2013年度 大学入試センター試験 物理Iの講評&説明


2013年01月21日更新


数式がテキスト形式のファイルで作られているので見にくくて申し訳ない!


2013年度 大学入試センター試験 物理Iの講評&説明

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[全体講評]

 今年度の問題は、計算が必要な問題が少なかったように感じる。
 小問集合の第1問の問2は、見たことがない問題だったのだが、問題文をよく読めば問題は解けるように作ってあった。第2問のAは、電磁誘導の問題として面白いと感じた。数値計算させられない物理Iでの、出題者の苦労が見て取れた。特にその問2の、状況をイロイロと考察しないと正答が得られない考えられまくった問題が印象に残っている。グラフについてはやや疑問点が残っているのだが・・・。
 また、音の干渉の問題である第3問の特に問4では、x軸やy軸を持ち出して説明が複雑でかなり難しそうに思えたのだが、選択肢があったので僕は救われた。ちなみに、選択肢がなかったらおそらくひっかかっていただろう(汗)。
 最後の最後である、第4問のCでは、断熱真空膨張というなじみのない現象が扱われていたりして驚いたのだが、問題文を読めば答えられるようにしてあった。
 全体を通してみると、昨年とは異なり、基本的な問題ばかりとはいいがたく、イロイロ状況を考えなくては解答が出ないものや、いったい何が問われているのかを考えなくては引っかかりそうな問題が多かったように感じる。受験生はあせったかもしれない。しかし、よく問題文を読むと、ヒントになるようなことが多く書かれており、その現象を知らなくても解答が出るような配慮も見られた。
 昨年度に比べるとかなり問題の傾向が異なっており、受験生の多くは難しく感じたかもしれない。昨年よりも平均点が下がるか??


[各設問に対するコメント&説明]

第1問
 小問集合。順に、うなり、仕事とエネルギー、静電気、投射運動、波の回折、浮力とモーメントの複合問題。たいした計算もなく、比較的容易に解答が得られたかと思う。・・・が、問2は、何が聞かれているかを問題文で判断せねばならないし、問5では、回折の効果と波長の関係を知っていないと答えられない(よくある水面の回折の様子の写真を見ればわかる程度なのだが)。
問1)典型的なうなりの問題。T=0.5[s]なので、うなりは、f=1/T=1/0.5=2.0[Hz]だ。おんさより音が低いとのことなので、弦の振動数は440.0[Hz]より小さい。よって、440-2.0=438.0[Hz]。【易】
問2)なにやら見たことがない状況だが、“1秒あたりプロペラ部分に流入した海水の運動エネルギー”を考えろとのことなので、1/2mv^2を求めればいいのだなと方針が立つ。海水の速度は、v=3.6[km/h]=1.0[m/s]であり、1秒あたりの海水の流入質量は、m=3.0×10^3[kg]であるから、海水の運動エネルギーが1秒あたり、1/2mv^2=1.5×10^3[J]とわかる。よって、電力に変換されたのは、4.5×10^2[W]/1.5×10^3[J/s]=0.30、すなわち、30%。【普通】
問3)静電気の問題。金属なので、静電誘導の問題だ。アで、Aが負、Bが中性、Cが正。イで、Aは負のまま分離し、B、Cはそのまま。ウで、Cの正が均一に広がるのでBも正となる。エで、BとCはおなじ大きさの正に帯電しているとわかる。よって、最終的にはAは負。Bは正。Cも正で、BとCはおなじ電気量。【易】
問4)よくある等加速度直線運動の公式を使う問題。地面を原点にし、鉛直上向きを正として軸を取ると、Aについては、地面までかかる時間をtとすると、位置の公式を使って、0=h-1/2gt^2。Bについては、0=vt-1/2gt^2。代入して解くと、v=√gh/2。【普通】
問5)“振動数が半分”の波は、波長が2倍。なので、@かA。回折の効果は、波長が長いほうが大きいことを知っていれば、Aが選べる。【回折の効果と波長の関係を知らない人には、やや難か?】
問6)浮力の大きさは、アルキメデスの原理によりρVgである。(Vは液体を押しのけた分の体積)。O点まわりの力のモーメントのつりあいは、(mg-ρ(2V)g)a=(mg-ρVG)bとなる。【易】

第2問
 Aは、ファラデーの電磁誘導の法則の問題である。物理Iでは、誘導起電力の大きさを求めるところまでは学ばない(V=-NΔΦ/Δtの式はやらない)ので、なんとなく向きと大きさだけを問う問題であるところが、出題者の苦労を感じさせられた。Bは、オームの法則と消費電力がわかっていれば解ける基本問題。

問1)磁石がコイルの上を通過すると、円形コイルを貫く磁束が変化する。具体的には、右下から左上に磁束が増え、磁石がコイルの真ん中を通過すると、右下から左上に磁束が減る。磁束が変化すれば、変化した磁束を打ち消す向きに磁束を生むように誘導電流が流れる(レンツの法則)。ファラデーの電磁誘導の法則を知っていれば、誘導起電力の大きさが、単位時間当たりの磁束変化に比例する&コイルの巻き数に比例することから、正答にたどり着く。検流計の内部抵抗が一定と考えて、オームの法則(V=RI)により誘導起電力の大きさと誘導電流が比例することも利用する。アでは、磁石を強いものにしたら磁束の変化が大きくなるから誘導起電力は大きくなる。イでは、コイルの巻き数が半分になったんだから誘導起電力の大きさも半分になる。【易】。
問2)この問題はなかなか考えられた問題だったと思う。斜面に摩擦がないので、磁石は等加速度直線運動をして斜面に沿って落ちる。つまり、Aのコイル上を通過するときよりBのコイル上を通過するときのほうが速い(→通過時間が短くなる)。また、ファラデーの電磁誘導の法則により、磁力線の数で誘導起電力の大きさが決まるのではなく、単位時間当たりの磁束の変化で誘導起電力の大きさが決まるのだから、Bのコイルのほうが大きな誘導起電力が生じる。以上より、Bが正答とわかる。状況を整理しイロイロと考察する必要のある問題だった。【難】
余談>問2の解答のグラフであるが、僕にはいささか腑に落ちない。というのも、AもBも電圧が正の山と負の谷の高さが同じに見えることだ。磁石が等加速度直線運動しているのなら、負の谷の高さのほうがいくらか大きくないといけないのではないか。まったく対称に見えるので、これは誤りではないのか? それとも、僕が間違っている?

オームの法則(V=RI)と、消費電力(P=VI)を使う典型的な基本問題であろう。
問3)AB間が12[V]なので、R3には、30-12=18[V]。R2を流れる電流I2=V2/R2=12/20=0.60[A]。R3もR2と直列なので、おなじ電流が流れているから、その抵抗値はR3=V3/I2=30[Ω]。一方、R1を流れる電流は、I1=V1/R1=30/60=0.50[A]。電流計を流れる電流は、キルヒホッフの第一法則より、I=I1+I2=0.50+0.60=1.1[A]。【易】
問4)R4が可変抵抗に変わろうがなんだろうが、R1の両端電圧は30[V]で変化なし。よって、消費電力も変化しない。一方、R2のほうは、R4が大きくなると、電圧V2がだんだん小さくなる。すると、P2=V2I2=V2^2/R2の関係により、消費電力も減少する。【普通】

第3問
 波動の問題。Aは、凸レンズの基本問題。Bは音の干渉の問題。

問1)@が正解なのだが、このことはあまり授業では扱わない。しかし、消去法で解答がわかるので助かった受験生もいたことだろう。ちなみに、他の解答の間違いを指摘する。Aスクリーン上には倒立実像ができる。Bレンズを通った光が屈折の法則でスクリーン上に集まる。B虚像はレンズのろうそく側にでき、レンズを通してでないと見えない。【易】
問2)平行光線を入射させ光が集まった点を焦点という。つまり、焦点距離f=15[cm]ということだ。レンズの式(1/a+1/b=1/f:凸レンズの場合)に代入し、1/a+1/60=1/15 より、a=20[cm]。倍率m=b/a=60/20=3.0倍。なんのひねりもない基本問題。【易】

なんだか見たことのないような問題であるが、メガホンA、Bから筒Cまでのホースの長さがおなじだとあるので、干渉条件はメガホンの入り口までで決まるということに気がつけばたいして難しくないだろう。
問3)Qより遠くから近づけるとQで最大(→経路差Δl=mλ:m=0の場合:強めあう)。さらにO側へ近づけるとRまでは音が小さくなり、Rを超えるとまた大きくなることより、Rが最小とわかる。(→Δl=(m+1/2)λ:m=0の場合:弱めあう)。音の波長は、V=fλより、λ=V/f=340/1700=0.20[m]。つまり、QRの距離は1/2λ=0.10[m]とわかる。よって、OR=OQ-QR=1.20-0.10=1.10[m]。【普通】
問4)長さが具体的に書いてあるが、解答の選択肢をみると、数値の計算は必要ないことがわかる。X1→X2では、Oにスピーカーがある場合のみ、OP=OQとなって、強め合う条件を満たすが、それ以外では、条件から外れることより、“原点Oで最大となる。”を選べる。Y1→Y2では、スピーカーからの経路差が生じないので、常に強めあう条件を満たしていることになる。なので、“変わらない”かと思って選択肢を見たらそれがない(涙)。しばらく考えて、そうか、近くにスピーカーが移動しているのだから、強めあう条件はおなじでも、音が近づけば大きくなるなぁと気が付き、“徐々に大きくなる。”を選べた。もし解答欄に“変わらない”があったなら、あやうく引っかかるところであった。【やや難】

第4問
 Aは、ばねを用いた力学の問題。単振動の振動中心が力のつりあいの位置であることを知っていないと、問2はかなりの難問となろう。Bは摩擦のある面を含む力学的エネルギー保存則で解く典型問題。Cは、熱力学第一法則を使う断熱変化の問題。現象自体は断熱真空膨張と見慣れない受験生もいたかもしれないが、問題文をよく読めば解答できる。

問1)糸がぴんと張る前の話なので、ばねは無関係。よって、なめらかな斜面をすべりおりる物体の典型問題。斜面に沿って下向きに正とし、物体の加速度をaとすると、運動方程式は、ma=mg sinθとなり、加速度はa=g sinθである。等加速度直線運動の位置の公式に代入して、l=1/2(g sinθ)t^2 より、t=√2l/g sinθ。【易】
問2)点Bで糸がぴんと張るので、単振動になる。その後、点Cで物体の速さが最大になるので、点Cが単振動の振動中心と分かる。振動中心は物体にはたらく力のつりあうところであることから、力のつりあいの式をたてる。この流れは、物理IIの単振動のところでよく出てくるのだが、物理Iだけしか学んでいない受験生では知っているかは怪しいかもしれない。点Bから点Cまでのばねの伸びをxとすると、点Cでの斜面に沿った方向の力のつりあいの式は、mg sinθ=kx。よって、x=mg sinθ/k。点Aから点Cまでの距離なので、k+l とわかる。【やや難?】
問3)外力がはたらくわけではないので、はじめから最後まで力学的エネルギーは保存している。A→Bでは、重力の位置エネルギーが減り(U=mghsinθなので、直線的に変化することが分かる)、Cで、単振動の振動中心(Cで、重力と弾性力の位置エネルギーの和が最小となり、物体の運動エネルギーが最大となる)。C→Dでは、みなれた単振動のエネルギーの移り変わりとなる。物体が一番下に来る点Dでは、運動エネルギーが0で、重力と弾性力の位置エネルギーの和が最大となる。その値は、Aの位置と同じになっていなければ力学的エネルギーが保存しないので、正解は@と絞れる。【普通】

問4)O→P間の物体の鉛直方向の力はつりあっているので、N=Fsinθ=mg がなりたつ。これより、垂直抗力は、N=mg-Fsinθ。動摩擦力の大きさは、摩擦の法則より、f=μ'N=μ'(mg-Fsinθ)。基本問題レベル。【易】
問5)O→P間で、仕事と力学的エネルギーの関係を使う。[はじめの全力学的エネルギー]+[物体にした仕事]=[あとの全力学的エネルギー]。すなわち、0 +(Fcosθ・l -f・l)=1/2mv^2。【普通】
問6)O→P間の運動は、運動方程式 ma=Fcosθ-f より、加速度 a=(Fcosθ-f)/m(>0) 一定の等加速度直線運動をしている。よって、移動距離xは、位置の公式から、x=1/2at^2となり、x∝t^2のグラフとなる。また、P→Q間の運動は、運動方程式 ma'=-f より、加速度 a'=-f/m(<0) 一定の等加速度直線運動をしている。よって、移動距離x'は、位置の公式から、x'=1/2a't^2となり、x'∝-t^2のグラフとなる。以上からBとわかるだろう。【普通】

問7)いずれの装置も“熱を通さず”とあるので、断熱変化である(ΔQ=0)。熱力学第一法則の 外へした仕事W を用いた表現(ΔQ=ΔU+W)を用いるのが分かりやすいか。ピストンをストッパーの位置までゆっくり動かしたので、気体は外に仕事をする(W1>0)。断熱変化であるから、熱力学第一法則より、0=ΔU1+W1 なので、ΔU1=-W1(<0)となり、内部エネルギーは減少する。つまり、温度が下がることが分かる(T0>T1)。次にピストンをゆっくりシリンダーの奥まで押し込んだ。気体の仕事は外からされたので、W2<0。さらに気体の温度がはじめと同じT0になったことから、W1=-W2であることもわかる。以上よりGが選べるだろう。【易】
問8)コックを閉じたまま無理やりピストンを引っ張って固定する、という見慣れない操作をしてからの問題。しかし、その後、コックを開いたときに“気体は・・・仕事をしない”とあるから、W=0とわかる。熱力学第一法則で断熱変化だから、ΔQ=0でかつW=0なのだから、内部エネルギーも変化しない(ΔU=0)。すなわち、気体の温度は変化しない。この現象を断熱真空膨張というのだが、そんなことは知らなくても問題の解答は得られるだろう(T0=T3)。その後はピストンを押したのだから、気体は外から仕事をされる(W4<0)。熱力学第一法則より、0=ΔU4+W4。つまり、ΔU4=-W4(>0)。内部エネルギーが上昇するので、気体の温度は上がると分かる(T4>T3=T0)。【普通】


以上。



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