真空のエネルギー

2004年8月1日 松野聖史

【要旨】
 名古屋大学の毎年行っている「天文学の最前線」初日に参加し、「真空のエネルギー」というものについて知った。ずっと、"エネルギー保存則に矛盾するやんか"と思っていただけに、驚きがあった。
【キーワード】
 真空のエネルギー ダークマター ダークエネルギー 銀河 宇宙

 毎年、夏休みに名古屋大学と名古屋市科学館が企画している一般向けの公開講座「天文学の最前線」である。時間があれば、たいてい参加することにしている。今年度は、3日間にわたって行われるが、はじめの2日参加することにした。
 2日間ともに出てきた話題であり、いまいちごまかされたような気がしてならないのだが、印象に残ったのは、タイトルにもある「真空のエネルギー」というものについて書いておくことにする。
 2年位前、NHKスペシャル「宇宙」でかなり後半の話に出てきた言葉だったと思うが、なんとなく記憶に残っていたので今回とくに印象に残ったのではないかと思う。
 その「宇宙」という番組では、宇宙は1つではなく、2つも3つもあって、砂時計のような感じでわれわれの宇宙とくっついているらしい。そして、それを可能にするのが「真空のエネルギー」で、真空がエネルギーを生み出すことで、宇宙は現在の姿を維持できるというような内容だった。
 そんで、それを聞いたときに「生み出す」というナレーションの言葉に「うそやろ〜?」と耳を疑ったものだ。「真空がエネルギーを生み出す」のなら、エネルギー保存則に矛盾するし、第一そんな第一種永久機関が存在できることになってしまう。まぁ、真空自体、むかしからよくわかっていないので(実際「エーテル」理論もあり、光が波か粒子かの説明にも使われている)エネルギーを生み出してもおかしくはないかもしれないが、そんなことをするとエネルギー保存則が破壊する! ・・・などと考えていた。
 理論屋さんが、どうしても計算上そうしないとうまく説明できないので、仕方なくエネルギー保存則が成り立たないかもしれないが真空(ここでは宇宙空間なので真空でないかもしれない)にその責任をぶつけたに過ぎないのだろう程度に考えていた。
 で、今回の公開講座。
 事の発端は「ダークマター」と「ダークエネルギー」。
 宇宙からの人類の知る情報から(具体的には物質の存在比のようなものらしいが)、宇宙は「物質」と「ダークマター」と「ダークエネルギー」に分けられるらしい。全宇宙の約4分の3が「ダークエネルギー」でのこりの半分づつが「ダークマター」と「物質」だそうだ。
 僕は専門ではないため、いまいちよくわからないのだが、「ダークマター」は「物質」かもしれないという話が記憶に残った。どうも、現在われわれが知ることができたものが「物質」に相当し、たとえば暗黒にしか見えずそれが物質かどうか判断できないものなどを「ダークマター」と称しているのだそう。だから、将来よい観測装置ができたら「ダークマター」→「物質」の変換もありうるという認識でよいとのこと。よくわからんので「ダーク」がついているんだそうな。
 ところで、それらを除いても、約4分の3を占める膨大な「ダークエネルギー」というものが気になってくる。いったいなんなのか。専門家たちはよくわからないので「ダーク」だという。しかし、話を聞く中でわかったことがある。それは次のようなことだ。
  ・われわれの知ることができるエネルギーはエネルギーの差分のみである
  ・真空にはわれわれの知ることができないエネルギー(変化していない)がどれだけあってもよい
  ・このわれわれの知ることができない真空のエネルギーが変化すると、われわれの知ることのできるエネルギーとなり、エネルギーが真空から生まれたかのように見える
 要は、エネルギーは、知ることができない形で宇宙空間にむちゃくちゃ多く存在していてもよいということだ。言われてはっと気づいたのだが、矛盾はしていない。たとえば、高校での重力場の位置エネルギーを扱うとき、位置エネルギーの基準は、人が勝手に決められる。宇宙空間のポテンシャルでも、その基準は無限遠にとるではいか! まったく、根拠がないのだが、扱いやすいという理由だけで(?)そこにとっており、よく考えもせず定義として扱っている。
 そう考えると、エネルギー保存則自体は矛盾していないことになり、真空がエネルギーを持っていてもよいことになる。
 で、「ダークエネルギー」とはなにかというと、そういった宇宙空間(真空?)のわれわれの知ることのできないエネルギーを言うのである。
 と、まぁ、ごまかされたようなそうでもないような気分になった。
 さて、銀河形成や、宇宙の仕組みを考える上で「真空のエネルギー」モトイ、「ダークエネルギー」の存在が必要になるらしいが、これは、つい最近わかってきたことなのかというと、なんとそうではないという話を聴いた。
 実は、「繰り込み理論」という量子力学での計算方法がこの「ダークエネルギー」の存在を「ごまかした」理論なのだという。つまり、理論屋さんはもうずっと前から、なんらかのエネルギーが生まれて出てこないと計算結果が変であると気づいていたというのだ。だが、やはり、エネルギー保存則に矛盾するとか気持ちが悪いなどの理由(かどうか知らんが・・・)にて、うまくごまかして、そのエネルギーの存在を机の引出しに隠してしまった。それが、ここにきてにっちもさっちも行かなくなり、また机の上に戻ってきたということなのだそうだ。
 会場は大受けに受けていたが、「繰り込み理論」がそういうものだとは非常に興味を覚えた。大学院で学んだときは、「発散する項をうまく発散しないようにしてやる方法」というような紹介を受けたのだが、たぶん、この「発散する項」こそが、宇宙の隠してはならない部分であったのであろうかと思う。
 科学の世界はなかなか劇的だ。それを実感した自分にとってとてもよい公開講座だった。なにより、一般公開講座であるのにもかかわらず、満員御礼で、専門家でないであろう中年以降のおじさんおばさんが一生懸命話を聴き、的を射た質問もなされ、専門家が答えに困るような場面もあり、こういった機会があったときはたして、今の高校生が大人になってから参加するのであろうか? と感じずにはいられなかった。まさに、知的欲求があふれ、僕のほうがパワーをいただくとてもよい空間だった。

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