[全体講評]
今年度の物理Iの問題は、あまりヒネッタ問題がなかったと感じた。教科書練習問題程度の問題も多い。一見見たことがないように見える問題だが、よく考えると正答が導けるという問題もあるにはあったのだが。
個人的には、第2問の電気の問題で、かなりの計算能力というか、分数のまま計算するというセンスが問われた問題が、印象に残った。おそらく、受験生の間でも、この第2問で大きく差がついたのではなかろうかと思われる。
一般に見かけない問題は、第2問の問1、問4か。第3問のAはスクリーンを円形にしたという、考えられた問題だった。第4問の問2のグラフも珍しい出題だったと思う。通常は、縦軸が加速度の変化の場合、横軸に時刻tをとるものだが、問題では位置xとなっている。単振動の授業でこのようなグラフをかくということはまずないと思う。
全体を通してみると、基本公式丸暗記でも、いくらかできる。さらに、青が波長が短く、赤が波長が長いという科学的な知識を必要とする問題や、計算時に分数のまま計算するといったちょっとした計算のセンスなどが問われる問題もあった。僕自身の感想としては、昨年よりも問題にヒネリがないので、素直な問題だなぁ、簡単だなぁ、こんな簡単でいいのか? と思いながら問題を解いた。
最後に、第2問の問2の電流のグラフが本当にそうなるか気になる点と、第4問の問2のグラフのように横軸を位置xでとるグラフをかくことに何か大きな意味があるのか気になったのでつぶやいておく。
[各設問に対するコメント&説明]
第1問
小問集合。力学、熱力学、電気、波動の各分野からの基本的な問題というか、教科書の練習問題程度のものだ。とくに、ひっかけはなく、公式に代入するだけのものや、図から判断することで容易に正答のわかるものだった。レベルは【易】。ひとつも間違えないのは当たり前だろう。
問1)波の基本公式 v=fλ に代入するだけ。λ=2.0[m]、f=5回/10秒=0.50[Hz]。【易】
問2)電気の問題。1重コイルの周りの磁場について答えるもの。右ねじの法則をつかう。【易】
問3)力学的エネルギー保存則と等加速度直線運動の組み合わされた典型的問題。ひっかけもなく、運動方程式が立てられ、加速度の大きさが a=g/2 であることがわかれば、位置の公式(x=v0t+1/2・gt^2)から正答は容易。【易】
問4)屈折の法則(スネルの法則)を学ぶときに出てくる典型的な図。しかも、左上からの入射であり、親切極まりない。屈折の法則であえて説明するのなら、n2/n1=v1/v2=sinθ1/sinθ2。【易】
問5)つりあいの力の分解という典型的な教科書確認問題レベルの問題。ただ、分解時の三角形が典型的な三角形ではなく、1:2:√5であることが異なるが、選択肢に√3がないので、ひっかかるはずもない。【易】
問6)Q=mcΔt を用いて計算する、熱量保存の問題。水の温度上昇分=鉄球の温度降下分 として求める。100x4.2x(12.0-10.0)=m鉄球x0.45x(96.0-12.0)。計算結果は、m鉄球=22.222…。有効数字が3桁にそろえてあるのが好意的。【易】
第2問
電気分野の問題。Aは、電磁誘導の法則やレンツの法則の問題。問2のようなデジタルのような電流変化が起こるのかはいささか疑問だが。【易】〜【普通】。Bは、オームの法則をつかった、抵抗の直列と並列つなぎを順に処理する問題。さらに、問4ではグラフまでかかせるという実験を意識した問題。計算も分数で行うようにしないと割り切れないという仕様になっている。【やや難】。
A
問1)電磁誘導の法則を用いる。物理IIまで学んでいれば、F=lIB という、フレミングの左手の法則(もしくは右ねじを回す方法)で容易に答えが出る。【易】。
問2)レンツの法則を使う。余談だが、電流の値が本当にこんな風なデジタルのような矩形波を描くのかはやったことがないのでぼくにはわからない。領域IからIIへ入るときに、裏から表向きの磁場が強くなるので、コイルにはそれを打ち消すように表から裏向きの磁場を生もうと誘導電流が流れる。それは負の向きとなる。領域IIからIIIだとその逆にコイルを貫く裏から表への磁場が弱くなるから、裏から表向きの磁場を増やす向きにコイルに誘導電流が流れる。それは正の向きとなる。磁場の変化時にしかこれらは起こらないので、すぐに誘導電流は流れなくなる。【普通】
B
まず、ニクロム線(ニッケルとクロムの合金でできた電気抵抗の大きい金属線)が抵抗が大きいことを知っておくことが基本。文化祭などでニクロム線に電気を流して熱くし、発泡スチロールを切ったりするのに使ったりもする。その抵抗の大きさは、オームの法則(V=RI)から、25.0[m]で100[Ω]とわかる。5.0[m]あたりだと20[Ω]だ。
問3)抵抗の両端の電圧が求まれば、正答にたどり着ける。いろいろなやり方があると思うが、ぼくは次のようにした。5.0[m]のニクロム線の部分は抵抗が20[Ω]であるから、抵抗の両端の電圧は、15[V]-2x(5.0[Ω]x0.25[A])=5.0[V] と求め、抵抗と並列つなぎになっている15.0[m]分のニクロム線(60[Ω])に流れる、分岐電流がIニクロム=5[V]/60[Ω]=1/12[A]とわかる。これより、抵抗を流れる電流I抵抗が、I抵抗=0.25-Iニクロム=1/4-1/12=1/6[A]なので、オームの法則から、求める抵抗値Rは、5[V]=RxI抵抗 すなわち、R=30[Ω]と導いた。小数で電流を考えようとすると割り切れないので分数で計算する必要がある。計算量も多く、時間がかかるかも。【やや難】
問4)距離Lを用いた表現で、回路についてのオームの法則が書け、さらに、Lについての関数としてのグラフを選ぶという、なかなかに骨のある問題だったと思われる。あまりこういった問題は他にないので面食らった学生さんもいたのではないか。ちなみに、オームの法則は、15[V]=(20[Ω]+(2L/25.0)[m]X100[Ω])xI[A] となる。整理すると、I=15/(8L+20) だ。このグラフを選択肢から選ぶのだが、L=0[m]のときはI=15/20=0.75[A]であること、L=5.0[m]のときはI=15/(40+20)=1/4=0.25[A]、L=10.0[m]のときはI=15/(80+20)=0.15[A]であることから、正答が選べる。反比例のグラフが平行移動したと考えるのもはやい。【やや難】
第3問
波動の問題。Aは、光の回折格子の問題。Bは共鳴の問題だ。【易】〜【普通】。
A
問1)典型的な回折格子の問題。光が強めあう条件式 dsinθ=mλ(m=0,1,2…) を用いる。数値を代入すると、sinθ=m/2 となるから、-60°<θ<60°でこの条件が成り立つのはm=0(θ=0°)と、m=1(θ=-45°と45°の2つ)のときの3つのみ。【易】
問2)赤と青では、その波長が赤が長く、青が短いことを知っている必要がある。波長以外は変わらないので、波長が長くなると(赤では)θが大きくなり、波長が短くなると(青では)θが小さくなるから、PとRは青の明線、Qのみ赤の明線とわかるだろう。波長の知識が必要なので【普通】レベルか?
B
問3)開管と閉管の気柱共鳴の典型的問題。開管のときは、基本振動が波長が管長と同じときに起こる。管の長さをLとすれば、v=fL のとき(λ=L)。一方、閉管の基本振動は、半波長分が管長と同じときに起こるので、v=f'x2L のとき。音源がおなじ(音速vが一定)なので、これらを連立すれば、f'=f/2=220[Hz] が求める。また、閉管のその後の共鳴は、3倍振動、5倍振動と奇数倍の周波数で共鳴するので、次の共鳴する周波数は220[Hz]X3=660[Hz] のときだ。【易】
問4)ヘリウムガスとかいう情報で不安にならなくても、音速が3倍になるとかいてあるので親切。音源の音速が v'=3v になったと考えるだけ。再び開管なので、v'=3v=f"L が基本振動。問3の v=fL を代入すると、f"=3f=1320[Hz] のときと容易に求まる。【易】
第4問
Aは、ばねを用いた力学の問題。問2のグラフの問題は見慣れない問題だった。Bは摩擦のある面を含む力学的エネルギー保存則で解く典型問題。Cは、熱力学の問題。【易】〜【普通】。
A
問1)ばねの自然長から縮めたわけなので、ばねの弾性エネルギー分の1/2kd^2が運動エネルギーに変わる。また小物体はdだけ下にあるので、位置エネルギー分のmgdも運動エネルギーに変わる。【易】。
問2)運動方程式が立てられれば求まる。自然長までの運動方程式は、下向きを正として、ma=k(d-x)+mg となる。つまり、a=k(d-x)/m + g だ。また、自然長を過ぎると、小物体にはたらく力は重力だけになるから、ma=mg つまり、a=g で一定だ。該当するのは2。ちなみに、x=0 のときの加速度の大きさは、a=kd/m + g である。あまりグラフで問われる例は見たことがないが、基本に忠実に解けば正答は得られると思うので、レベルは【普通】。
B
問3)力学的エネルギー保存則。P点とA点で、mgh=1/2mvA^2。【易】
問4)以降もエネルギーで考えるのがよかろう。Q点で、7/10h の高さまでということは、AB間で摩擦により 3/10mgh だけのエネルギーを失ったというわけだ。動摩擦力による失われたエネルギー分(摩擦力のする仕事の大きさ=動摩擦力μ'N×移動距離L)μ'mgL=3/10mgh(Q点での力学的エネルギー=B点)。【普通】
問5)AB間を1回通過するごとに 3/10mgh だけエネルギーを失うわけなので、1回目mgh(A→3/10mgh損失→B)7/10mgh。2回目7/10mgh(B→3/10mgh損失→A)4/10mgh。3回目4/10mgh(A→3/10mgh損失→B)1/10mgh。4回目はBからAに向かって3分の1だけ進んだところで(1/10mgh分)静止する。【普通】
C
問6)操作アは、気体の温度を保ったままなので、ボイルの法則(PV=一定)が成り立つ。P0V0=PAVA であることより正答が求まる。【易】
問7)容器と外部との熱のやり取りなので、熱力学第一法則の問題だ。吸収熱量=内部エネルギー増加分+外へする仕事。操作アでは、等温変化だから内部エネルギーは変化しない。ピストンを押しているので外から仕事がされている。よって、熱量は容器から外部へ放出される。操作イでは、ピストンを固定しているので仕事は0。気体の温度を上昇するので内部エネルギーは上昇する。以上より正答が導かれよう。【普通】
以上。
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