2010年度 名古屋大学入学試験 前期 物理 の講評


2010年03月03日更新


2010年度 名古屋大学入学試験 前期 物理 の講評

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はじめに

 2010年度の名古屋大学前期入学試験の物理の問題についての講評および,超詳説である。講評については,かなり個人的見解が述べてあるかもしれないが,ご参考いただければ幸いである。

全体講評

 ここ数年,名古屋大学の物理の問題は,大変オーソドックスな問題に変化してきているが,今年度も同様に,基本的な事柄を問う問題が多かったと思う。物理の演習書などでそれなりに学習している受験生には,どこかで問いたことがあるような感じのする設問が多かっただろう。特に計算力を要する問題も出題されておらず,難易度としては基本〜標準といえる。いかに取りこぼさないかが合否の分かれ目になりそうな問題であった。


問題T

 力学の問題である。問題文の意味をしっかりと理解し,現象をイメージできれば,特に難しさを感じないだろう。(6)のみやや難か。

(1)グラフの選択問題。センター試験が好みそうな問題である。横軸が時間であるから,時間変化を正しく導ければ問題ない。【易】
(2)運動方程式でも解けると思うが,エネルギーと仕事の関係を用いるのがはやい。教科書例題レベル。【易】
(3)AとBの反発係数eでの衝突問題。衝突直前直後は運動量の典型的基本問題にすぎない。【易】
(4)(2)を利用すれば計算時間を減らせる。その後の計算も複雑ではない。【易】
(5)Aが,Bと衝突した後に,台と一体となって運動するということがわかれば,単純な運動量保存則の問題にすぎない。【易】
(6)Aに着目してはたらく力をかき,Bに着目してはたらく力をかき,台にはたらく力が,AやBからの反作用の力であることに気が付けば,解答にたどりつける。さらに,Aの台から受ける静止摩擦力の大きさがわからないので,地道に運動方程式を立てて求めなくてはならない点は,やや難しかったように感じた。また,それぞれの摩擦力の向きも,ゆっくり丁寧に考えないと誤りそうである。【やや難】


問題U

 電気回路の問題である。コンデンサやコイルの過渡現象(充分に時間がたった後の振る舞いやスイッチを切り替えた直後の振る舞い)を問う,二次試験でよくみる問題だと感じた。スイッチを開いたり閉じたりする手順で,回路がどのようになるかをしっかり把握できれば難しさは感じないと思われる。基本〜標準程度。

(1)静電エネルギーはコンデンサの基本。【易】
(2)電池のした仕事は,電荷を電位差の分だけ持ち上げた分に等しい。【易】
(3)電池のした仕事の半分は抵抗で消費されジュール熱になるという,典型的問題。ただ,抵抗を直列に左右につないだところがひねってある。ただ,あまりひねりは感じなかったが。【易】
(4)コイルに電流が流れる場合,十分に時間がたてば,コイルはただの銅線と同じように振る舞う。これを知っていれば,単なるキルヒホッフの第1法則と第2法則を利用する,教科書例題レベル。【普】
(5)コイルの蓄えている磁場エネルギーは,コイルの基本。問題自体は【易】だが,(4)の電流値を利用するので,(4)ができるかにかかっている。
(6)スイッチ切り替え直後のコイルの自己誘導による誘導起電力の発生と,コイルに流れる電流値が瞬間的には維持されるということを理解しているかが分かれ目。それがわかっていれば,単なるキルヒホッフの第1法則と第2法則を利用する,教科書例題レベルにすぎない。【普】

 個人的な感想としては,せっかくコイルとコンデンサを登場させたのだから,コンデンサ側のつなぎ変えの問題や,コンデンサとコイルの電気振動の問題がなかったのがさびしかった。


問題V

 大変欲張った感じがするこの問題。弦の振動,気柱共鳴,力のつりあい,理想気体の状態方程式などなどをひとつの設問で問おうという,なんとも欲張った問題である。ただ,欲張っているが,それぞれの分野での問われている内容は基本レベルのものであり,難易度はそれ程高くないと感じた。

(1)弦の基本振動についての問題。教科書本文レベル。【易】
(2)気柱共鳴の実験経験があればたやすい問題。しかも,開口端補正は無視できるので簡単だろう。ちなみに,定常波は,開口端がハラとなり閉口端がフシとなる。図にかいて一般化するのがオススメだ。【普】
(3)一見面倒そうだが,(1)および(2)を利用すればよい。条件を満たすものは,総当たり戦で順に確認していくしかないだろう。【普】
(4)ピストンの横(水平)方向の力のつりあいの式が立てられ,理想気体というキーワードから"理想気体の状態方程式"が思いつけば解答にたどりつける。(3)の結果が正しく求まっていないと解答が間違ってしまうが,問題としては熱力学の問題というような代物とは到底いえないので,解いていて拍子抜けした。この問題だけなら【易】。ただし,(3)の結果が利用できないと答えられない。

 波動の問題と熱力学を組みあわせようとした努力がうかがえた問題だったが,ここまでして熱力学の内容,しかも,理想気体の状態方程式を知っているのかを問いたかったのか? と感じて仕方がない問題だった。


 以上。

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