はじめに
2010年度の広島大学前期入学試験の物理の問題についての講評である。講評については,かなり個人的見解が述べてあるかもしれないが,ご参考いただければ幸いである。
全体講評
広島大学の入試問題は,例年,基本事項をうまく組み合わせれば解答にたどりつくことができる,受験生にぜひオススメしたい,良問がよく出題される。今年度も同様に,難問奇問の類はなく,教科書にかかれている基本事項をうまく利用できるかを問うているように感じた問題ばかりであった。どこかで見たような図や,どこかで解いたことのあるような状況の問題であるが,単なる練習問題レベルに終わることなく,一つ上の段階まで出題されているという,なかなか理想的な入試問題のレベルであると毎年感心している。
全体を通して特に難問はなかったが,[U]の問1の"ヤングの実験"に関する問題は,なかなか進めていくと難しく感じるような問題であったと思う。よって,それのみやや難レベル。その他は,基本〜標準レベルの良問ばかりだったろう。
[T]
力学の総合問題である。これ1題で,力の矢印,単振り子,力学的エネルギー保存則,運動量保存則,水平投射が理解できているかが問える,なかなかの良問だと感じた。特に複雑な計算もなく,全問正解が望ましい。
問1 糸につるされた物体にはたらく力の矢印を実際にかかせる問題。基本中の基本。【易】
問2 sinθ≒θ(角度θがとても小さい場合)という条件で,“単振り子”が頭に浮かぶかどうか。単振り子の周期の公式を利用する問題。【易】
問3 問題文で"力学的エネルギー保存則"を用いるよう指示があるので,すんなり解けるだろう。【易】
問4 次に,質点1と質点2の衝突を考える問題。問題文でこれまた,“運動量保存則”および“速度と反発係数の関係式”をそれぞれかけと指示があり,かつ,それぞれの式のみに点数をくれるという太っ腹な問題。連立させて計算するのも,演習問題に慣れた受験生なら,「いつもの計算か」程度のもの。最後にv1を代入し忘れないように。【易】
問5 質点2の衝突後の運動が水平投射になっていることに気が付けば,教科書例題レベル。【易】
問6 グラフの選択問題。さらに,なぜそのグラフになるかの理由も箇条書きにするという問題。条件m1<em2だと,衝突後に質点1がはね返ることや,エネルギー保存が成り立つので衝突後に振幅が減衰しないこと,単振り子の周期は糸の長さだけで決まるので,衝突前後で変化しないことなどを理解してはじめて解答にたどりつける。グラフを選ぶ問題なのだが,多くのことを理解していないと答えらない。まさに良問だ。【普】
[U]
問1は,“ヤングの干渉実験”。しかし,後半では屈折率の異なる平板をスリットの前に置いたり,色を考えなくてはならない問題もあり,穴埋めなのだがなかなか難しい部分もあった。やや難程度か。問2の熱力学の問題は,大変初歩的で,教科書基本レベルだろう。易〜普通レベル。
問1
ア 平面波がスリットを通過するときなので2次元の波だから,円形波が正解。ちなみに,3次元なら球面波となる。【易】
イ 光が波動の性質をもつため,ホイヘンスの原理にしたがって回り込む。これを“回折”という。ちなみに,“干渉”は,位相の差により強めあったり弱めあったりすることで,光なら明暗ができることを指す。【易】
ウ 明線条件とは,光(波)の位相がそろって強めあう条件のこと。ご丁寧に,絶対値まではじめからかいてある。【易】
エおよびオ
屈折率n>1の平板を片側のスリットの前に置いた場合,明線の位置がどうなるかという問題。おなじm番目の明線の位置で考えるということ,そこから,おなじm番目なので,光学的距離の差(光路差)が同じであるということに気づき,作図をうまく利用して式を求め,その結果を利用して,明線の位置がO側に近づく(xm>xm0)ということを導き出さねばならない。なかなかに難しい問題だったと思われる。さらに,途中で,ヤングの実験の結果式を,回折格子風に,角度θを用いて導かねばならず,sinθ≒tanθ=xm/Lを用いるという展開が必要になる点も難しさにつながったのではなかろうか。【やや難】
カ 光と偏向板とくれば,“光は横波”であろう。【易】
キおよびク
色が関わっているので,波長の違いを利用することになる。赤,青,緑のなかでは,赤がいちばん波長が長く,青がいちばん波長が短い。ちなみに,緑の波長はだいたい500[nm](ナノメートル)。その知識を踏まえないと解けない。物理学の常識が必要な問題だ。【普】
問2
ケおよびコ
熱力学第一法則の基本事項を問う問題。注意点は,指定されている仕事Wは,“気体が外にする仕事”。あと,第一法則の“一”は,漢数字で書くほうが教科書どおり。【易】
サ 内部エネルギーは,気体の温度に比例する。1サイクルでは,もとの状態に戻るので,儷=0だ。【易】
シ 熱力学第一法則から,儷=Wとなり,気体がする仕事は,P−V図のV軸と囲まれた部分の面積に等しいということを利用。【普】
ス C→Aの変化は等圧変化。よって,シャルルの法則が使える。【易】
セおよびソ
B→Cの変化がと等温変化だったとすると,ボイルの法則が使える。P−V図上での面積の変化から,気体が外にする仕事が減ることもわかるだろう。【普】
[V]
どの問題集でもみかける,電磁誘導と磁場から受けるローレンツ力を駆使するタイプの,2本のレールの上を移動する金属棒の問題である。問1で角度をつけたり,問2でコンデンサをつけたりしているが,さほど難しくはないだろう。標準的な普通レベルの問題だ。
問1
(1)自己誘導による誘導電流の向きは右ねじの法則に従う。教科書本文レベル。【易】
(2)自己誘導起電力の大きさはファラデーの電磁誘導の法則で求まる。ただ,磁場の向きとレールの向きが直角ではないので,最初に磁場のレールに直角の向きの成分を求め(Bcosθ),それを利用する方法が,間違いを減らせると思う。【普】
(3)一定の速さ(等速直線運動)→角棒にはたらく力がつりあっている。【普】
問2
(4)コンデンサに蓄えられた電気量は,Q=CV 。【易】
(5)一定の速さ(等速直線運動)→角棒にはたらく力がつりあっているか,力がはたらいていない。はじめに右向きに力を受けるから動き出すのだから,最終的に力を受けなくするしかない。よく装置を見ると,右に角棒が動いていくことで,閉回路(コイル)が自己誘導を起こし,角棒の両端に誘導起電力が生じることがわからないと,解答にたどりつけない。順番に何が起こるのかを筋道立てて考えていく必要があり,なかなか厄介だ。しかも,それを言葉で説明しなくてはならない。【やや難】
(6)エネルギーの保存の問題。最終状態でも,コンデンサにはまだ,静電エネルギーが残っていることを忘れないように。【普】
以上。
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