]=VI'=2000×I' より、電線を流れる電流は I'=0.50[A]となる。よって、電線で消費される電力 P2=rI'^2=0.080×0.5^2=0.020[W]となる。よって、P2/P1=0.020/8.0=0.0025 となる。【普通】

問3)回路から、Aには上から下に電流が流れ、Bには下から上に電流が流れていることがわかれば、あとは磁場から受けるローレンツ力の向きを答えればよい。【易】
問4)スイッチを開いたなら、1回巻きのコイルが一様磁場中に存在することになる。紙面の裏から表にさらに急激に磁場が強くなるのであれば、コイルはレンツの法則によりそれを打ち消そうと(表から裏の向きに磁場を作ろうと)、電流を右まわりの向きに生じる。つまり、AもBもともに上から下の向きに電流が流れることになる。すると、磁場から受けるローレンツ力の向きはともにQの向きとなる。実に素直な問題である。【易】

第3問
 Aは、ドップラー効果の導出を扱った今までに見たことのない問題。ドップラー効果といえば公式の暗記で点が取れるかのような参考書が多い中、この問題は、暗記で点はやらんぞという出題者の気合を感じさせた。でも、個人的には、申し訳ないのだがかえってわかりにくい・・・のです・・・が。Bの問4はよくある気柱共鳴実験の問題である。問3は、少し珍しいかもしれない。差がついたかも。

問1)出題者もシチュエーションがわかりにくいと感じたのか、部分点がある。どっちか一つでもあっていれば点があるという異例の問題。通常のドップラー効果でいうのなら音源が静止している観測者に速度vで近づく場合に相当することがわかれば、問題なくとけると思う。教科書でとりあげる一番の基本型と同じ状況である。【易】
問2)公式丸暗記ではなく、移動して近づいている音源では波長が短くなり、静止している観測者にはその短くなった波長の音が伝わるんだ(→振動数が大きくなる)ということを作図なりできちんと理解していれば特に悩む問題ではないと思う。【易】

問3)気柱共鳴装置の実験問題としてよくある問題である。問題文中に「管口が腹」とあるのもうれしい。この手の問題は連続する2つの共鳴が起こった位置の差が1/2波長であるということを用いるのが定石だ。今回は、70[cm]-50[cm]=20[cm]=1/2λ1 であるから、この音の波長λ1=2×20[cm]=40[cm]とわかる。また、L=50[cm]のはじめの共鳴位置では定常波が5倍振動であったことも同時にわかる。ならば、振動数は v=f1λ1 より、f1=v/λ1=340[m/s]/0.40[m]=850[Hz]。【易】
問4)なかなか珍しい問題である。「ピストンを・・・ゆっくりと引きながら、常に共鳴が起きるように・・・少しずつ変化させた。」という表現の意味が、“5倍振動を維持しながら70[cm]までピストンを移動させたのだ”ということがわかればよいのだが、それがわかったかどうかで命運が分かれたかもしれない。つまり、70[cm]の位置でも5倍振動しているということは、波長をλ2とすると、1/2λ2=70/5×2=28[cm]の定常波ができていることになるわけだ。問3と同様にそのときの振動数f2を求めてみると、f2=v/λ2=340[m/s]/0.56[m]となるわけだから、求める f2/f1=(v/λ2)/(v/λ1)=λ1/λ2=0.40/0.56=5/7 となるわけだ。【やや難】

第4問
 Aは、よくある滑車のからんだ運動の問題。問2のようなグラフの問題はセンター試験ではよく出るものであるが、今回は、t=t0 以降の運動が等速直線運動になるというなかなか面白い問題であった。Bは、重心の公式を使う基本的な問題の問3と、力のモーメントのつりあいの式を立てる、これまた基本的な問題の問4で、確実に正解したいところだ。Cは、問5で圧力が問われている。こんなようなシチュエーションの問題は2004年度に出ており、過去問題集などで見かけたことがあるのではなかろうか。後半の問6と問7は、とってつけたような気体の問題だなぁと感じた。

問1)運動方程式を立てよう。物体A+物体Cについては、(M+m)a=(M+m)g-T。物体Bについては、Ma=T-Mg。連立してaを求めれば、a=mg/(2M+m) となる。【普通】
問2)v-tグラフの問題である。v-tグラフの傾きが加速度aであることから、t=0からt=t1までは一定の加速度(問1で求めた)で傾きが一定である。問題はt=t1以降だ。実は、物体Cが離れると、物体A(質量M)と物体B(質量M)という同じ質量のものが滑車の両側についていることになるから、はたらく力はつりあってしまう。すなわち、等速運動となるわけだ。等速であればv-tグラフは傾かずにt軸と平行になるわけなので、Aの正解にたどり着ける。【やや難?】

問3)重心を求める問題だ。重心の公式を使えばよい。A点を原点として右向き(B点の向き)にx軸の正とする。重心の位置が l1 なので、l1=(2m×l/2 + m×3/2・l)/2m+m となる。これを解けば、l1=5/6・l が求まる。【易】
問4)問3で求めた重心のまわりで力のモーメントのつりあいの式を立てるのがよかろう。-l1Ta+(2l-l1)Tb=0。これを解けば、Ta/Tb=2l-l1/l1 が得られる。【易】

問5)状態Bでは液面差がhとあるから、右側の管のhの分の液体の重力による圧力+大気圧p0と、左の閉じ込められた気体の圧力p2が等しくなるという式を立てる。密度が出ると苦手意識を持ってしまう受験生が多いので、順を追って説明しよう。まず、管の断面積をSとする。状態Bの右側のhだけ高くなっている分の液体の体積Vは、V=Sh である。その液体の重力は、ρVg=ρShg であるから、その液体分の圧力p'は、p'=ρShg/S=ρhg とわかる。圧力の大きさが管の左側と右側で等しくなるので、(左側)p1=p'+p0(右側)となる。よって、p1=p0+ρhg が導かれる。【普通】
問6)閉じ込められた気体についてだけの問題であるから、これは熱力学の法則を使うのだなと気がつけばたやすい。気体の温度は、状態Aと状態BのともにT0で一定であるから、ここではボイルの法則が成り立つ(等温変化)。p0V0=p1V1。すなわち、p0Sl0=p1Sl1 であるから、p1/p0=l0/l1 と求まる。【易】
問7)気体の温度がT1に変化しても、液面差がhで問5と同じであることより、気体の圧力は、状態Cでも状態Bと同じp1であることがわかる。すなわち、圧力が一定の場合であるので、シャルルの法則が成り立つ(定圧変化)。V1/T0=V2/T1。すなわち、Sl0/T0=Sl2/T1 であるから、l2=T1/T0・l0 と求まる。【易】


以上。



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