ダイヤモンドの燃焼

2005年11月16日 松野聖史

【要旨】
 化学で炭素原子の話をするときにいつでも話題に登場する,黒鉛とダイヤモンド。共に同じ炭素なので,同素体という関係にある。今回機会があって,ダイヤモンド(原石)を燃やす実験に参加した。なかなかダイヤモンドを燃やす実験にお目にかかれないので,実験方法などを記録した。
【キーワード】
 化学 炭素 同素体 黒鉛 ダイヤモンド 燃焼

 化学の一番はじめの元素の紹介のところで,かならず話題にのぼるのが,同素体(allotrope)である。ここで学習者が一番驚く内容といえば,炭素?の同素体だ。炭素の同素体には,黒鉛とダイヤモンド,そして無定形炭素,フラーレンがある。特に驚かされるのは,黒鉛とダイヤモンドが同じ炭素からなっているということだ。つまり,バーベキューなどで使用されている黒鉛(日常生活では"炭"(すみ)とよぶ場合が多い)と,高価でなかなか手に入らないあの宝石のダイヤモンドが同じ炭素原子からできているのだ。
 炭素の同素体の話をするとき,僕はいつでも,「ダイヤモンドも燃やせばバーベキューができる。なんて高価なバーベキューだろう!」 と紹介するのだが,実際に燃やしたことはなかった。今回,ダイヤモンドを燃やす実験に参加でき,なかなか貴重な体験をしたので,手順とおこなった実験を記録しておくことにする。
 ダイヤモンドは約800℃くらいまで加熱しないと燃焼しない。ピンセットでつまんで加熱するのは危険なので,今回の実験では石英ガラス(融点2000℃くらいらしい)に入れ,バーナーを2つかざして加熱した。ダイヤモンドは宝石だと高いので,実験用の教材屋さん(中村理科)で購入した原石を用いている。それでも,わずか直径2〜3mmで一粒1500円という金額だ。ちなみに,石英ガラスも直径の5mmくらいのものを用いているがこれも8000円くらいするとか。まことにもって実に贅沢な実験である。
 装置を右図のように組み立てる。ダイヤモンドに酸素が効率よく送り込まれないと燃焼しないので,酸素ボンベから出した酸素を袋に入れ,酸素送り係が,ダイヤモンド原石が吹っ飛ばないように注意しながら酸素を送り込む。また,燃焼で出てくる二酸化炭素を確認するために,石灰水も用意していた。図ではガスバーナーが一つだが,もう一つは,横から炎をあてた。石英ガラス管は,図にはないがスタンドで固定してある。


 ダイヤモンドは原石なので,にごった感じの半透明の塊であった。2つのガスバーナーで温度を上げながら,局所的にダイヤモンドを狙って加熱していく。酸素をうまく送り込むと,原石の全体が真っ赤になってくる。さらに温度が上がると,原石自身が明るく光り輝いて,目で直視するととてもまぶしくみていられないくらいになった。わずか2〜3mmの小さな塊だけが,石英ガラス管のなかで光り輝く様子はなんとも神秘的だった。今回の実験では,原石の温度は測定できなかったのでわからないが,明るく光り輝いた状態までは確かめられた。本当は,燃焼し,炎が出るのであるが,そこまでの確認はできなかったのが残念だ。
 実験中に試験管の中の石灰水が白くにごることも確認でき,ダイヤモンドの燃焼直前までは体験できたということで,参加者は満足そうだった。終了後に冷えてから原石を見ると,実験前よりだいぶ小さくなっているのも確認できた。二酸化炭素として出ていったわけだ。まさに高価な贅沢な実験だった。
 せっかくなので,「黒鉛でもやろうよ。」と僕が提案し,消臭用に使用していた炭を小さく砕いて,2〜3mmの塊を,まったく同様の手順で,加熱してみた。ダイヤモンドに比べてかなり軽いので酸素を送るときに吹っ飛ばないように注意しながらの実験であった。はじめはなかなかダイヤモンドのように光り輝かないので,同じ炭素の同素体といっても違っているなぁと思っていたが,しばらく加熱すると,ダイヤモンドほどではないものの,かなり明るく光り輝き始めた。
 消臭用の炭で,ダイヤモンドのような輝きではないもののかなり輝くことがわかったので,同じ炭素原子からできているんだなあと,参加した面々で納得した。両方の試料共に炎は観察できなかったので残念ではあったものの,かなり高価な実験ができ,満足した。実験終了後に,「生徒に見せるときは,消臭用の炭を"ダイヤモンド"と称して燃やしてもわからないのではないか?」 と冗談も出るくらい,その光り輝く様子が似ているのが実に感動的だった。ダイヤモンドのほうが長い間まぶしいくらいの光を発したのだが,それは,炭素原子がしっかりダイヤモンド型結晶格子を構成しているからであろうと考えられる。
 やはり,教育には金をかけなければ感動は得られない。今回の実験で,高価なダイヤモンドを燃やすということを目の前で体験できたのだが,僕の人生では,初めての経験であった。理論上,黒鉛と同じ炭素からできているということはわかっているものの,目の前で燃やし,その結果がよく似ていることを体験できた今は,理論どおりなんだろうとよりシックリ自分の中に定着した気がする。学習者にとって,体験は大切であり,特に理科教育における体験教育の重要性を再確認できた。とはいうものの,先立つものがなくては,この実験を毎回おこなうことは難しい。
 教育の大切さを再確認して,教育にもっと投資をすべきだと思う。日本の未来のために投資することは決して無駄ではなく,現在それがしっかりおこなわれていないので,教育現場では,体験教育が十分になされていないのが現状だ。日本を,未来を担う若者に,ぜひ投資して欲しい。すぐに結果の出る企業への投資ばかりが投資のように考えられているのだが,世のため人のためになるお金の使い方は,教育への投資であろう。
 最後になるが,この実験は,お金の余裕のある教育機関の方には,ぜひ実験してみることをオススメしたい。より,ダイヤモンドという宝石に対する興味が深まり,自然の不思議に興味がもてると僕は思うからである。

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