大植氏来校

2004年12月13日 松野聖史

【要旨】
 大阪フィルハーモニーの音楽監督をなさっている大植(おおえ)氏が、今日の夕刻、現在の勤務校を来校され、吹奏楽部の指導をされた。その指導の様子を見ていて感じたことなどを述べた。
【キーワード】
 大阪フィルハーモニー 音楽監督 大植 指揮 指導 小澤征爾

 今日は、月曜日。朝の職員朝会があった。先月の職員会議で話があったのだが、放課後に大阪フィルハーモニーの音楽監督をしてみえる大植という方が来校され、吹奏楽部の指導をするということの確認があった。吹奏楽部の生徒は7時間目(一日45分7限時間割)を公欠とし、体育館の椅子並べなどを行うとのことであった。また、大植氏の紹介では、学校長いわく「第二の小澤征爾」だという、才能の持ち主とのこと。正直、僕は全く知らなかったので、来校が楽しみであった。
 ところで、小澤征爾という指揮者については色々と話を聞いている。日本人で、若くして海外に渡り、指揮者としての実力を見る試験が行われたときの話が印象に残っている。まず、小澤氏は、指揮をするときに楽譜を開かない。すべて覚えているのだという。だから、楽譜などなくてもいいのだそうな。また、その試験では、ある楽器が楽譜と異なるようにわざと演奏し、その個所を答えるというものであったそうだが、他の指揮者の中で小澤氏だけがすべて正確に言い当てたというのだ。それを聞いたとき、世界の小澤という指揮者はすごいなぁ思ったものだ。テレビなどでよく拝見するが、そういうときは普通のおじさんである。しかし、オーケストラの前に立つといわゆるオーラのようなモノが出るのか、さすが、世界の小澤だなぁと、ブラウン管越しにも感じるものがある。ブラウン管越しの視聴者にまでオーラが届くような才能の持ち主という印象である。
 さて、第二の小澤として紹介された大植氏。音楽の先生はもちろん、美術の先生や英語の先生が、大絶賛していた。英語の先生は「彼は日本にとどまっているような人ではない」というようなことを話していたし、何枚も大植氏の指揮したCDを持っているそうだ。もともとは、下火になってしまった外国の某オーケストラの指揮者になり、そのオーケストラを一気に盛り返したという立役者が大植氏なのだとか。
 で、4:30分。どんな指揮者なのかと思って体育館に見に行くと、近隣の中高生や、保護者なども見に来ていた。吹奏楽部は、東海大会参加の実力の持ち主ではあるが、不安なのか、音あわせなどをしていた。今日は、他の学校の指導もしてその後最後にこの学校へ来るとのことであったためか、20分遅れてやってきた。氏は、大勢のお偉いさん(?)に囲まれて先頭で入ってきたノーネクタイの小柄なおじさんであった。その後、約1時間の吹奏楽の指導を行っていただいた。以下、その様子を順に述べていこう。
 まず、体育館の入り口より取り巻きの先頭で、参上。周りの観客は、一斉に拍手でお迎えした。そのまま、学校長がマイクを取ろうとするが(たぶん紹介しようと思ったのだろう)、大植氏は、指揮台に上がり、観客のほうを振り返りもせず、いきなり本日予定されていた曲を振りはじめた!
 振り終わった後(初めから最後までの演奏)に、観客のほうを向いて何か話がされるという演出かと思ったら、それも全くなかった。そのまま1時間、頭から最後まで指導された。
 観客である僕たちは、全く無視されていたとしか思えなかった。音楽家というものはそういうものなのだろうか。観客に話ができるようにスタンバッていたマイクがかわいそうでならなかった。
では、指導内容で印象に残っているものを順に述べていく。本校の吹奏楽部はとてもレベルが高いとは思うが、いろいろ指摘されていた。
 いきなりの通し演奏時。僕が気が付いたことは、大植氏も楽譜を置いてはいるけれどページを開くことはなかったということだ。リタルダンドやリピート、テンポ等、いろいろ頭に入っているのだろうか。ちなみに、僕が吹奏楽の指揮をする(前任校では吹奏楽顧問)ときは、なんとか曲調を暗記して本番は指揮台に譜面を出さない。体中で音楽を表現するので(?)譜面台が邪魔なのである。
 その後、曲の雰囲気の理解の仕方を語っていた。まぁ、最近の子どもは実体験が少ないため、こういった指導は大切だと思うし、自分もしてきた。音楽も言葉であると思うし、筆者の言いたいことがあるはずなのだ。そして、各パートの指導。
 指導された点は次のようなもの。
 まずは、木管の低音部のタイ。フレーズの特に終わる部分がブツブツ切れている点が指摘された。たしかに指摘どおりだった。なかなか演奏者がその指示に従えず、結構な時間を取っていた。
 次に、盛り上がるところへの導入から破裂まで。思い切りが足りないとのこと。同感であった。本校の生徒の質から行くとまじめなところが出ており、思いっきりが足りないのであろう。特に、パーカッションのシンバルやティンパニ。スタンドシンバル、ドラなどが個別で指導を受けていた。僕も中高とパーカッションだったので、指導されるということはうれしいものだ。普通、なかなかパーカッションの指導はしていただけないのである。シンバルの1年生が、がんばって長い響きに挑戦していた。
 他には、金管のタッカのリズム。3連符のように演奏せよという(要は最後の音を少し重たくして引っ張る)指示が出ていた。これにはなかなか対応できていなかったようで、生徒たちもおおいに苦戦していたようだった。
 ところで、ほとんど指導されなかったのはフルートやホルン。問題がなかったのであろうか。
 指導する際に、小柄な体でエネルギッシュに棒を振っている様子が観客席からよくうかがえた。テレビ局の、情熱大陸という番組で、大植氏の追っかけをしているそうで、取材人も多くいた。本校も、記録担当の先生がビデオで記録していた。学校長もデジカメでいいアングルを目指して必死になって大植氏を撮っていた。その様子は、観客席から見ているととても異常で、なんで学校長が・・・? しかも、アングルがきまるまでこだわる方のようで、結構長い間構えてようやっとフラッシュが光るので、その間の学校長が身動き一つしないのも観客席から見ているととてつもなく妙な光景だった。
 最後に、全体の通しを終えたあと、終了の挨拶もなく、本校の吹奏楽講師がサインをお願いしたことを発端にして、大多数によるサイン攻めがあった。僕は有名人のサインにはほとんど興味がないのだが、生徒たちや、先生方まで大植氏の周りに群がっている様子は、どうも理解に苦しむ光景であった。後で聞いた話だが、ちゃんと生徒たちは、楽譜にサインをもらったそうで、とても喜んでいたようだ。ちなみに、色紙を出した生徒はいなかったらしい。
 今回、大植氏を間近で見て、いろいろ指摘されているのを聞く機会があったのはとてもよかったと思う。これは、背中だけ見ていたかもしれないのだが、僕にはテレビのブラウン管を通してみる小澤氏のようなオーラが大植氏から発せられているのをまったく感じることができなかった。

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