2005年01月19日 松野聖史
【要旨】
1月15日、16日と大学入試センター試験が全国で一斉に行われた。受験生にとって第一関門になるセンター試験であるが、最近の傾向や、今年度のいろんな事件などから思うところを述べた。
【キーワード】
大学入試センター試験 私立大学 国立大学 センター利用 開始時間 2ちゃんねる 漏洩 基礎事項
2005年。昨年は、漢字一文字で表すと「災」だという、年末の報道情報をふっとばす(?)新年である。高校生(受験生)にとっては、この年末〜正月は修羅場であると同時に正念場である。現勤務校では、1月5日から補習が始まるという、予備校もどきの日程で困惑させられている。
さて、1月15日、16日。理科3科目受験ができるような日程になって、理系の力のある生徒は、さらに受験のチャンスが広がっていく、大学入試センター試験が始まった。自分が物理担当なので、初日の理科の問題の出来栄えが気になった。その日の夜、生徒からメールが来て、「第5問(コンデンサの問題)が計算した答えがなかった。」と第一報があり、少々不安だった。16日朝刊に問題が掲載されたのでどれどれと見てみると、なかなかひねった問題である点に気がつく。同日、夜、インターネットで河合塾の速報を見ていると、「第3問(熱)の真空という考え方は扱っていない教科書が多く難しかったのでは?」とあり、「第5問は、計算能力が問われる問題である。」とあった。
英語にしても、数学にしても、このところ大学入試センター試験の問題は、スピードばかりが要求されるような試験であるような傾向が強まっている。深く考察したりする問題はほとんどなく、本来の、基礎事項の出題からはずれてきているのではないのかと思うほどの問題もある。対策をするほうも、マークシートをいかに早く塗るかだとか、見た瞬間に解答の中から正解を判断するテクニックみたいなものに走っているのではなかろうか。文部科学省の提唱してきた「生きる力」を判断できないような試験に成り下がっている。
物理IBの問題に関しての個人的見解はこうだ。まず、今回は、計算量が要求される問題が出ているのがあまり気に入らない。限られた時間内で、それだけの計算能力を持つ生徒のみが点を取れるというのならそれは、基礎事項とはいえないのではなかろうか。計算能力がこのところの各種調査で大幅に低下しているのを知っているはずなのに・・・、出題者にその意図を問いたいくらいだ。一方、干渉現象がCDでみられるといった身近な例を選択させるという問題もあり、そちらは、評価したい。理科の大事なところは、紙の上だけでの議論ではなく、身近なものに応用できなければ意味がないからだ。また、河合塾の指摘していた、第3問であるが、たしかに、真空という扱いは見たことがない。第4問の光の薄膜干渉の問題が教科書類似問題であるのに比べ、第3問は、絵だけ見ると非常に教科書に類似しているのだが、真空(つまり圧力が0である)という点が異なる。いろんな入試問題を見てきたつもりだったが、こんなのは初めてだ。しかも、真空なのに、ピストンを手で引いて体積を持たせるというからひねった問題であろう。引っ掛け問題として出されたとしても、3題分(3×4=12点)は大きいのではなかろうか。
翌、17日。生徒は学校で、各予備校の自己採点表をかく。その後、いきなりやってきた生徒が文句を言って物理準備室へ入ってきた。やはり、第3問に引っかかったようだ。その生徒いわくこうだ。「体積だけが広がって温度を一定にできるはずはないのでは?」・・・問題文の1番目だ。真空部分との境界の栓をあけた後、温度ははじめと同じになったとある点が合点がいかなかったらしい。理想気体であるので「PV=nRTの状態方程式が成り立つと考えると、右辺が変化なしなので・・・ボイルの法則だな。」と説明すると、「そうか!」と残念がっていた。また、問題文の3番目は、「もとの状態に戻すのだから、はじめと同じになるはずなので、温度ははじめと同じにならんの?」という。いったん広がったものを戻すというわけで、ピストンを押し込むことになれば、当然仕事をするから、熱力学第一法則(エネルギー保存則)を考えねばならないのだが、見た目の絵にごまかされたようだった。生徒の言う「はじめと同じ」なのは、「絵」だけなのであるが、これは、出題者の意図的な引っ掛けであろう、その引っ掛けに見事に引っかかったようだった。まぁ、第二法則(永久機関は作れない)にも矛盾することにあるので、その点から考えてもわかるのであるが。
河合塾の見解を見るかぎり、難化したような印象をもっていたが、出してきた予想平均点は62点で、例年並み。難易度は変わらないという予想であった。つまり、引っ掛け問題はあるが、基本問題も多く出ており、全体では平均点は変化なしということなのだろう。しかし、内訳を見れば、今回は正規分布型になると考えられる。僕自身は、物理に関しては、2つ山が分かれるのが通常であると考えている分(←偏見かもしれない)、こういう平均点付近に集まるような出題はあまり好きではない。しかし、センター試験が基礎事項を問う問題であるという趣旨には乗っていると思うので、とくに異論があるわけではない。
さて、ここ数日各種メディアでセンター試験の事後情報が色々と流れてきている。まず、試験開始時間が間違っていたところがいくつかあった点だ。日本中で行われているので仕方がないといえば仕方がないが、その当事者になってしまったときの生徒の気持ちはどんなものなのかと心配になってしまう。また、一部に、英語の時間が1分半ほど短かったというような記事もあった。遅くはじめたので延長しますというのはわかる話だが、短くされたのはかわいそうだ。センター側では希望者には再試で対応するということだが、そういう問題なのだろうか? そのようなことが起きた原因をしっかりと把握し、以後起こらないようにしっかり行動すべきだと思う。
インターネット上では、前日に国語の問題の漏洩をほのめかすような書き込みが「2ちゃんねる」なる掲示板でなされたとか。関係者以外は知りえるはずのない情報であろうから、この点は今後追求されていると思う。国語の問題の一部に教科書で取り上げられている文章が出たというのは、今回が初めてなのではないだろうか。しかし、個人的には、それを出題ミスとするのはどうかと思う。有利不利と言う話になるかもしれないが、それはちがうと思う。良い文章であるから、教科書を書いた著者も採用したのだし、大学入試センター試験の出題者も採用しただけのことだ。大学入試センターが謝罪するようなものではないと思う。
共通一次試験のときの、基礎事項を確認するための一斉テストの本来の趣旨がこのところゆらいできているのではないだろうかと思う。国立大学の2次試験への「アシキリ」に使われたり、私立大学では自分の大学で試験をせず、センター試験の結果だけで合否を決める「センター利用」の入試などが一般化してきた。そういう背景もあるからか、基礎事項だけの確認問題であるべき大学入試センター試験は、その流れを持ちつつ同時に、大学入試問題としての振り落とす要素ももたねばならないというような状態に追い込まれているため、今日のような出題傾向になってきてしまったのではないかと僕は推測する。
来年は、新課程の高校生がセンター試験に臨む。英語ではリスニング試験が始まる。ここでセンター試験の方向性をしっかりと見据え、主張を持った試験にしてもらいたいものである。
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